表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

在庫爆撃再び!? アマゾーネス便リベンジ

王都の中央広場は、朝から重苦しい空気に包まれていた。

石畳の中央には、真新しい演壇が設置され、その周囲を鎧姿の兵士たちが警戒している。

今日は王都と魔王領との和平交渉に関する大事な議会――そのための条約書を届けるのが、俺の仕事だ。


端末にはこう表示されている。

【依頼品:和平条約書】

【届け先:王都議会場】

【時間指定:午前、議会開始前】


「……これは絶対にミスれねぇな」

俺は深呼吸し、荷物を抱え直す。

いつもみたいな焼きそばパンやアイスとは違う。

これは国の行く末を左右するほどの重要品だ。


……と、そこで。


「在庫の準備は整ったぁぁ!」


ドンッと爆音が響き、広場に巨大な配送ゲートが開いた。

そこから現れたのは――見覚えのある無駄に派手な制服姿。


「お前は……アマゾーネス便!」

俺が思わず叫ぶ。


そう、前回トイレットペーパー千個を誤配し、町を大混乱に陥れた張本人だ。

両手を広げてポーズを決める姿は、妙にキマっていて余計に腹が立つ。


「ふっふっふ! この大事な条約書の配達……今度こそ我らアマゾーネス便が奪い取ってやる!」


「やめろ! お前らの“在庫爆撃”はもうコリゴリだ!」


だがアマゾーネス便は聞く耳を持たない。

「在庫こそ正義! 在庫こそ未来! 在庫を抱えてこそ安心! だから条約書もまとめ買いするべきなのだ!」


「条約書にまとめ買いなんてあるかぁ!」

俺のツッコミに、周囲の貴族や兵士がどよめく。


「な、何だあの業者は……!」

「前にうちにも“頼んでない石像百体”が届いたぞ……!」


嫌な予感しかしない。

俺は荷物を抱え直し、深くため息をついた。

「……まったく、また面倒なのが来やがったな」


条約書をめぐる再配達バトルが、いま始まろうとしていた。


「在庫投下ぁぁぁぁ!」


アマゾーネス便が叫んだ瞬間、配送ゲートから大量の荷物が降ってきた。

ドサッ! ガラガラッ!


「な、なんだこれは!?」

「俺の屋敷の前にトイレットペーパー千個がぁ!」

「うちには謎の石像百体が届いたぞ!」


広場中が一瞬で荷物の山に飲み込まれていく。

木箱、樽、見たことのない魔界産のキノコまで転がってきて、町娘が悲鳴を上げる。


「やめろって言ってんだろ!」

俺は必死に荷物を避けつつ叫んだ。

「条約書は国の命運を決める大事な品なんだ! トイペと同じ扱いにすんな!」


だがアマゾーネス便は高笑いしながら胸を張る。

「在庫は多ければ多いほど安心! 条約書も一万部刷ってバラ撒けばいい!」


「そんなんで国が治まるか!」

俺のツッコミが広場に響く。


貴族たちも怒声を飛ばす。

「誰かあの業者を止めろ!」

「議会が始まる前に片付けろ!」


だがさらなる混乱を呼んだのは――


「待てぇい!」


勇者アルト=ブレイヴが剣を振りかざして登場した瞬間だった。

「これは魔王の策略だ! 俺が成敗して――ぐあっ!?」


ドサササァッ!


次の瞬間、上空から落ちてきた大量のトイレットペーパーに埋もれていく勇者。


「お、おい勇者様が紙に……!」

「消耗品に消される勇者って新しいな……」

「俺は! 消耗品じゃなあぁぁぁぁぁい!!」


山の中から必死に叫ぶアルト。

だが誰も助ける余裕はなく、広場は在庫の山に占拠されていった。


「……はぁ。ほんっと、こいつが一番巻き込まれ体質だよな」

俺は条約書を抱え直し、次なる一手を考えた。


在庫の山に飲み込まれた広場は、もはや戦場だった。

転がるキノコが勝手に胞子を吐き、石像が倒れては貴族の馬車を押し潰す。

「これは地獄か……」

俺は眉間を押さえながら、抱えた条約書を見下ろした。


ピコン。

端末が淡く光り、メッセージが表示される。

【シンクロ対象:“和平条約書”】


「……やるしかねぇな」

俺は深く息を吸い込み、声を張った。

「《荷物シンクロ》!」


次の瞬間、全身を貫く冷たい理性の波。

心が研ぎ澄まされ、視界がきっちりと枠で区切られたように整う。

「……なるほど。文章は論理、道筋は明確。配達ルート、最適化完了」


「な、なんだあいつ……急に冷静になったぞ」

町人たちがざわめく。


俺は端末を操作し、足元に光を走らせる。

「《ルート開拓》……議会場へ一直線」


眩い光のラインが、在庫の山を突っ切って議会場へと伸びた。

「これでショートカット完了。時間厳守、実行に移す」


条約書を抱え、俺は光の道へと飛び乗る。

在庫の雪崩を冷静に読み切り、転がる荷物の角度を一歩先で避ける。

フェアリー便が驚きの声を上げる。

「わっ、めっちゃクール! いつもの爽やか兄ちゃんと別人じゃん!」


「条約書は国の命運を決める。ミスは許されない」

俺は短く言い切り、走り抜ける。


ゴーレム便が無言で在庫を押しのけ、フェアリー便が宙を飛びながら道を照らす。

仲間たちのサポートを受け、俺は一直線に議会場へ突き進んだ。


背後でアマゾーネス便が叫ぶ。

「在庫は正義ぃぃ! 在庫に飲まれるがいい!」


だが俺の足取りは止まらなかった。

「正義は、届け先を守ることだ」


広場の混沌を背に、光のルートがまっすぐ議会場へ導いていく。


議会場の重厚な扉が目の前に現れた。

俺は最後の一歩で光のルートを駆け抜け、条約書を抱えたまま演壇の上に飛び乗る。


「お届け物でーす! 午前指定、時間通り!」


兵士たちが慌てて剣を構えるが、その前に国王が立ち上がった。

「なにっ……まさか、条約書か!?」


俺は胸を張り、条約書を差し出す。

端末がピコンと鳴り、【配達完了】の表示。


「確かに受け取った……!」

国王の目に光が宿り、周囲の貴族たちもどよめいた。

「これで和平交渉が始められる! よくぞ届けてくれた!」


俺はにっこり笑って答える。

「時間指定は守りますんで」


 


その頃、広場では――


「ぐわぁぁぁぁ! 在庫に……押し潰され……!」

勇者アルトが大量のトイレットペーパーと石像の下で必死に足をばたつかせていた。

「俺は! 在庫処分の犠牲じゃなぁぁぁい!」


聖女が呆れ顔でため息をつく。

「勇者様……もう静かにしていてください」


 


やがて、アマゾーネス便がゲートから姿を現した。

「ふん……条約書の配達、貴様の勝ちだ」


「最初から勝負じゃねぇんだよ。届け先に届ける、それだけだ」

俺の言葉に、アマゾーネス便はしばし黙り込む。


やがて肩を震わせ――

「在庫は正義……だが、お前の“誠実さ”もまた正義かもしれんな」


そう言い残し、彼らは再びゲートの向こうへ消えていった。

仲間になるのも、時間の問題だろう。


 


国王が改めて俺に向き直る。

「速水タクトよ。お主の働き、我が王国はしかと見届けた」


「へへ……まだまだ配達先は山積みですから」

俺は肩をすくめ、爽やかに笑った。


 


次回、「天空再配達!? ドラゴン便との合同任務」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ