特大荷物は誰の腕に!? ゴーレム便VS配達員の怪力対決!
魔王城のふもとに広がる城下町は、今日も大騒ぎだった。
住人たちが広場に集まり、汗だくで巨大な荷物を見上げている。
「こ、これは無理だ……」
「誰も持ち上げられないぞ!」
俺が視線を向けると、そこには高さ三メートルはあろうかという石板が鎮座していた。
依頼書を確認すると――
【特大荷物:魔導書庫用の巨大石板】
【宛先:魔王城・大書庫】
【時間指定:午前】
「……でかすぎるだろ。これ、普通の玄関通るのか?」
俺が呆れていると、ゴゴゴゴ……と地響きが鳴った。
振り返れば、岩の塊のような巨体がのっそりと歩いてくる。
全身に苔が生え、目だけが青白く光る――ゴーレム便だ。
「……配達……する」
無口にそう告げると、ゴーレム便は両腕で石板を抱え上げた。
ギギギ、と大地が軋む音。
圧倒的な腕力で持ち上げたのは見事だが……
「ちょ、待て待て待て! そっちの通路は狭いって!」
俺が慌てて叫ぶ間もなく、ゴーレム便は大通りを無視してそのまま建物の角へ突進。
ドガァァァァン!
「壁がぁぁぁ!」
「我が家の屋根がぁぁ!」
住人たちの悲鳴が響き渡る。
ゴーレム便は壁の一部を粉々にしながら、淡々と石板を運び続けていた。
「……効率……よし」
「いや、全然よくねぇよ!」
俺は頭を抱える。
どうやらゴーレム便、力はすさまじいがルート確認の概念が存在しないらしい。
このままじゃ城下町が廃墟になる。
「はぁ……仕方ない。ここは俺が仕切らないと」
俺は端末を取り出し、ルート検索を開始した。
配達員VS岩石巨人。
筋肉じゃなく石の力との勝負が、いま幕を開けた。
「どけどけぇぇ! この勇者アルト様が来たからには、もう安心だ!」
威勢のいい声とともに、例の顔が登場した。
勇者アルト=ブレイヴ。
その背後には聖女と騎士、魔導士の三人も暑さにぐったりしながらついてきていた。
「おお、勇者様が……!」
「きっと石板を軽々と……!」
住人たちの期待に満ちた声を背に、アルトは胸を張って石板へ歩み寄る。
「フフン……こんなもの、俺の剣の腕でどうとでもなる!」
「いや剣で持ち上げるもんじゃないだろ」
俺の突っ込みは届かない。
アルトは渾身の力で石板に両腕を回した。
「ふんぬぅぅぅぅ!」
……ピキッ。
「……ッッッッ!!!??」
勇者の顔が真っ青になり、そのまま地面に崩れ落ちた。
「勇者様!?」
聖女が駆け寄る。
「腰が……腰が完全にいってます!」
騎士も真剣な顔で言った。
「これは……ギックリ勇者だ」
「誰がギックリ勇者だぁぁぁ!」
アルトは涙目で叫んだが、立ち上がれない。
その間にも、ゴーレム便が無言で再挑戦していた。
石板を抱えたまま、またも細い路地に突っ込もうとする。
「やめろ! そっちはパン屋の壁だ!」
俺が叫ぶと同時に――
ドガガァァァン!
「パンがぁぁぁ!」
「俺の焼きたてクロワッサンが粉々にぃ!」
住人たちが泣き叫ぶ。
ゴーレム便はしかし、崩れた壁を気にも留めず、淡々と呟いた。
「……支障なし」
「いや大ありだわ!」
俺は頭を抱えた。
勇者は腰を押さえて地面を転がり、ゴーレム便は街を更地にしかける。
その光景に、俺の胃はもう限界寸前だった。
「……ったく。ここからが本番だな」
俺は端末を操作し、光のルートを描き出す準備を始めた。
ゴーレム便は無言のまま、再び石板を持ち上げた。
ギギギ……と音を立てながら、その巨体に似合う圧倒的な怪力。
「……配達……する」
淡々とした声が響き渡る。
「いやいやいや! だからその方向は狭いって!」
俺が叫ぶ間もなく、ゴーレム便はまた別の路地に突入しようとする。
「もうやめて! これ以上、街が持たない!」
住人たちが泣きそうな声を上げる。
……仕方ねぇ。こっちも本気を出すしかないか。
俺は石板の一端に手をかけた。
「《荷物シンクロ》!」
瞬間、体の奥から熱が走り、筋肉が爆発的に膨れ上がる。
今持っている荷物は【魔導書庫用の石板】。
その重厚さに同調し、俺の腕にも鋼のような力が宿った。
「なっ……!? 配達員が、ゴーレムと同じ重量を!?」
騎士が目を見開く。
勇者は腰を押さえながら涙目で叫んだ。
「そ、そんなはずはない! 勇者より力持ちな配達員なんて……!」
俺は石板の端を持ち上げ、ゴーレム便とにらみ合った。
「怪力だけならお前が上かもしれない。けどな――」
一歩踏み込み、狭い路地を測る。
「配達は“繊細さ”だ。時間とルートを守るのが俺たちの仕事なんだよ!」
ゴーレム便はしばし沈黙し、石の瞳を俺に向けた。
「……比較……する」
そのまま石板を支え合う形で、二人の配達員は無言の勝負に突入した。
片方は無骨な力任せ、もう片方は精密なバランス取り。
石板がギシギシと鳴り、街の人々が固唾を飲む。
「負けられねぇ……これは俺の配達だ!」
俺は歯を食いしばり、ルートを光で描きながら一歩ずつ進んだ。
街を破壊するか、時間通りに届けるか。
その差が、勝敗を分ける。
石板を支える腕が震え、汗が額を伝う。
ゴーレム便の巨腕もまたきしみを上げ、石板がわずかに傾いた。
「……搬入……する」
淡々とした声が響くが、その進路はやはり狭い路地。
「そこじゃ入らないんだよ!」
俺は石板を引き寄せ、光のルートを展開する。
《ルート開拓》で導いた最短かつ最安全の道筋が輝き、石板を正確に導いていく。
ゴーレム便の足が止まり、青白い瞳がわずかに揺らめいた。
「……合理的」
その瞬間、石板は狭い路地を抜け、目的の魔導書庫の前にたどり着いた。
俺は最後の力を込め、石板を静かに地面へ下ろす。
「ふぅ……配達完了」
端末がピコンと鳴り、【配達完了】の文字が浮かび上がった。
住人たちが歓声を上げる。
「やった! 本当に届けてくれた!」
「勇者より配達員だ!」
「これで書庫の改修が進むぞ!」
ゴーレム便は石の巨体をわずかに傾け、俺を見下ろす。
「……評価。お前の配達……効率的」
それは、無口な巨人からの最大限の賛辞だった。
「おう、ありがとうな」
俺が笑うと、ゴーレム便は無言のままうなずき、静かに背を向けた。
――仲間として認めてくれたのだろう。
そのとき、広場の隅で呻き声が響いた。
「ぅ……ぐ……腰が……」
勇者アルトが腰を押さえながら、必死に立ち上がろうとしていた。
「勇者様、無理です!」
「安静にしないと!」
聖女と騎士が慌てて支えるが、アルトは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「俺は……ギックリ勇者じゃなぁぁい!」
しかしその瞬間、再びピキッという音とともに膝から崩れ落ち、地面に大の字。
城下町は爆笑に包まれた。
俺は肩をすくめ、端末に表示された次の依頼を確認する。
【お届け先:謎の倉庫】
【商品:大量の“在庫”】
【指定:いつでも】
「……在庫? なんだこれ」
嫌な予感しかしない。
遠くの空で、奇妙な歌声が響いた。
「どこからでも届けまぁす♪ アマゾーネス便〜♪」
俺は額を押さえた。
「やっぱりな……」
次回、「在庫無限!? アマゾーネス便の誤配送1000連発!」