異世界配達のお仕事
──コン、コン。
いや違う。ここはもっと爽やかにいこう。
「ピンポーン! お届け物でーす!」
俺は魔王城の重厚な玄関で、笑顔全開の声を張り上げた。
勇者パーティが命懸けで突入するはずの門に、インターホン感覚で立っている自分。
──そう、俺は異世界配達員。
かつて日本で宅配業者として働き、年末年始のアマゾーン大特売や再配達地獄で過労死。
気づけばこの世界で「ジョブ:配達員」を与えられていた。
最初は絶望した。
だが俺の配達はチートだった。
妨害を突破する《オンタイムデリバリー》。
荷物に応じて能力が上がる《荷物シンクロ》。
通った道を転移ルートにできる《ルート開拓》。
そして今、勇者より先に魔王城へ。
「……ど、どうなっている?」
扉の向こうから魔王の声。やべえ、本当に出てきた。
俺は伝票を差し出す。
「サインお願いします! 本日午前指定、“魔王様ご本人”宛てです!」
ガチャリ、と扉が開き、威厳に満ちた魔王が現れた。
だがその手は震えていた。
「……受け取り印鑑を持っていないのだが」
「ご安心ください! シャチハタでも大丈夫です!」
城内がざわめく。魔王が印鑑を探して右往左往。
勇者との死闘になるはずの場面が伝票処理にすり替わっていた。
「魔王様! 剣を抜いてください!」
「いや待て! 午前指定を破ればクレームが……!」
そこへ勇者アルト率いる一行が到着。
「待て! 魔王討伐は我らの使命! 配達員風情が勝手に来るとは!」
「だって午前指定でしたから」
勇者の顔が真っ赤に。魔王まで伝票を震わせていた。
アルトは剣を掲げた。
「ふざけるな! 魔王を討つのは勇者だ!」
「でも時間指定を守るのは配達員です」
俺は木箱を片手で軽々と持ち上げた。
「中身は鉄鉱石。今《荷物シンクロ》で筋力ブースト中です」
筋肉が膨れ上がり、騎士より逞しい腕に。
魔王すら唖然とする。
「な、何だ貴様は……勇者よりも勇ましいではないか」
「いえ、ただの配達員です」
勇者は歯ぎしりしながら挑む。
「ならば力比べだ!」
俺は木箱を床に置いた。
「どうぞ」
「ふん!」
勇者は必死で持ち上げるが、びくともしない。
「う、動かん!?」
俺は片手でひょい。
「二百キロですね」
勇者が絶叫する中、魔王は頭を抱えた。
「……何だこの茶番は。我と勇者の決戦でなぜ配達員と力比べを……」
俺は伝票を差し出す。
「サインお願いします。再配達だともっと面倒なんで」
魔王はため息をつき、伝票にサイン。
「……勇者よ、悪いが後にしてくれ。これは午前指定だ」
「魔王までぇぇぇ!」
勇者の叫びを背に、俺のステータス画面が光る。
《配達完了》の文字。
「さて、次の配達へ行きます。まだ時間指定が山ほどあるんで」
俺は転移ポイントを起動し、光に包まれて消えた。
──異世界最速の配達員、速水タクト。
今日もまだまだ配達先は山積みだ。
次回、「王都の貴族屋敷に三重結界!? 再配達地獄の始まり」
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