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土曜日AM7:00 BOTAN12歳

 おはよう、という挨拶は交わさない。少女には声帯がないからだ。食事も排せつも睡眠も必要ない有機セクサロイドに搭載されている器官は、ごくわずかだ。時々「あえぎ声がないと燃えない」という客からの苦情があると聞くが、そこは賛否両論だろう。

 BOTANは、お手伝いロボットの類とは違う。

 少女の物腰は12歳だというのに、すでに艶めいていて見る者の情欲を誘う。そのように作られているからだとは分かっていても、背徳感に襲われる。この背筋がぞくぞくするような欲望を感じながら抱く少女というのも、B型のウリである。でなくば赤ちゃんからなど面倒な育て方を、誰がするもんか。

 客によっちゃ3歳や4歳の幼女時代から手をつける、もしくはアンプルを抜いちまう、とも聞く。まだ法律で規制されていないのが不思議なほどの商品だが、きっと、この手の売買は規制されても平気で続けられるのだろう。

 手軽に楽しみたいならA型でいいのだ。17歳の娘が訪問してきてくれる買い方ができる。

 とはいえ俺はB型を購入したにも関わらず、まだ少女の秘部にすら触れてもいない。この12時間でしたことと言えば抱きしめてやったことと頭を撫でてやったこと、添い寝して睡眠の真似ごとをしたことぐらいである。長い夜だったが、長さを感じずにいられた。この子のおかげなのは間違いない。

 BOTANは固有名詞でなく、このタイプへの商品名だ。だが有機物だから顔は個々に違う。なるだけ整った優秀な遺伝子ばかりが用いられているが、一体ずつ微妙に違うものだし、育ってくれば、もっと違いが出て来る。

 少女が俺に見せてくれている笑みは間違いなく、世界でひとつだけの笑顔だ。

 黒い髪、白い肌、赤い唇。まさに牡丹の花のように、楚々とした、それでいて華やかかつ上品な、大輪の花を思わせる少女。

 俺は彼女を「レン」と呼ぶことにした。恋愛の恋。俺がこれから恋する少女だ。彼女には耳がないので、囁いてやっても聞くことができない。だから胸の中でだけ呼びかける。レン。

 レンにも俺が見えている。しゃべれもしない、聞けもしないが視覚だけは装備されている。搭載されている人工脳のモデルはハムスターだっただろうか。五感のうち、視覚だけがある。触覚もない。なくていいだろう。彼女らは演技を心得ている。そうプログラムされている。

 成長の早いレンは、裸だ。

 服など、着せてる端から育って着れなくなってしまう。風邪もひかず3日ともたない身体なのだ、普通は着せるだけ無駄というものだ。

 朝日の中に座らせて、俺はレンをスケッチしてみる。いや、クロッキーと呼ぶべきか。じっくり描いている間に、どんどん彼女は育ってしまう。少女のわずかな膨らみが、じわじわと盛り上がり、ふっくらと丸みを帯びていく。まっすぐな棒きれみたいだった足首が、きゅっと締まって細くなり、代わりに太ももがふわりと曲線を描いていく。5分描いている間にレンの線が変わってしまう。

 写真より、絵がいい。性能のいいカメラを持っていないせいもあるが、俺は、俺の目から見えている彼女の一瞬を描きだしてみたいに過ぎない。どこかに売るだとかいうわけではなく、ただの趣味なのだが、一部のファンがついてくれているようではある。試しにWEBショップを作ってみたら、これが当たった。

 クロッキーを描きためたら、次は絵の具の出番だ。だが、この週末はクロッキー以上のことをしない。目を放している隙に、もたもたしている間に、レンが育ってしまうから。

 だが裸ばかりもつまらない。

 レンの年が高校生ぐらいに見え始めた頃、俺は時計の存在を思い出して、そちらに目を向けた。12時。5時間、没頭していた。

 俺が27歳なことを考えると、年齢的には妥当な線か。兄妹に見えないこともない。

 クローゼットの奥から引っぱりだして来た服は俺のものじゃない。ちゃんと女性用だ。TシャツとGパン、それからカーディガンも。手渡すと、レンは頷いて着こみ始めた。必要最低限の生活知識は遺伝子に組み込まれている、それがセクサロイドである。もちろんロボット三原則も必須である。

 次いで、彼女の髪を梳いてやる。レンはなされるがまま微笑をたたえたまま、じっと座っている。俺が手を取るまで彼女は動かない。

 着替え始めてから完成までを、たっぷり一時間かけた。

 18歳になった彼女を連れて俺は、町へと繰り出した。

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