第9話「ぶっきらぼうな新入り、現る」
朝のコンビニ。
要は品出しを終え、レジカウンターに置いたパンの数を確認していた。
「スティックパンと、カレーパン……あと、どんぐりクッキーも在庫増えてるな」
コンビニが“レベルアップ”するたびに、商品がちょっとずつ増えていく。
最近では「ピナおすすめ」と書かれたどんぐりコーナーも客に人気だった。
そこへ。
「てんちょー! 新しい人材、連れてきましたっ!!」
元気な声とともに、ドアがウィーンと開く。
「……あん? ここか?」
入ってきたのは、赤い目をした褐色肌の少年。
白髪のショートヘアに黒いローブをまとい、鋭い目つきで店内を見回している。
「ちょ、リュカ! 入るなら靴拭いてって言ったでしょ!? 床がピカピカなのにぃ〜!」
「うっせぇよ馬鹿ピナ。お前が呼んだんだろ」
「あぅ……」
ピナがしょんぼりした瞬間、リュカは要に向き直り、ぺこりと頭を下げた。
「リュカ。森の北に住んでる。ピナの頼みで来た。……ここ、働ける場所か?」
「あ、あぁ。俺がこのコンビニの……まぁ店長みたいなもんだ。要っていいます」
「じゃあ、店長。とりあえず一日、試してみる」
それだけ言うと、リュカはカウンターの裏にスッと移動し、何の説明もなく商品整理を始めた。
「ちょ、ちょっと! 勝手に触らないで! そこはピナの――」
「お前が触ると転ぶだろ。さっきも角で棚にぶつけてたし」
「うぅ……覚えてたの……」
リュカは手際よく棚を整えながら、魔力感知の目で商品を確認する。
「ここの商品、全部“外界の魔力”まとってる。普通のやつには扱えねぇな」
「……外界の?」
要が尋ねると、リュカはぼそっと返した。
「この世界のじゃねぇって意味。たぶん、あんたの世界のもんだろ、店長」
要は、思わず棚のどんぐりクッキーを見つめた。
「……そんなの、食べ物にも分かるのか」
「魔力に敏感な目をしてるだけ。俺の目には“色”が見える」
ぶっきらぼうで無表情。
でも、動きには無駄がなく、言葉も鋭い。
そんなリュカを横で見ていたピナは、むぅ〜っと口を尖らせる。
「リュカはこうやって、すぐピナを子ども扱いするのですっ……」
「事実だろ。あとカゴ、逆さまに積むなって言っただろ、馬鹿ピナ」
「うぅ……副店長なのにぃ……」
「それも意味わかんねぇ称号だな」
そんな二人のやりとりに、要はクスッと笑った。
(なんだかんだ言いながら、仲は良さそうだな)
──こうして、異世界コンビニに新しいスタッフ・リュカが加わった。
無愛想だけど、頼りになる戦力。
その日から、コンビニはちょっとだけ“硬派”になった気がした。
(つづく)