第8話「はじめての団体様、ご来店です」
午前。いつものように、コンビニは静かに営業中。
ピナは、レジ台の下で丸くなってうたた寝中。
要はというと、窓際に置いたスティックパンの棚を少しずつ拡張していた。
「ちょっとずつだけど、パンの種類が増えてきたな。次は……カレーパンとか出てこないかな」
魔力に反応して増える“商品スロット”。
今のところ、タオル・水・パン・簡易ライト・乾き物・飴・目薬・スティックパンといった具合に、少しずつ“現代アイテム”が現れている。
「でも……次の補充、やたら時間かかったな」
在庫の出現ペースには波があり、要の“仕事ぶり”や“来客数”と関係があるようにも感じる。
不思議な仕組みだが、もう驚くのにも慣れてしまった。
──その時、遠くから何かの足音が聞こえてきた。
「ん……? ひとりじゃない?」
ザッ、ザッ、ザッ……ザッザッザッ……
数人分の足音が重なって、森の木々の向こうから近づいてくる。
やがて、低いざわめきと共に、3人組の影がコンビニの前に姿を現した。
「う、うわああっ!? し、しゃ、喋る建物だあぁ!!」
「バカ、落ち着け! おそらく、魔術か……いや、霊具か……」
「……でも、入口が開いたぞ……中、誰かいるんじゃ……」
“自動ドア”が反応して、彼らの前でゆっくりと開いた。
「ようこそ、コンビニへ」
要は、静かにレジの奥から立ち上がり、彼らを迎えた。
──やってきたのは、旅の途中だという三人組の若者たち。
•軽装で武器を背負った細身の剣士
•小柄な法術使い
•背中にでかい荷物を背負った道具屋見習い
どこか緊張した面持ちで、店内をきょろきょろと見渡している。
「これが……噂の“なんでも売ってる店”……」
「光ってる石の箱があるぞ! 冷たいっ……な、なんだこれ!?」
「しっ、静かにしろってばっ……!」
店内の静寂に慣れていた要の耳には、彼らのざわめきがむしろ懐かしく感じた。
「とりあえず、水と、非常食用のパンと、あと……」
剣士の青年が、財布のような布袋を出そうとした瞬間──
「うわっ! お客さんだー!? うわわわ……ご、ご案内いたしますぅぅっ!!」
ピナが慌ててカウンターから飛び出し、棚を滑り、尻尾でカゴをなぎ倒し、見事にレジに突っ込んだ。
──ドシャッ!
「ぎゃふっ」
「ピナ!?」
「だ、大丈夫ですっ! ピナは無敵ですっっ……(ううっ、いたい……)」
要はため息をつきつつ、ピナの頭をぽんと叩いた。
「はいはい、がんばったがんばった。レジは俺がやるから、お客さんの案内お願い」
「……はいっ!」
少ししょんぼりした顔でピナが立ち上がり、旅人たちに「こちらですっ」と案内する。
最初は戸惑っていた3人も、ピナのしっぽに目を奪われたり、陳列棚のどんぐりに笑ったりして、少しずつ緊張が解けていった。
(こうして“初めての団体様”は、思ったよりスムーズに買い物を終えた)
彼らは帰り際、何度も振り返ってこう言った。
「なんか……また来たくなるな、この店」
──そしてその日の夕方。
再び静かになったコンビニで、要はぼそっとつぶやく。
「……お客さんが増えたら、ピナだけじゃ回らないかもなぁ……」
ピナは、倒れたカゴの中でくるくる回りながら、スティックパンを片手にこう答えた。
「じゃあ、ピナのお友達を呼んできますねっ! スゴく強くてぶっきらぼうで優しい子ですっ!」
「えっ、そうなの? ……って、待って、強いって必要……?」
コンビニ、拡張中。
次の波は、もうそこまで来ていた。
(つづく)
《オマケ:てんちょーは、すごいのです!》
その日の夜。
ピナは、棚の隅っこで自分の小さな寝床を整えていた。
タオルケットをきゅっ、と巻いて、ほっとひと息。
「……今日も、がんばった……!」
ぽふっと倒れこむと、ふわふわのしっぽが顔にかぶさった。
「えへへ……でも……ピナ、がんばれるの……」
小さな声で、ぽそりと呟く。
「だって……てんちょーが、ピナのこと……“副店長”って呼んでくれたから……!」
思い出して、顔がぱあっと明るくなる。
「“副”でも“店長”……!! なんかすっごく偉い人みたい!!」
ごろんごろんと転がりながら、しっぽをぶんぶん振り回す。
「えへへ……ピナ、副店長として……あしたもどんぐり売る……! てんちょーのために……!」
そして眠りにつく前、タオルケットをぎゅっと抱きしめながら、にやにやしながらこう呟いた。
「いつか……“てんちょー”って呼ばれるの……二人ともだったら、いいなぁ……」
──それは、誰にも聞こえない、小さなつぶやき。
翌朝、どんぐりコーナーには手書きの紙が追加されていた。
\副店長おすすめ!/
今週のどんぐりは、カリッと仕上げました!おひとついかがですか!
(おわり)