第6話「剣とタオルケットと、ふわふわのしっぽ」
――ザッ、ザッ。
重たい金属の音と、しなる革の擦れる音が森に響いていた。
歩いているのは、ひとりの女剣士。
銀髪を短く束ね、背には長剣、腰には小太刀を佩く。
切れ長の目、鋭い視線、寡黙な雰囲気。
その姿は、まさに“孤高の剣士”そのものだった。
彼女の名は、セルナ=ヴァルク。
名の知れた実力者で、危険な森を一人で踏破できる数少ない存在だ。
(……この森に、“癒しの拠点”があるという噂……)
馬鹿げている。
だが、ふと聞いた噂に何かひっかかるものがあった。
「……見つけた」
木々の間、そこだけぽっかりと空いた開けた土地に、
妙な建物がひとつ。まるで切り貼りされたように不自然な造形。
光る扉、直線的な構造、そして──
──ウィィン。
扉が、勝手に開いた。
セルナは即座に腰の小太刀へと手をかけた。
(……自動か? 罠か? 気配は……ない。いや、微かに人の気配)
中からふわりと香ってきたのは、甘いパンと湯気のような柔らかい香り。
踏み込むか、引き返すか。
彼女の足が一歩、静かに店内へ入ったその瞬間――
「いらっしゃいませぇぇ〜っっ!!」
店内奥から飛び出してきたのは、
もふもふのしっぽを振り回す、小さな制服姿の女の子。
「いらっしゃ……きゃああっ!? あっ、ご、ごめんなさいっ!」
しっぽがセルナの膝にバフッと当たって跳ね返る。
一瞬、彼女の視線が鋭く細められた――が。
(……な、なんだ……この……手触り……)
ふかっ。ふわっ。あったかい。
見た目以上に柔らかく、思わず顔が……いや、顔は崩さない。
「だ、大丈夫ですかっ!? す、すぐお茶出しますぅっ!!」
「ああ……問題ない」
セルナは無表情のままうなずいた。
が、その目はしっぽの残像を微妙に追っていた。
要がレジ奥から顔を出す。
「こんにちは。ようこそ。……森を抜けて、来たんですね?」
「……噂で聞いた。“食べ物を売る場所”があると。
……半信半疑だったが、扉が勝手に開いたので、入ってみた」
「まぁ、扉は……うん、そういう仕組みなんです」
「お、お茶どうぞぉ〜! これが“むぎちゃ”ですっ! むぎって何かはよくわかりませんっ!」
ピナが、両手で震えながら紙パックの麦茶を差し出す。
その横で、しっぽが再びふわっと揺れた。
(……この空間……なにか……落ち着く……)
セルナは紙パックを受け取り、一口飲む。
「……ぬるい」
「ひぃぃっ、ご、ごめんなさいぃぃ〜!!」
「だが……生きていて、よかったと思える味だ」
「……へっ?」
ピナがぽかんと口を開けた。
「……あっ。いえ、あの、ありがとう……ございますっ」
──ピッ。
【接客対象:高位戦闘者による満足度:高】
【商品カテゴリ:癒し用品】が更新されました。
【新商品:もふもふタオルケット(グレー)】が入荷されました。
棚の一角に、新たに並べられたグレーのタオルケットがふわりと揺れる。
セルナの目が、わずかにそちらを向いた。
(……なにこれ、やわらかそう……)
でも顔は変わらない。
変わらないが、じっと見ている。
要は静かに言った。
「よかったら、それ、どうぞ。試しに触ってみてください」
「……よいのか?」
「ええ。……誰かの、癒しになればいいなと思って、出てきたものですから」
セルナは無言のまま、棚に近づき、
グレーのタオルケットを指でつまんだ。
ふにっ。ふわっ。
(……これは、戦場では得られない柔らかさ……)
表情は変わらない。
でも。
「……これ、いくらだ」
「……買ってくれるんですね」
「……包んでくれ。絶対に、汚したくない」
(……可愛いの……めちゃくちゃ好き……)
内心でそう叫びながら、セルナ=ヴァルクは、静かにタオルケットを懐に収めた。
この日から、彼女は定期的に店を訪れるようになる。
“ふわふわ補給”と、“しっぽの観察”のために。
(つづく)