第4話「バイト志望、ドジっ娘系(戦闘力高め)」
カラン――
静かな朝のコンビニに、柔らかくドアベルのような音が響いた。
要はレジの奥で棚の補充をしていたが、その音で手を止める。
「おはようございます――って、君、昨日の……」
昨日、麦茶を飲んで「うまっ」と涙した少女が、再びやってきていた。
その姿は今朝見ると改めて独特だった。
背は小さい。140cmあるかないか。
耳はほんの少し尖り、もこもこのフードの隙間から、栗毛色のふさふさした耳がちょこんと覗いている。
腰には大きくて立派なリスのような尻尾がぴょんと飛び出していて、歩くたびに左右にふりふり揺れていた。
「あ、あのっ……おはようございますっ!」
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「はいっ! タオルケット……すごくあったかくて、フワフワで、なんかこう……包まれてるみたいで!」
「それはよかった」
少女はきゅっと胸に手を当てると、きりっと顔を上げた。
「それで……あのっ! わたし、ここで働かせてくださいっ!」
「へ?」
「だって!飲み物はおいしいし、タオルケットもあるし、何より“店員さん”がすっごく親切でっ! ここにいたいなって……思って!」
いきなりの申し出に、要はしばらく固まった。
「うーん……でも、接客って意外と大変だよ?人とのやりとりとか、レジとか、ミスできないし……」
「が、がんばりますっ! ……あっ、でも!ドジは、よくします!!」
「即答したね」
「でも!負けないし!根性ならあります!」
そう言って、彼女はくるっと一回転。
その勢いで、棚の麦茶が4本ほど吹っ飛んで落ちた。
「あわわわわ! やばっ! すみませんっっ!!」
要は思わず苦笑する。
それでも、麦茶を慌てて拾うその姿を見て、不思議と断る気にはなれなかった。
「名前、聞いてもいい?」
「あっ、ピナっていいます! 本当は長い名前だけど、みんなそう呼びます!」
ピナ。
ふわふわ耳に大きなしっぽ、元気いっぱいの小さな女の子。
「よし。じゃあピナちゃん、今日から“仮採用”ってことで」
「わぁああぁ!やったぁあぁ!!」
ピナは全力で跳ねて喜び、
喜びすぎて、再び棚のパンをなぎ倒した。
──ピッ。
【初のスタッフ登録が完了しました】
【商品カテゴリ:生活用品】が更新されました。
【新商品:タオルケット】が入荷されました。
「……やっぱりこの店、なんか育つなぁ……」
静かだったコンビニに、今日もひとつ、音が増えた。
棚に並んだ白いタオルケットが、やさしく光っていた。
(つづく)