第3話「ようこそ、二人目のお客様」
朝の森は、静かだった。
空気はひんやりとしていて、草木の香りがほんのり鼻をくすぐる。
鳥の声。木の葉が擦れる音。
そして、どこからか「カラン……」と、ドアのベルのような音がした。
「……あれ?」
要は、コンビニの裏でダンボールの片付けをしていた。
振り返ると、自動ドアが開きっぱなしになっている。
「……勝手に開いた?」
そう思った瞬間――
「ひいぃっ!? し、しし失礼しましたぁああっ!」
悲鳴とともに、少女のような声がコンビニ内に響いた。
慌てて表に回ると、床にへたり込んでいる小柄な人物がいた。
年のころは十代半ば。薄茶のフード付きローブに、汚れた布靴。
肩にくくりつけられた小さな袋から、ドングリみたいな何かが転げ落ちていた。
「あ、えっと……大丈夫ですか?」
要が近づくと、少女(?)はパッと顔をあげた。
金の瞳が一瞬だけ揺れて、息を飲む。
「ご、ごごご、ごめんなさい! ちょっと休もうとしたら、ドアが勝手に……!入るつもりじゃ……っ」
「いえいえ、どうぞ。あったかい飲み物なら、麦茶がありますよ」
少女の口が開いたまま、固まる。
「……ま、麦茶……?この建物で……?」
「はい。売ってます」
そう言って、要は棚から麦茶の紙パックをひとつ取り出し、
レジでピッと通すと、手渡した。
「今はまだ、これくらいしかないけど……どうぞ。サービスで」
少女はおそるおそる受け取って、口をつけた。
ぬるい麦茶。
その瞬間――
「…………うまっ」
ぽそっと、ひとこと。
それから、ほっとしたように涙をひとつこぼして、少女は微笑んだ。
「ここ……何ですか……?」
「コンビニです。便利な店、です」
店内の端で、レジがまたひとつ、音を鳴らす。
【“空腹状態の客”に対する初回サービスが成功しました】
【商品カテゴリ:軽食】が開放されました。
【新商品:スティックパン(1本)】が入荷されました。
「……マジで……?」
棚のすみに、ひとつだけパンが増えていた。
少女は、ぽかんとそれを見ていたが、やがて真顔で言った。
「……あの……ここ、泊まってもいいですか?」
要はちょっとだけ考えてから、答えた。
「店内は火気厳禁ですけど、ベンチくらいなら出せるかもしれません」
この日から、
「ひとりとひとり」の静かな店に、
ほんの少しだけ、にぎやかさが加わった。
(つづく)