第1話「お疲れ様でした、そしてどちら様ですか?」
はじめまして。
この物語は、世界を救う英雄の話ではありません。
剣を振るうわけでも、魔法を放つわけでもない──
ただひとりの、コンビニ店員の話です。
できるのは、レジ打ちと、品出し。
それだけです。
でも、その“それだけ”が、
誰かの今日を、明日に繋げてくれることもあるかもしれません。
ある日、彼はいつものように、タイムカードを切りました。
「お疲れさまでした」と、同僚に声をかけて。
次に目を覚ました時には、知らない森の中にぽつんと建つ、
見慣れたようで見慣れないコンビニの中にいたのです。
最初に並んでいたのは、水とタバコだけ。
外は誰もいない、静かな世界。
でも──そこに、誰かがやってきました。
真面目で、堅物で、優しい目をしたおじさんでした。
森の調査をしているという彼が言いました。
「見慣れぬ建造物だな。……そこの者、これは何処の施設だ?」
彼は答えました。
「……コンビニです。便利な店、です」
これは、ひとりの店員が、
異世界で“いつも通り”を続けていく物語。
レジ打ちと品出ししかできませんが、
それでもここにいます。
よろしければ、少しだけ──覗いていってくださいね。
──ピッ
いらっしゃいませ。
物語の、始まりです。
カチッ。タイムカードを打刻する音が、深夜のコンビニ裏に響いた。
「お疲れさま〜。じゃ、あとは頼んだわね」
「はい、ありがとうございます。お気をつけて」
パートの原田さんが軽やかに手を振って帰っていく。
彼──**東風谷 要**は、ひと息ついて、店内へ戻ろうとした。
その瞬間だった。
ズンッ……と重たい振動が背後から襲い、視界が白く染まる。
……
「…………っ」
要が目を覚ましたのは、コンビニのフロア。
でも、妙だ。静かすぎる。
立ち上がって棚を見ると、陳列されていた商品はほとんどなく、
タバコと水だけがひっそりと残っていた。
「え……?」
店外に出てみれば、そこはまったく知らない森の中。
空気は澄みきっているが、舗装道路も電柱も見えない。
スマホは――圏外。
「……夢?いやいや、寝落ちでこんなドッキリみたいな場所、あるわけ……」
その時、カサリ、と木々が揺れた。
「……ほう?」
馬のような、だが角のある生き物に乗った男が、茂みの向こうから現れた。
背筋の伸びた50代ほどの男性。灰色の髪を後ろで束ね、胸には金属製のバッジ。
腰には巻物と計測器のようなものが下がっている。
「……ふむ、見慣れぬ建造物。やはり、“反応”があったのは、こやつのせいか……」
角のある生き物の背から降りると、男はゆっくりと要の前に立った。
「そこの者。貴殿、この“店”の者か?」
「え、ええっと……はい。店員です……たぶん」
「ふむ……。ならば、名乗るとしよう」
男は胸に手を当て、まっすぐに言った。
「我が名はラズロ・ヘルト。王国の認可を受けた調査官である。
ここ一帯の地にて、異常な反応が確認された。……貴殿、この“建造物”を何者と心得る?」
要は言葉に詰まった。
なんと答えればいい?この状況で「ただのコンビニです」とは、
果たして通じるのか……?
だが、彼は言った。
「……セブンです。──じゃなくて、コンビニです。便利な店、です」
ラズロは難しい顔をしていたが――
しばしの沈黙ののち、彼は真剣な目でこう返した。
「……なるほど。では、まずはひとつ、試させてもらおう。
我が騎獣、グレンホーンに“水”をひとつ所望したい」
要のスイッチが入った。
「……いらっしゃいませ。お支払いは、どうされますか?」
(つづく)
呼んでくれてありがとございます。
よくある異世界×〇〇みたいな物語をつくちゃいました。
どうぞ、2話もよろしかったら見てください♡