第7話:メフィスト潜入――神が見ぬ場所、悪魔が笑う
都市。
地図に存在せず、教会からは「存在してはならないもの」とされている禁忌の街。
だがそこには、俺の部下だったヴィスコンティと、元側近の堕天使・リゼリアがいる。
「潜入には“仮初の信仰”が必要よ」
そう言ってルチアーナが差し出したのは、“聖人の名を騙る偽造認証符”。
俺たちはそれを使って、異端審問官を装って街に入った。
•
メフィストは、聖都とは真逆の姿をしていた。
神像は塗りつぶされ、代わりに“名前のない偶像”が広場に鎮座している。
「神を見捨てた者の都……か」
「違うわ。ここは“神から切り離された”場所」
ルチアーナの言葉に引っかかりを覚える。
「どういう意味だ?」
「……観測されない場所ってことよ。教会の神も、天の存在もここには干渉できない。だから、この都市には“自由”がある。けど同時に、“責任”もない」
無法の自由。堕ちた天使が支配する都市。
その中心には《三日月の宮》と呼ばれる建物があった。
そこに――いた。
「……ドン」
ヴィスコンティの声は、昔のままだった。
「お前、何をしてる?」
「真実を見ている。あなたにそれを伝えるために、ここに来た」
彼は静かに、ある“装置”を見せた。
それは水晶の球体の中で、世界の断片を映し出していた。
「これは“世界の観測装置”だ。リゼリアが言っていた。“この世界は、舞台にすぎない”と」
「……誰の舞台だ?」
「それが問題だ」
装置が映したのは、俺の“前世”。
銃火と裏切り、家族の死、そして――最後の記憶。
そこに“黒衣の人物”が立っていた。
「この人物、見覚えは?」
「……いや、ない。だが――」
ルチアーナが、強張った顔で囁いた。
「その服装、教会の“大司教”のものよ」
「……は?」
俺は息を呑んだ。
「つまり、俺を“転生させた”のは……神じゃない。教会だってのか?」
「いや、神ではなく、“観測者”」
リゼリアが姿を現した。翼をたたみ、足音もなく。
「この世界には、真の神はいない。観測するだけの、無責任な視線があるだけ」
「じゃあ、俺の魂を転生させたのも――」
「“彼らの計画”の一部よ。あなたは選ばれたの。混沌と秩序、どちらを選ぶかの試金石として」
「……ふざけるな。俺の人生は“誰かの実験”じゃねえ」
《リベルタ》が黒い輝きを放つ。
「俺は――俺の信じた“家族”を、裏切らせねえ」
•
銃声が轟き、観測装置が砕け散る。
その一撃は、世界の理の“記録”を破壊した。
「これでいい……俺の生き様は、俺が決める」
そう呟く俺に、リゼリアが問いかけた。
「なら、問うわ。“家族”とは、何?」
「……命を懸ける価値があるものだ」
「ならば、私はまだ“家族”になれるのかしら?」
その言葉は、微かな希望か、深い罠か――
俺はまだ、答えを出せなかった。