第3話:異世界の街でファミリー設立!裏取引から始めよう
「――拠点が必要だな」
俺はそう呟きながら、聖都の外れにある廃教会を見上げた。
石造りの壁はひび割れ、ステンドグラスは割れ、風が内部を吹き抜ける。だが――骨組みはしっかりしてる。
「……ここが、俺たちの“ファミリー”の本拠地になる」
ヴィスコンティ――例の白髪の少年は、無言で頷いた。
リゼリアはと言えば、「ここは聖なる場所です! 勝手に使っては……!」などと抜かしていたが――
「だったらお祈りでもしてろ。俺たちは現実を変える」
「ぐっ……!」
教会の巫女であるリゼリアにとって、教会は“象徴”らしい。
だが、象徴だけじゃ人は生きていけない。
俺は知ってる。金、血、交渉、そして――信頼。
それが“裏の掟”だ。
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数日後。
ファミリーは廃教会を拠点に、裏取引の準備を始めていた。
「ドン、情報屋との接触は成功。盗品の買い手も見つけました」
「よし。代金は金じゃなく“魔導水”で受け取るようにしろ」
「魔導水、ですか?」
「この国じゃ水は教会の管轄だ。魔導水ってのは、一般人には出回らねぇ高純度の魔力資源――つまり“規制品”だ」
「……闇取引の通貨に?」
「そうだ。この国のルールに乗っかってても、いつか首を締められる。だから最初からルールの外で動くんだよ」
これはもう“異世界もの”じゃねぇ。
“異世界ビジネス”だ。
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数時間後、最初の取引が完了した。
場所はスラムの裏道。
相手は商人ギルドを追放された情報屋と、腕利きの錬金術師。
リゼリアが震えながら監視する中、ヴィスコンティはしっかりと取引の警戒にあたっていた。
「お見事です、ドン。まさか……この世界で、そんな風に動けるとは……」
「この世界にねぇなら、作ればいい。ルールも市場も、ファミリーもな」
俺は“魔導水”の入った小瓶を手に取り、陽の光にかざした。
青く光る液体。1本で、王国兵の給料半年分。だが――
「……これはまだ“導火線”に過ぎねぇ」
この世界の“裏社会”は、まだ形すらない。
だが俺が来たからには、いずれは“法”すらもファミリーの都合で動くようになる。
裏取引、地下経済、情報網――
全部まとめて、支配してやる。
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「……異端者の匂いがするな」
その夜、聖都にて。
銀の鎧に身を包んだ男が、空を見上げていた。
聖騎士団・団長、ヴァルト・エインズ。
かつて勇者が消えた日、現場にいた“最後の証人”の末裔。
「もう一度、我らが神の加護なき力を振るう者が現れたのなら……即刻、粛清対象だ」
その目は、明確な“殺意”を帯びていた。
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異世界の裏社会。
第一歩は踏み出された。
だが、ドンを狙う“表の刃”もまた、動き始めていた――。