第2話:ファミリー第一号、売られた奴隷
翌日。
俺はリゼリアに案内され、聖都とやらの外れにある“奴隷市場”に足を踏み入れていた。
「勇者様が……まさか、奴隷をお求めになるとは……」
「勇者じゃねぇって言ってんだろ。俺はマフィアだ」
「は、はい……マフィア様……」
妙な呼ばれ方をされたが、今は気にしない。
まずは人手が必要だ。どんな組織でも、“始まり”は小さい。
仲間――いや、“ファミリー”を探すために、俺はここへ来た。
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「さぁさぁ見てってくれよ旦那ぁ! こいつは元騎士の落ち武者、女だが腕っぷしはなかなか――」
「興味ねぇ」
「こっちは魔族の混血児だが、魔力測定値は平均の三倍! 多少気が強いが――」
「いらねぇ」
見た目や能力で売り込んでくるが、そんなもんはどうでもいい。
俺が欲しいのは“根”の部分だ。
誰に裏切られてもいい。
だが、“本物”の家族だけは、決して俺を見捨てない。
そんな奴を――見つけた。
「……奥の檻。あれ、売り物か?」
「え? ああ、あれは……やめといたほうがいい。頭がおかしいんだ。ずっと黙ってて、一度だけ何か話したと思ったら――」
「なんて言った?」
「『俺に手を出すな、死ぬぞ』って……」
「それだよ、それ」
俺はゆっくりとその檻に近づいた。
中にいたのは、ボロボロの服に身を包んだ少年。
白髪、色素の薄い瞳。肌は異常に青白い。
見るからに“普通じゃない”。
だが――目だけは、燃えていた。
怒りでも怯えでもない、
「殺意」と「覚悟」だ。
俺は檻の前にしゃがみ、少年と目を合わせた。
「名前は?」
少年はしばらく沈黙した後、ぽつりと答えた。
「……無い」
「なら今日から“ヴィスコンティ”だ」
「……?」
「俺のファミリーネームをやる。文句はあるか?」
「……無い」
よし、こいつは使える。
俺は金貨の袋を市場のオヤジに放り投げた。
「こいつを売れ」
「ま、まいどありぃ!」
鎖を外された少年は、ふらつきながら俺の元へやって来る。
その手首には深い痕が残っていた。
きっと、まともに扱われてなかったんだろう。
「名前、くれた理由は」
「お前に“家”をやる代わりに、“忠義”をもらう」
「……忠義?」
「裏切らないってことだ。俺もお前を裏切らねぇ。だから、お前も俺を信じろ」
少年は数秒沈黙した後、小さく口元を緩めた。
初めて見せた、人間らしい表情だった。
「わかった、ボス」
「ボスじゃねぇ。――ドンと呼べ」
「……わかった、ドン」
こうして、ファミリーの第一号が決まった。
異世界の裏社会に、今、新たな組が生まれようとしていた――。