第17話:記憶の墓標と、狂い始めた空
アクリアの夜は静かに、しかし確実に変わり始めていた。
《思考中枢塔》で起きた異常反応は、単なる技術的な故障ではなかった。
むしろ、それは“心の揺らぎ”そのものを象徴していた。
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クロノ=エイスは中枢塔の窓から、光の幕に覆われた空を見つめていた。
「理性の秩序を揺るがす感情の逆流……まさか“記憶”が再び蘇るとはな」
彼の瞳は冷たく光るが、その中には不安が滲んでいた。
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ルチアーナはミレイアとともに、廃棄された《空白区画》で語り合った。
「私たちは、あの時何を失ったの?」
ミレイアは目を伏せた。
「記憶だ。
選択しなかった未来の記憶。
“痛み”を選んだことへの後悔。
それでも、それが私たちの《人間らしさ》だ」
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一方、アルドはナジーム、ルチアーナと共に、“感情回復現象”の広がるアクリアの街を歩いていた。
人々が突然、笑い、涙し、怒りを露わにする。
その光景は、まるで封印されていた“魂の目覚め”のようだった。
「これが……人間の本質か」
アルドの手には、懐中時計が握られていた。
それはユリウスからの贈り物であり、“時間の象徴”であった。
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クロノの元に、《上層評議会》から緊急報告が入る。
「反乱分子“エラッタ”の活動が活発化。
彼らは《記憶の墓標》を再現しようとしている」
“記憶の墓標”――それはかつて、感情と記憶を完全に封じるための禁忌装置。
それを動かせば、アクリア全体の記憶が再構成され、“理性の秩序”は再び強制されるだろう。
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ルチアーナは思い詰めていた。
「もし、私たちがこのまま“感情”を取り戻してしまったら……
この都市は崩壊する。
でも、感情を殺した社会に未来はあるのか?」
ミレイアは静かに答えた。
「答えはまだ、誰にもわからない。
でも、“心”を選んだ者たちが、未来を作るんだ」
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その時、空が裂けるように光の幕が揺らぎ、星のような点が見えた。
それは、アクリアの支配者たちが最も恐れていた――
“本当の空”の復活の兆し。
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