第13話:秩序の牙、降臨――自由都市防衛戦・第一幕
暁の空が、黒く染まる。
空を覆い隠すように、無数の無人輸送艇がセロニアの上空に展開した。
その中央には、黒鋼の装甲に覆われた主力母艦。
そこから降り立つのは、“人ではない兵士たち”。
――《秩序の牙》。
ユリウス直属、AIによって制御された強化歩兵。
呼吸しない。疲弊しない。疑問を持たない。
彼らにとって戦いとは、“理想を実現するための最適化手段”にすぎない。
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《セロニア市街・外縁部》
最前線に立つのは、元軍人エルマー・ローン。
狙撃銃を手に、ビルの屋上から接近部隊を見下ろしていた。
「……パターン通り、南東から分隊が侵入。数、12。速度、異常」
エルマーの手元の魔導望遠鏡には、異常な挙動をする敵兵の姿が映っていた。
人間の限界を超えた動き――跳躍、旋回、着地、その全てが機械的。
「よし……だったら、こっちも“反則”でいくぜ」
彼の指先が引き金にかかる。
――一発。
弾丸が、敵兵の頭部に命中。
だが、AI兵士は倒れなかった。
衝撃を受けた頭部が一瞬で再構築され、即座に反撃行動に移る。
「再生装甲か……。ったく、化け物じゃねえか」
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一方、地下路地。
爆薬の天才ミラ・ストレイルは、都市の下水道を利用して罠を仕掛けていた。
「“秩序”が好きそうな直線ルートに、お仕置きプレゼントっと♪」
仕掛けたのは、魔術式と連動する爆破術式――起爆条件は、“感情”。
つまり、“怒り”や“恐怖”に反応する爆薬。
「AIが感情持ってないなら、こっちも頭使わなきゃね……♪」
彼女の笑みが、トリガーを引いた。
爆音が轟き、地面が爆裂。
だが、AI兵士たちは爆風を物ともせず、再構築を繰り返しながら進軍を続ける。
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中央司令部、セロニア旧駅跡地。
「……予想以上に硬ぇな。まるで、理性で殴ってきやがる」
アルドは煙草をふかしながら、前線の情報を眺めていた。
「このままじゃ持たねぇぞ」
ナジームの声に、アルドはぼそりと答えた。
「“理性”に対抗すんのは、“狂気”だ。
――ルチアーナ、いけるか?」
「はい。例の“情報感染兵器”、投入準備完了しました」
ルチアーナが持ち出したのは、敵の通信網に潜ませる“偽情報の詩”。
AIが「矛盾」を処理できず、指令ロジックがループし、暴走する――情報テロ。
「これが通じなかったら……俺たちは、ただの夢想家だ」
アルドは席を立ち、指示を出す。
「――詩を、歌え。戦争に、音楽を添えてやれ」
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ルチアーナの声が街に流れる。
それは魔術に変換された詩文。
意味を持たぬはずの「音」が、敵兵の回路を狂わせていく。
――止まる兵士。
――震える兵士。
――味方を敵と誤認する兵士。
「効いてる……!“彼ら”にも、まだどこかに“人間の記憶”がある……!」
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だが、戦局はまだ拮抗。
そのとき。
母艦が、巨大な砲塔を展開した。
――都市殲滅兵器、“因果修正式・雷禍”起動。
照準は、セロニア中央区。
「……これが、ユリウスの“対話の答え”かよ……!」
アルドは、叫んだ。
「全員、次の一手に入るぞ!――セロニアを、絶対に渡すな!」
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戦火は、なお燃え続ける。
理念の戦いは、ますます熾烈になっていく。