第12話:火薬と希望と、矛盾の街――セロニア防衛戦前夜
街に、静かな風が吹いていた。
自由都市セロニア。
かつてゴミ溜めと呼ばれたこの地は、今やひとつの“理想”を掲げて立つ街となった。
そこに集ったのは、社会に捨てられ、名を奪われ、それでも「ここに居たい」と願った者たち。
だがその理想は、ついに本格的な“試練”に晒されようとしていた。
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「……本当に来るんだな、秩序の牙が」
そう呟いたのは、元情報屋で今は諜報部長のナジーム・ガルサ。
顔を隠すサングラスの奥に、かすかな焦燥がにじんでいる。
「来るさ。秩序は“対話”なんて信じちゃいない」
アルドは椅子に足を投げ出して、空を見上げた。
「問題は、“どう迎えるか”だ」
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アルドは、仲間たちを集めた。
そこにいたのは、
・爆薬の天才にして元破壊工作員のミラ・ストレイル
・かつて政府軍に所属していたが除隊された狙撃手エルマー・ローン
・そして、最新型魔導機械を解析し魔術と融合させる少年研究者フェイ・ロッカ
それぞれがそれぞれの過去を持ち、この街に流れ着き、今や「セロニアの自由」を背負っていた。
「……敵は“秩序の牙”、ユリウス直属の部隊だ。
全員がAI強化を受けていて、戦術思考に人間の感情が介在しない。
つまり、“殺す理由を必要としない兵士”だ」
ナジームが重く言った。
「だが、俺たちには“守る理由”がある。違うか?」
アルドの言葉に、皆が頷いた。
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準備は始まった。
市民による非戦闘員の避難ルートの整備。
街路に張り巡らされる即席の防衛網と、ミラの仕掛ける即興爆弾。
フェイが展開する“観測魔術”による索敵網は、街を一つの巨大な身体のように変えていく。
この街に暮らす人々は、それぞれが“小さな力”で、未来を守る準備をしていた。
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だが、セロニアにはもう一つ、秘密があった。
アルドのもとに、ルチアーナが持ち込んだ一枚の書類。
それは、旧世界のAI戦略システムの断片――“プラエトリア”の存在を示していた。
「ユリウスは、あのAIの残骸を使っている可能性がある。
彼の“秩序”は、理性に見えて、神の模倣なのかもしれない」
「……なるほどな。
じゃあ、こっちは人間の狂気で殴り返すしかねぇか」
アルドは笑う。だがその目には、鋼のような静けさがあった。
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夜が明ける。
街に、かつてない静けさが満ちる。
それは、暴風の前の静寂だった。
その頃、セロニア上空に、黒い飛行艇の影が見え始めていた――
《秩序の牙》が、来る。
街を賭けた戦いが、始まる。