第11話:第十の男と、“正義”の定義――対話と火薬の序章
秩序都市。
完璧な幾何学的構造、無音で動く交通網、無数の監視機構。
それはまるで、「思考までも統制された」ような無機質な美しさを持っていた。
その中心、中央制御塔にて、ひとりの青年が立つ。
名は、ユリウス・カールヴァイン。
かつて、地球における超国家AIプロジェクトの主任として、秩序と管理の権化だった男。
彼もまた――転生者のひとり。
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「始まったか」
ユリウスは目を閉じ、ひとつの報告を受け取る。
“第七の転生者、アルド・ヴィスカリオ、観測者と接触。
自由都市にて独自の社会形成を開始”
「愚かだな。自由に価値を見出す者は、いつか自壊する」
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「ですが、彼の都市は――カリスマによって支えられ、短期間で急成長を遂げています」
側近AI“ネメシス”が冷静に報告する。
「ならば、早めに潰すしかない」
ユリウスの言葉に、ネメシスが反論を試みた。
「敵意を持たずとも――対話によって、合意形成は……」
「ない」
ユリウスは即答する。
「“自由を信じる”という思考そのものが、秩序にとって脅威だ。
ウイルスのように感染し、秩序を腐らせる。
我々が構築する世界の根本理念と、共存不可能だ」
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一方、自由都市。
アルドはいつも通り、街の裏通りにいた。
そこには多国籍の武装集団、娼婦、元犯罪者――ありとあらゆる“居場所のなかった者”が、笑って酒を飲んでいた。
「なあ、ボス。この街、どこまで大きくすんだ?」
少年兵のひとりが訊ねた。
「そうだな――空が落ちてくるまでは、止まらねぇさ」
アルドは笑って答えた。
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そこへ、“使者”がやってくる。
――ユリウスからの《招待状》。
『あなたの理想と、私の正義。
一度、対話をしませんか。
場所は、調停地《ノウアの中庭》にて』
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その手紙を読んで、ルチアーナが眉をひそめた。
「……罠かもしれません」
「罠でもいい」
アルドは笑った。
「ヤバいのとケンカする時は、まず顔を見なきゃ始まんねえ。
それに、“対話”って言ってんだろ? だったら、こっちも喋ってやらなきゃな」
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――そして、二人は出会う。
《ノウアの中庭》。古代文明の廃墟と最新の転送装置が融合した中立領域。
そこに、秩序の青年・ユリウスと、自由のマフィア・アルドが向き合った。
「あなたの思想は破綻している。自由とは、責任なき破壊に過ぎない」
「お前の思想こそ、絵に描いた餅だ。管理されて笑える奴が、どこにいる?」
「……理解し合う気はないようですね」
「あるさ。“違い”を知るために、俺は来た。
でもな、“違い”が分かったら、あとは撃ち合うだけだ」
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そして、最後にユリウスは告げた。
「これは、思想戦争だ。あなたの街も、あなたの仲間も、“選択”の結果として、審判に晒される」
「上等だ。こっちは“神”すら撃ち抜いてやる気でいる」
二人は背を向け、同時に歩き出す。
戦争は始まった。
それは、銃でも剣でもなく――“生き様”のぶつかり合いだった。