表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/36

第10話:マフィアは神に抗えるか――銃弾の哲学と《存在の選択》

「……終わった、のか」


ルチアーナが呟いた。

廃棄都市ヘルモス、その中心で立ち尽くすアルド。


足元には“もう一人の自分”――“コピー・アルド”が崩れ落ちている。


「最後に、笑ってたな。アイツ」


アルドは空を見上げる。

そこにあったのは――歪んだ月。


その瞬間、空間が揺らぎ、“声”が降ってきた。


「見事だったな、アルド・ヴィスカリオ」


聞いたこともない声。

だが、それは言葉を越えて“脳に直接響く”音だった。


「誰だ……!」


「我は“記録者”。神の観測者として、此処に在る」


ルチアーナが震えた。


「《記録者》……神話の時代に、唯一神に仕えていた、“選定の使者”……」


空間に人影が現れる。


白い仮面、黄金の衣、そして異形の翼――

人間とは異なる何か、がそこに立っていた。


「お前の“選択”を、我らは見ていた。

お前は“過去の自分”を撃ち殺し、それでも“マフィア”を選んだ」


「だったら何だ? “マフィア”ってのはな、“好き勝手に生きる”ってことだ。

神がどう言おうと、それが“俺の選択”だ」


「だが、それが《世界の均衡》を乱す」


記録者は、淡々と告げる。


「この世界は“調和”を前提としている。

感情や欲望を抑え、全体としての幸福を追うこと。

それが“理想社会”の条件だ」


「理想? は、冗談だな」


アルドは笑う。


「そんなもんで幸せになれるなら、マフィアなんざ生まれねえ」


「だからお前たちを“転生”させた。

強烈な個性と暴力性を持つ者が、どう選ぶか――それが、神の問いだった」


「じゃあ、俺の答えを言ってやるよ」


アルドは銃を向けた。


「“調和”なんざ、クソくらえだ。

俺は“血と自由”の街を作る。そこに生きるやつは、誰よりも“選ぶこと”を知ってる」


「ならば、選べ。

――お前の世界か、“あちら”の世界か」


記録者が翳した手の先に、ひとつの映像が浮かぶ。


そこには、もう一人の人物が映っていた。


「これは……誰だ?」


「“第十の転生者”。

お前とは正反対の、絶対的な《秩序》を信奉する男」


映像の中の人物――軍服をまとい、整然とした都市を背景に立つ青年。


「彼は“管理による幸福”を目指している。

お前とは別の方法で、転生世界の主導権を握ろうとしている」


「……つまり、どっちの道を選ぶかってことか」


「いや。お前たちが“ぶつかる”。

どちらかの世界が、もう一方を駆逐する。

それが《最終審判》だ」


ルチアーナが問う。


「じゃあ……世界は、選ばれるの?」


記録者はうなずいた。


「そう。“神”は、もう選ばない。

お前たち人間が、選ぶのだ――自らの運命を」


アルドはしばし黙り、空を見上げる。


「いいぜ。やってやろうじゃねえか。

俺の街、《マフィアの理想郷》が、どこまで通用するのか――見せてやるよ」


そして、ふと笑って言った。


「それにしてもさ。

秩序とか理想とか――お前ら、いつまでそんなもんに縋ってんだよ」


「“生きる”ってのはな、もっと、こう……泥臭くて、カッコ悪くて、でも熱いもんだぜ?」


記録者は答えなかった。


ただ、“記録”していた。

この男の言葉を、この世界の《選択》の始まりを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ