ファミリーの誓い
死に際ってのは、もっとドラマチックなもんだと思ってた。
フロントガラスにぶちまけられた血と、燃え上がるガソリンの匂い。
助手席にいた“兄弟”の腕は、もう動かない。
「逃げろ」って叫んだくせに、そいつは俺を庇って――このザマだ。
「……クソが」
俺の名前はダンテ・ヴァレンティーニ。
地中海の裏社会で“ファミリー”と共に生きてきた。
地獄みたいな世界だったが、俺にとっては“家”だった。
――裏切り者が出るまでは、な。
銃声が響き、視界が赤黒く染まる。
「最後に吸う煙草が、こんな安物とはな……」
火の海の中で、俺の意識は静かに消えていった。
それで、すべてが終わるはずだった。
……いや、そうじゃなかった。
目を覚ましたとき、空には二つの月が浮かんでいた。
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「……おかえりなさいませ、勇者様」
その声に、心臓が跳ねた。
銀髪の少女が跪き、俺の手を取る。まるで、昔の光景の再現だ。
だが――俺は思い出す。
この世界、この空、この空気。
ここは、俺が一度追放された異世界だ。
勇者として召喚され、仲間と戦い、魔王を倒したはずだった。
だが、貴族たちの陰謀で“反逆者”の汚名を着せられ、すべてを奪われた。
そして、転生した地球でマフィアとして生きた俺は、今――
再びこの地に、“違う顔”で戻ってきた。
「もう、勇者じゃねぇ。今度は――ドンとして帰ってきた」
剣でも魔法でも、上等だ。
だが俺には、それ以上の武器がある。
それは「人の繋がり(ファミリー)」だ。
「俺の組を、もう一度築く。今度こそ、誰にも壊させねぇ」
貴族、国王、聖騎士、教会――
誰であろうと、俺の“家族”を傷つけるやつは、全員地獄に落とす。
これは、“追放された元・勇者”が、
異世界で裏社会の王として返り咲く物語。
正義も、秩序も、クソくらえだ。
「オレの法は、オレが決める。――覚悟しろ、クソ共」
火薬と魔力が交差する世界で、
一人の男が再び“ファミリー”の名のもとに立ち上がる。
マフィアの誓いは、誰よりも重く、誰よりも熱い。