【読切版】エルフさんの異世界食レポ日記
【 1食目 人間族のメシは美味いのか? 】
「ここが、人間族の料理屋……」
〝アゲドキ食堂〟
「アゲドキってなにかしら?」
カラン、コロン。
「いらっしゃいませ~! 一名様ですか?」
「あっは、はい! 一名様です!」
「こちらへどうぞ~!」
「あっどうも……」
お店の中に入ると、エプロンをした元気なお姉さんが席まで案内してくれる。
テーブル替わりだろうか、大きな樽とイスが二つ。
樽の上には、折りたたまれたメニュー本と塩のようなものが入った小瓶、謎の黒い液体が入った瓶などが置かれている。
「こちらおしぼりとお冷で~す! お決まりになりましたらまた呼んでくださいね!」
「は、はい! わかりました!」
温かいお手拭きと冷たいお水。これは無料なんだろうか……?
「うーん……なにが美味しいのか全然分からない……」
わたしの名前はヘンリエール。
エルフの国『タプナード』出身のエルフ族。153才の女の子。
……人間族の基準だとおばあちゃんかもしれないけど、エルフは1000才以上生きるのでまだまだ女の子で良い、と思う。
「本日のおすすめ、アジフライ定食……アジフライってなにかしら……?」
わたしは今、人間族の国『イザヨイ』で働いている。
就職先は、エルフ族の作った携帯食料『エルフード』を販売する商業ギルド『カゼマチ食品』。
最初は地元のタプナード本部で事務をやっていたのだけれど、色々あって就職3年目の春にイザヨイにある支部の営業部へ異動になった。
「カキフライ定食……ここのお店はなんとかフライ定食っていうのが多いわね……」
人間族の料理はほとんど食べたことがない。
エルフ族は基本的に生の野菜やフルーツ、木の実などを食べていて、あまり料理というものをしない。
今日はイザヨイに来て初めて人間族のお店で料理を食べてみる。
緊張するけど、ちょっと楽しみだ。
「よし、このコロッケ定食っていうのにしてみよう。なんか語感が可愛いし……す、すいませーん」
「は~い! お決まりですか~?」
「あの、この、コロッケ定食をお願いします……」
「コロッケ定食ひとつですね! ランチタイムは無料でごはん大盛りに出来ますがどうしますか~?」
「いや、ふ、普通盛りでお願いします……」
「かしこまりました~! お料理できるまで少々お待ちくださ~い!」
「わ、分かりました……」
ふう、ちゃんと注文できたかしら。
お店の中を盗み見ると、お客さんはやっぱり人間族が多いみたい。
あとは、ドワーフ族の集団が一組……エルフ族はわたしだけだ。
…………。
「お待たせしました~! こちらコロッケ定食になりま~す!」
「あ、ありがとうございます……!」
「コロッケのほう揚げたてのアツアツなので、気を付けてお召し上がりくださいね~!」
「は、はい……!」
これが、コロッケ定食……茶色い、石鹸じゃないわよね?
この細く切ってある葉野菜はなにかしら。こっちの黄色いのは、輪切りにした塩漬けの木の根?
「よし、食べてみよう……森羅万象の恵みに感謝を。いただきます」
まずは食べ慣れた野菜から。
「はぐ。ん……うん、シャキシャキで食べやすい。こっちの黄色いのは、ん……! 結構甘いわね」
この味が濃い漬物でお米を食べる感じね。エルフ族はあまりお米を食べないけれど、これはかなり相性バツグンで美味しいかもしれない。
「それじゃあ、次はいよいよこのコロッケを……はぐ」
もぐ、もぐ……
「……! お、美味しい……!」
外の茶色い所はサクサクで、中は……モフモフ? まったり? うーん、とにかく美味しい。
「でも、そんなに味は濃くないかも。これでお米を食べるわけじゃないのかな……あら?」
わたしと同じような料理を頼んでいたお客さんが、テーブルの上にある謎の黒い液体を料理にかけて美味しそうに食べている。
「これを、かけると美味しくなるのかしら……」
ちょっと怖いので、少しだけコロッケにかけて食べてみる。
「はぐ……ん!」
こ、これだ……! これが正解なんだ……!
「これで、お米を……はぐ! ん~……! 美味しい!」
わたしは夢中になってコロッケ定食を食べ進めた。
―― ――
「お会計860エルになりま~す!」
「は、はい……!」
「ちょうどのお預かりです! ありがとうございました~! またお越しくださ~い!」
「ごちそうさまでした……!」
…………。
……………………。
めちゃめちゃ美味かったわ。次はごはん大盛りにしよう。
【アゲドキ食堂/コロッケ定食、ごはん並盛り】
・お店:店員のお姉さんが元気で良かった。
・値段:多分安い気がする。
・料理:コロッケ美味しい。黄色い漬物みたいなやつもっと食べたかった。
ヘンリエール的総合評価:85点。
―― ――
【 2食目 フライドゴブリンは生臭い 】
「なるほど、あの黒い液体はソースというのね……」
こんにちは、ヘンリエールです。
今は仕事のお昼休憩で、職場の近くにある揚げ物のお店にやってきました。
この前食べた美味しいコロッケ定食も揚げ物料理のお店だったから、ここも期待できそうだわ。
〝アンラッキーフライドゴブリン〟
「な、なんだか縁起の悪そうな店名ね」
お店に近づくとスィーっとドアが自動で開く。
魔力を込めたりもしてないし、向こうに人もいないのに……一体どういう仕組みなんだろ。
「へーいらっしゃい。テイクアウト? 店内?」
「えっ? あ、あの……」
「持ち帰って食べんの? 店内で食べてくの?」
「あっ……て、店内で食べていきます」
「はいよ。ご注文どうぞ」
「あ、はい……」
ここのお店は席に行く前に注文する感じなんだ。
ちょっと忙しないかも……
「えーと、どうしようかしら……」
フライドゴブリン・アーム、フライドゴブリン・レッグ、フライドゴブリン・チリレッグ……ここのお店はフライドゴブリンっていう料理ばっかりね。
「注文決まった?」
「あっはい、えっと、このフライドゴブリン・レッグの……ダブルセット? でお願いします」
「ドリンクとサイドは? ダブルセットだからサイドは2つ選んでね」
「は、はい。えーと……グリーンソーダと、サイドは……コーンサラダと、ラッキースコーンで」
「はいよ。それじゃあお会計、680エルになります」
「あっはい」
支払いは食べた後じゃないんだ。それにしてもかなり安い気がするわ。
「はい、20エルのお釣りね。すぐできるから横でお待ちを」
「は、はい……」
カウンターの奥にあるキッチンで調理をしているのが見える。
うーん、揚げたてのゴブリンの匂い……な、なんか、あまり食欲をそそられないかも。
「はいお待ちどう。お好きな席へどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
料理の乗ったトレーを貰って、席を探す。
よし、外が見えるカウンターの席にしよう。
「ふう。ようやく落ち着けた」
席について周りを軽く見渡す。
お客さんはドワーフ族と人狼族が半々って感じかな。
エルフ族はまたわたしだけだ。
それにここは人間族の国『イザヨイ』なのに、人間族のお客さんも見当たらない。
「よし、それじゃあ食べようかな。それにしても、ゴブリンかあ」
この世界の生き物は大きな括りでいうと4種類に分けられる。
ひとつはヒューマン。わたしたちエルフ族や人間族、ドワーフ族のような、知能が高くコミュニケーションが可能な人型の種族。
残り3つは、動物と、魔物と、魔族。
動物と魔物の違いは、動物は栄養素が多くて魔素が少なく、魔物はその逆。
魔族っていうのは、知能が高い魔物のこと。
まあこの辺は今は別に良くて。
ヒューマンが食べているのは、動物と魔物。
どっちが美味しいかは種族に寄って好みが分かれる。
で、ゴブリンっていうのは魔物の一種。
ドワーフ族にちょっと似てるけど、知能は低く、畑や果樹園を荒らす害獣として扱われている。
「と、とりあえずコーンサラダから食べようかな。森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……ぱく」
……うん、普通に甘くてプチプチで美味しい。
コーンはエルフの国『タプナード』にいたときも食べていたから、食べるのに躊躇するものではない。
「こっちのラッキースコーンっていうのはシロップをかけて食べるのね。デザートってことかしら」
それじゃあ次は、お待ちかねのフライドゴブリンを……
「うう、なんか色が……よし、た、食べよう」
はぐ。
…………。
「……なんか、生臭くてぐにょぐにょしてる」
正直、美味しくない……肉のまわりについてる衣の味が濃くて、それで誤魔化してる感じ……
「うう、中のお肉、緑色だ……」
なんだろう、この色も良くない気がする。見た瞬間、一気に食欲がなくなってしまった。
「……ふう。グリーンソーダは普通の薬草サイダーだわ。良かった」
とりあえずドリンクで口直しして、ラッキースコーンを食べてみよう。
「シロップをかけて、はぐ……ん! これはとっても美味しいわ……!」
ちょっと生地がパサパサしてるけど、そこにあま~いシロップがジュワ……って染み込んで、なんだかミツバチの巣を食べてるみたい。
ミツバチの巣食べたことないけど。
わたしは夢中になってラッキースコーンを食べ進めた。
―― ――
「ご、ごちそうさまでした。あの、トレーはどちらに」
「そこに回収台あるでしょ。置いといてー」
「は、はい……」
…………。
……………………。
フライドゴブリン、めちゃめちゃ不味いわ。
【アンラッキーフライドゴブリン/フライドゴブリン・レッグ、ダブルセット】
・お店:店員さんがちょっと怖い。
・値段:安い。
・料理:肉が緑色で生臭くてぐにょっとしてる。クソ不味い。ラッキースコーンだけ注文が正解。
ヘンリエール的総合評価:38点。
【☆☆作者からのお知らせ☆☆】
読了いただきありがとうございます!
連載版もございますので、面白いと思って頂けましたら是非!
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