アテナイ介入直前
「ばかやろーーー」
ヒューン・ガシャン
俺が投げた壺が通りの壁に当たって砕ける。
「ミルティアデスの人気取り野郎ーーー」
ヒューン・ガシャン
次から次へと奴隷から壺を渡される。
「最後まで責任取りやがれ―――」
ヒューン・ガシャン
アテナイのカラメイコス地域、焼き物の工房の集まった地域で街道の行き止まりには陶片が山と積まれている。
陶片追放で陶片に名前を刻んだのは単純に陶片が手に入りやすいので選んだのだが…。
今単に気分晴らしで奴隷に商品にならない壺をもってこさせて投げて割っている。もちろん陶片は利用可能ではあるがそれはどうでもいい。
ナクソスがペルシアから防衛に成功した瞬間にペルシア弱体化論が流れ強硬派がミレトスのアリスタゴラスの口にのって二層櫂船20隻での侵攻を民会で決定させた。
普通に考えれば戦士300名漕ぎ手3400名である。前回のナクソス侵攻のペルシア軍とは桁が違う。急いでサルディスを略奪してペルシア軍を誘因し急いで逃げることで相手を疲弊させることで戦略的目的にするらしいが、騎兵で急接近されたり、退却後追撃を受けた場合どうするのか?という問いに「そのような仮定にはそのようにならないように行動する」と言明しやがった。
民衆にはサルディスの略奪品の量がどれだけアテナイの富を蓄積するかで強調し、略奪品で3層櫂船を製造する約束までぶち上げていた。
空き巣のように盗みを行った怒りに燃えたペルシアがどれだけイオニアを攻めるかわかってない。
もっともアテナイが無事であるとも思えない。コリントスではアテナイの追放された僭主ヒッピアスがアテナイでの復権をかけてペルシアと手を結んだという噂が流れているらしい。
おそらくそれは事実なんだろう。
「ヘラクレイトス、コリントスから鳩がきたわよー」
リボンを片手にフリュネが路地までやってきた。
「すまない、好きなものを買ってくれ」
「じゃあ、新しい模様の赤絵の水瓶を選んでいくわ。」
「ああ好きなだけ買ってくれ」
そう言いながら受け取ったリボンを確認した。
・トモロス山(サルディアポリスの南の2000m級の山)でライオンの皮の値段が暴落した??
・エフィソスで秣が急騰した。
・トロイにイェニチェリの先鋒隊が姿を表した。
これってサルディスにペルシア騎兵が集中配備されて。
トロイ地方は歩兵で蹂躙されるということか?
まずいまずい絶対にアテナイもとばっちりを食う。
くそ―強硬派は絶対こんな情報もってないだろうし、教えても面子にかけて作戦強行するだろう。
アリスタゴラスはアテナイが巻き込まれて自分の安全さえよければ作戦成功だ…こうしてみるとスパルタうまくかじ取りしたな。アギス家羨ましいぜ。
ともあれ善後策をすぐに組まないとそうやって周りを見るとフリュネが目に止まった。
壺を買いに行くとか行ってたわりにはなんか待ってる感じだ。
「フリュネ、鳩は何話残ってる」
「コリントス・デルフォイとも10羽あるわよ」
「5羽ずつ飛ばせ、ピレウスからデルフォイに向かう。くるか?」
「もちろん。御意のままに」
とりあえず味方に足を引きずられているが、まだ手は打てる。アテナイがペルシアとの戦争に巻き込まれることはなんとしても避けなくては