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コリントスの女たち

 「船長さーん、今日はうちにお泊りなさいなー」

 コリントスの夕方、アクロポリスの神殿の片隅から黄色い声が飛び交う。

 「おー、サービス頼むぞ」

 声をかけられたガタイのいい中年の親父が笑顔で返す。

 「任しといて、そっちだけじゃなく秘密の噂も手に入れたから、内緒だけど教えてあげる。」

 女の腕が蔦のように船長の腕に絡まると、二人は瞬く間に神殿横の一つの小屋に姿を消した。

 そんな光景が数えきれないほど、神聖娼婦の数だけ引き起こされている。

 中にはあぶれた娼婦や水夫もいるはずだが潮が引くような速度で瞬く間に小屋に飲み込んでいく様は圧巻の一言に尽きる。

 あたりの呻き声が去って、先ほどの船長と娼婦の声が聞こえてきたのは日も落ちて夕闇が濃くなった頃だった。


 「キノス島廻りの船乗りからトロイあたりで物騒な雰囲気になってるって聞いたの」

 「トロイあたりか、昔からヘレネスがペルシアから離れようとバタバタしてるのは昔からだろう?」

 「それがへレスポントあたりで騎兵を見かけたらしいの。」

 「もうレスボス島の方が近い場所じゃないか。騎兵ならペルシア軍に間違いないな。威力偵察かな?」

 「わかんない。ただ10騎くらいだって言ってたから。道に迷ったんじゃないと思う」

 「確かにトロイのあたりがきな臭いな。イオニア回ったときに気を付けて見るとしよう」

 「十分に気をつけて。あと半年ぐらいでアフロディテ神殿から離れるから、それまでにはまた来てね」

 「親元に行くのか?」

 「たぶんそうなると思うけど、場合によっては結婚させられるかも」

 「わかった次サモス島だが速足で回ってくるようにしよう。」

 「そういえばナクソス島は戦終わったの?」

 「4か月かかって戦士6000人からヘレネスが防衛しきった。」

 「戦士6000人ってエレボス島の中心ポリス、エルトリアの人数より多いじゃない」

 「おまけを入れるなら戦士6000、漕ぎ手40000人船200艘の3層櫂船だ。」

 「それってアテナイの人口より多くない?」

 「多いな。ナクソスは1000人の市民兵が4か月かけて城壁を防衛して、最後には金欠で退却させたらしい」

 「ナクソスもよく食料がもったわね。」

 「なんでもどこかの商人が大量に運び込んだらしい。」

 「その商人大儲けしたんでしょうね」

 「お前の知り合いの中にやけに景気のいい奴いないか?」

 「残念ながらあなたが一番の上客よ」

 「うれしいねー。サモス島往復で10日後には戻ってくるよ。」

 「じゃあ航海の安全を祈って…もう一回する?」

 翌朝の朝にはいつもの風景がやってくるが船乗りが去った後代金を集める男衆がボショボショと話し込む時間がちょっとだけ長く「エフィサス…物騒になる…ヘレネス阻止…」などやや物騒な話が漏れ出てくるようになっていた。

 とはいうものの神聖娼婦の顔に浮かぶ表情は面白いことをたくらむ女性の顔にすぎずデマゴーグの様子は微塵も感じさせなかった。

 まあ、娼婦の期限が切れ実家に戻され貞淑な妻になるにはちょっとばかし世間に擦れた女性たちではあったが…


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