目には目を、貴族には貴族を
息を吹き返したヤマト運用。
師匠のブランド力のおかげで、顧客の減少どころか新規顧客が急増してきて、店はいっぱいいっぱいだ。
それに対応すべく、人を増員してハンナに統括を任し、マヤには別の仕事を依頼していた。
「おそらく、ボーン商会がグランチェス伯爵に近いかと」
「ありがとう。すぐにボーン商会の会長へ手紙を送ってくれ」
「はい、先生」
ヤマトは店の奥にある執務室で、マヤへ指示を出していた。
彼女は顧客台帳とギルドの開示書類を棚へ戻すとすぐに部屋を出る。
ヤマトが調べさせていたのは、ギガス率いるハンターギルド『ブレイヴドグマ』の共同出資者たちだ。
基本的にギルドは、傭兵派遣の商会や武器屋、金庫番などの商人たちが集まってできる組合のような組織。
そこにはギルドを運営する立場として、各商会や店のトップが参画し、その中で会長が選任される。
その会長選任の際に、決定権を持つのがギルドへ出資しているオーナーたちだ。
それを逆手にとれば、オーナーは会長を解任する権限も持っているということ。
ブレイヴドグマほどの大組織ともなると、オーナーや経営陣の名前は開示していなければならないので、ヤマトはオーナーを調べさせた。
さらに、ヤマト運用の顧客たちの中で、ギルドのオーナーと関係の深い者を見つけ出したのだ。
「時間がない、急いで準備をしよう」
「かしこまりました」
護衛として控えていたアヤは返事をして、壁のハンガーにかけてあったコートをとる。
上質な毛皮で作られた漆黒のロングコート。
以前シルフィが贈ってくれたものだ。
「シルフィ、すぐに助けに行くよ」
コートへ袖を通すと、シルフィとの日々が脳裏に蘇り自然と活力が湧いて来た。
彼女は、ヤマトへ光を与えた。
周囲にヤマトを認めさせ、彼が自信を持てるきっかけを作った。
(君は、数え切れないほどのたくさんのものを僕にくれたね)
ヤマトの大好きなハンターパーティ。
そこには、シルフィがいないと意味がない。
だからこそ、全力をもって攻勢に出ようと覚悟を決めるのだった。
「今度は、僕が君を助ける番だ――」
ヤマトは、ボーン商会の会長にヤマト運用を利用してくれたことの礼を言うと共に、グランチェス伯爵にも勧めたいからと言って、間を取りもってもらった。
その返事が来てすぐに、伯爵の屋敷へと足を運ぶ。
「――グレイチェス伯爵、お初にお目にかかります。ヤマト運用商会のヤマト・スプライドと申します」
「よく来てくれた、ヤマト殿。話はボーン商会から聞いているよ。まあまずは座ってくれ」
グレイチェスにうながされ、応接室のソファに座ると、使用人が紅茶を入れてくれた。
目の前に座る男は、貴族というだけあってただならぬ風格を醸し出していた。
ブラウンの髪はオールバックにして、高い鼻に整った顔には余裕の表情を浮かべている。
首元にはクラヴァットと呼ばれる純白の布を垂らし、細かな刺繍入りの薄紫のベストの上からは漆黒のコートを着て、まごうことなき紳士といった印象だ。
「いやぁ、まさかあのケルベム・ロジャーのお弟子さんが来てくれるとは、正直驚いたよ」
「恐れ入ります。ぜひ、グランチェス伯爵にも当商会のお客様になって頂きたいと思っておりまして」
「そうだねぇ、非常に興味深いんだが……まずは検討してみるよ」
グランチェスはニコやかに言ってソファに背もたれる。
遠回しに断れたことはヤマトにもすぐに分かった。
貴族ともなると、さすがに手ごわい。
グランチェスは、顎に手を当てニコニコとヤマトの目を見て告げる。
「それじゃあ、本題に入ろうか?」
「本題、ですか?」
「今や時の人である君が、わざわざ営業のために僕を訪ねて来たわけじゃないんだろう?」
「……さすがはグランチェス伯爵。すべてお見通しですか」
「ふふふっ、あなどってもらっては困るね」
そのとき、グランチェスの目が鋭く光った。
これ以上引き延ばせば印象を悪くするだけだと思い、ヤマトは本題に入ることにする。
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