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伝説の大投資家

 師匠の問いにヤマトは冷や汗を浮かべつつ無言で頷く。

 ケルベム・ロジャーは冷徹で厳しい人だと有名だ。

 それは弟子のヤマトが相手でも、変わらない。

 しかし、困っている人を見捨てるような人でもなかった。


「まったく、手のかかる弟子だ。仕方ない、これからお前の(かせ)を外してやるよ」


「かせ?」


「レイナ!」


「かしこまりました」


 ケルベムが名を呼ぶと、後ろで控えていた美しい黒髪のメイドが前へ出る。

 彼女はひときわ大きい風呂敷を持っており、それをカウンターテーブルの上へ置いた。


「師匠、これはいったい……」


「いいから黙って見てな。おいお前たち!」


「「「は、はい!?」」」


 ケルベムがざわついていた客たちを見回し呼びかける。

 すると、一部の者は声を上げてきちんと姿勢を正した。

 彼女にはそれだけの威厳があるのだ。


「この中に情報屋はいるかい?」


「は、はい」

「私もそうですが……」


「なら、なにボサッとしてんだい!?」


「「へ?」」


「スクープだよ! このケルベム・ロジャーが、弟子の運用する商会に数百億って大金を預けるんだからねぇっ!」


「「「なっ!?」」」


 周囲が一斉にざわついた。

 ケルベム自身の口から聞いたことで、ヤマトが本当に伝説の大投資家ケルベム・ロジャーの弟子と認識しただろう。

 さきほどまでの殺気立った雰囲気は見事に霧散していた。


「さっ、こっちはつもる話があるんでね。今日は店じまいだ。帰った帰った!」


 ケルベムは彼らへしっしっと手を振る。

 それを見てハンナが控えめに声を上げた。


「そんな、勝手に……」


「ハンナ、ここは師匠に任せてくれ」


「う、うん、ヤマトくんがそう言うなら」


 客たちは困惑の表情を浮かべ顔を見合わせながらも、ケルベムに言われるがまま、彼女のメイド『レイナ』に「はいはい、出口はこちらですよー」と誘導されて店を出て行った。


 急に静かになった店内には、ヤマトたち四人とケルベムとレイナの二人。

 ケルベムは、茫然としているヤマトを見ると、ニィッとエスっ気たっぷりに頬をつり上げた。


「久しぶりだな、バカ弟子」


「相変わらずの口の悪さですね、師匠。でも、さっきはありがとうございました」


「よせや。お前に礼を言われると、虫唾(むしず)が走る」


「……あの、言葉の使い方間違ってません?」


 師弟の感動の再会にしては殺伐とした会話だが、二人はどこか楽しげだった。

 いきなりの師匠登場に戸惑っていたマヤたちは、ゆっくりとヤマトの横へ歩み寄る。

 マヤ、ハンナ、アヤを順番に見回したケルベムは、鼻で笑った。


「ヤマト、あんたバカ弟子からエロ弟子になったのか?」


「なってませんよ!」


 ヤマトが顔を赤くして反論すると、ケルベムはくくくと愉快そうに笑った。

 

「まさか、先生のお師匠様があの伝説の大投資家だったなんて、思いもしませんでした」


「驚かせてごめん、マヤ。言っても信じられないだろうから、黙ってたんだ」


「いいえ。むしろ、これで先生の実力にも納得できますよ」


「お嬢さん、こんなのを先生って呼んでんのかい? こんなヘタレ、悪いことは言わないからやめときな」


「好き勝手言わせておけばぁ……」


 ヤマトは眉をヒクつかせ、肩をプルプルと震わせる。

 しかしさっき自分のしようとしていたことを思うと、ヘタレと言われても否定できない。


※ハイファンタジー日間48位になりました!(2/23)


1位を目指しますので、広告の下にある☆☆☆☆☆から作品の率直な評価をお願いしますm(__)m


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