貴族の圧力
クエスト仲介所へ行っても、ラミィたちの姿はなかった。
町の人たちに聞いて回りながら、探していると、ようやく日が暮れる前に見つけることができた。
ラミィ、ハンナ、シルフィ、マヤの四人は、大広場のベンチに座り、肩を落としてうつむく姿が哀愁を漂わせている。
ピー助が心配するように鳴いた。
「クェ……」
「……ヤマトさん」
ヤマトがどう声をかけようか考えながら近づくと、シルフィが顔を上げた。
瞳を揺らし、不安に押しつぶされそうな表情を見ると、グレイスの言っていたことが間違いでなかったのだと分かる。
ハンナも彼の存在に気付き、気まずそうに苦笑する。
「あはは……ヤマトくんには気付かれたくなかったのになぁ」
「ハンナ……」
いつもは快活な彼女が暗い表情をしていると、胸がしめつけられるようだ。
ラミィとマヤは立ち上がると、ヤマトを見つめた。
いつになく真剣な表情に息をのむ。
「ヤマト、大変なことになってしまったよ……」
「噂は聞いたよ。詳しいことを教えてくれないか?」
「……スノウのしわざだろうね」
「っ!」
その名前を聞いてヤマトは目を見開く。
マキシリオンとライダから離れたと聞いて気にもしていなかったが、まさか単独でしかけてきたというのか。
ヤマトは彼女への警戒をおこたったことを強く後悔する。
「どうやら彼女が、数ヵ月前にあったソウルヒートとトリニティスイーツのいざこざをすべて、こちら側の卑怯な策略で、自分たちはだまされ陥れられただけだと言っているそうなんです」
「バカな……」
ヤマトは怒りに肩を震わせ拳を握りしめる。
あまりにふざけた話だ。
自分たちの私利私欲のために襲っておいて、今さら被害者面しようというのか。
彼女には、貴族としての誇りなどかけらもないのだろう。
「それで、ギルド側はトリニティスイーツを疑い、ハンターとしての活動の休止を命じてきたんだよ。ギルドの規約に違反しているおそれがあるからとね」
「そんなっ、あまりにもバカげた話じゃないか!? ギルドにちゃんと話せば、分かってくれるだろう? 今すぐ抗議しよう!」
マヤは暗い表情で首を横へ振る。
「もちろん、それはしました。でも全然ダメだったんです。ギルド会長の方針だからって」
「そんな……」
「やられたよ。今のギルド会長は、ギガス・ドグマン。スノウの父だ」
「そういうことか」
なるほど、彼女は父親にすがりついたわけだ。
貴族としての誇りは持たないのに、権力だけは利用しようとするとは、あまりにも性根が腐っている。
だが、いくら貴族でギルドの経営者が相手だろうと、やりようはあるはずだ。
「この前の襲撃事件では、スノウたちは騎士団に捕まったんだ。彼らに言って説明してもらえば、ギルドも文句は言えないんじゃないか?」
「それもダメだろう。騎士はあくまで領主の下に属する組織であって、公平な立場。今回の件は民間の組織内部でのいざこざだから、介入はできない」
「そんな……じゃあ、今のギルドを抜けて、他のギルドに入るしかないのか……」
実のところ、今所属しているギルド『ブレイヴドグマ』は町で最大規模を誇り、その分依頼なども無数に舞い込んで来る。
ブレイヴドグマの他にも小さなギルドは存在しているが、報酬の額やクエストの種類が遥かに劣るのだ。
だから極力、ギルドの移転は避けたところなのだが……
ヤマトの呟きに、シルフィが答えた。
「私たちも手分けして他のギルドを回ってみました。でも、どのギルドも犯罪者はお断りだと言って、入会を許してくれないんです」
「同業者間での根回し……ギガス会長は、そこまでしているのか」
正直なところ大人げないと言わざるをえない。
いくら娘のためとはいえ、ハンターパーティ一つ潰すのに、どれだけの労力をかけているのか。
彼が真っ当な経営者であれば、これまで高難易度のクエストを多くクリアしてきて、ギルドの収益に貢献してきたパーティを潰すなど、百害あって一利なしだ。
おそらく他の幹部は気付いているはず。
だがやはり、ドグマン家の権力が強く文句を言えないのだろう。
ヤマトは意を決して告げた。
「ドグマン家の屋敷へ行こう。スノウはきっとそこにいるはずだ」
「え? そんなことしてもなにも……」
「あきらめちゃだめだマヤ。まずはスノウを説得してみよう。それでギガス会長に掛け合ってもらうんだ」
「……分かった。それならパーティを代表して私が行こう」
ヤマトは頷くと、ラミィと護衛のアヤを連れ、ドグマン家の屋敷へ向かうのだっだ。
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