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嫌な予感

 それから毎日、少しずつではあったが、ヤマト運用の顧客と預かり資金は増えていった。

 預かった資金の運用も、小鳥たちの集めた情報をもとに、緻密な計画を立て順調に進めているところだ。

 

 そんなある日の午後、ヤマトは誰もいない店内で受付席の前に座り、頬杖をついてぼんやりしていた。


「師匠、手紙読んでくれたかなぁ」


「クェ~」


 気の抜けるような呟きに、ピー助が力なく鳴いて答えた。

 店が落ち着いてきてから、ヤマト運用商会を立ち上げたことを報告すべく、師匠へ手紙を送ったのだ。

 いつものごとく返事はないが、彼女もどこか遠くで活躍しているのだと信じている。

 願わくば、彼女にも客として来てもらいたいものだが、それは期待が過ぎるというものだ。


「――こんにちはー!」

 

 油断しているところに突然の来客があり、ヤマトは慌てて立ち上がる。

 ピー助も突然のことでヤマトの肩から転がり落ちた。


「いらっしゃいませ!」


「おっ、いたいた~やぁヤマト、繁盛してるかい?」


「グレイスさん! お久しぶりです。来てくれたんですね!」


 見知った顔を見て、ヤマトは嬉しそうに声を弾ませた。

 来店したのは、隣町で店を開いている若い鍛冶屋だ。

 ヤマトのソウルヒート時代、厳しい寒波が訪れ氷属性の魔物が大量発生することを読んだヤマトの提案を受け、彼は火属性の武器を数週間早く大量生産し始めた。そして想定通り火属性武器の需要は上がり、二人で大儲けしたという経緯(いきさつ)がある。


「また君に儲けさせてもらうよ」


「ご利用ありがとうございます!」


 グレイスは手続きの書類を書き終えると、少し真剣な表情になってたずねてきた。


「ところでヤマト、君は一時期、トリニティスイーツというパーティにいたと聞いてたけど……」


「へ? 確かにそうですけど、今はもうパーティから手を引きましたよ?」


 いったいなんの話かとヤマトは首を傾げる。

 すると、グレイスはホッとしたように少し肩の力を抜いた。


「そうか。それじゃあ今回の件、悪影響はないかな?」


「どういうことですか?」


「もしかしてまだ知らないのか? トリニティスイーツの『ハンター活動休止措置』を」


「……は?」


 突然の言葉にヤマトは頭が真っ白になる。

 嫌な予感をひしひしと感じた。


「実は昨日、トリニティスイーツは他のパーティをだまし打ちにして、ライバルを減らすような卑怯なパーティだって、ギルドが公表して活動休止にしたんだ」


「そ、そんなバカな……」


 信じられなかった。

 そもそもその話は、自分のよく知るパーティのことなのかすら疑わしい。

 しかし、もしなにかの冤罪(えんざい)でそんな状況に追いやられているのだとしたら、ただ事ではない。


「グレイスさん、教えてくれてありがとうございます!」


「おぅ、お役に立てたなら良かったよ。それじゃ、運用のほうはよろしく頼むわ」


 グレイスは空気を読んだようで、「それじゃ、俺は行くわ」と軽い足取りで去って行く。

 ヤマトは慌てて机に置いていた書類を片付け始めた。

 そしてすぐに店を閉めて臨時休業とし、ギルドの仲介所へと駆け出すのだった。


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