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最悪の再会

「――しまった……すっかり遅くなっちゃったなぁ……」


 ヤマトが顧客台帳の管理や帳簿の記載などをチェックしてから外へ出ると、すっかり夜も遅くなってしまっていた。


「ピエェ……」


 ピー助も暗闇は怖いようで怯えている。

 とはいえ、この国イブリスは治安の良い国なので、夜道を襲われるといった心配はしていない。

 ラミィの言っていたことも気にはなるものの、ヤマトはあまり危機感を感じていなかった。


「あっ、そうだ! 師匠にも商会を立ち上げたこと、連絡しないとね」


「クェッ!」


「それと、お客さんが集まったからって油断しないようにしないと。みんなの資産をしっかり運用できるかどうかが大事だから。ピー助たちには頑張ってもらわないといけないけど、よろしく頼むよ」


「クァッ!」


 ピー助は「任せろ!」と元気良く鳴いた。

 既にポゥ太とキュウ子は情報収集に飛び回っており、小鳥たちの集めた情報が資産運用の成績を大きく左右する。

 そこはもちろん、得た情報を的確に取捨選択し、タイミングを見極めるヤマトの手腕にもかかっているのだが。


 これからのことにヤマトが胸を躍らせていると、ピー助がか細く鳴いた。

 薄暗く細い通りの先から、二人組が歩いて来ている。

 ヤマトは気にせずすれ違おうとするが、二人組はヤマトの進行方向をふさいできた。

 不審に思ったヤマトが二人組を確認すると、彼らは黒い外套を羽織りフードをかぶって顔を隠していた。


「っ……」


 ヤマトの背筋が凍る。

 ラミィの言っていた怪しい二人組の特徴と一致しているのだ。

 顔を強張らせ後ずさると、男が声を発した。


「ずいぶんと楽しそうじゃねぇか、ヤマトのくせに」


「んなっ……その声は!」


「久しぶりだね、他人に寄生するしか能のないヤマトくん」


 二人がフードを外すと、そこにいたのはマキシリオンとライダだった。

 以前よりも頬がこけ、瞳には暗く濁った陰湿な光を灯している。

 そもそも、騎士団に捕まったはずの彼らがここにいること自体がおかしい。


「どうして二人がここに!? 監獄に入れられてたんじゃないのか!?」


「ふんっ、あんなの俺らからしたら、へでもなかったぜ」


「抜け出して来たのか。もっと罪が重くなるぞ」 


「黙れ! 僕らがこんな目にあってるのは、お前のせいだろうが!」


「てめぇだけのうのうとしやがって。とにかくてめぇを殺さなきゃ腹の虫がおさまんねぇんだよ」


 ライダとマキシリオンは、憎しみに燃える目でヤマトをにらむと、腰に(たずさ)えていた剣を抜いた。

 長剣と言うには短く、短剣というには長い初心者ハンター向けの安い武器で、切れ味も良くないが、それでもヤマト一人を仕留めるには十分だ。

 彼は額に汗を浮かべ後ずさるも口を閉ざさない。


「待ってくれ」


「なんだ命乞いか?」


「違う。スノウはどうしたんだ?」


「あいつは俺たちとは違って、すぐに解放されたさ。金の力でな」


「あれでも、貴族のお嬢様だからね」


 ひとまず三対一ではないことを確認できたが、それでも状況は最悪だ。

 ピー助は毛を逆立て、彼らが襲い掛かってきたら迎え撃つつもりのようだが、相手が武器を持っている以上は自殺行為。

 友達にそんな危険をおかさせたくない。


「く……」


「どうした? おしゃべりは終わりか?」


「なら、さっさと死ねやぁぁぁっ!」


「クェッ――」


「――ダメだピー助!」


 ヤマトは肩から飛ぼうとしたピー助を両手でつかんで止め、両腕で抱きかかえると、一目散に逃げ出した。

 とにかく大通りへ。

 そこなら、騎士が見回っている可能性がある。


「待てやぁっ!」


 さすがに元一流のハンターは足が速い。

 必死に逃げるヤマトととの距離は少しずつ縮まっていく。


「くそっ!」


 ヤマトはわき目も振らず薄暗い道を走り抜ける。

 やがて、街路灯が照らす大通りへ出た。

 運良く前方から騎士が二人、歩いて来るところだ。


「てめぇだけでも殺す!」


 しかしどうあがいても、マキシリオンたちがヤマトを殺すほうが早い。

 ライダがヤマトの足めがけて剣を投げた。


「逃がすかっ、この臆病者がぁぁぁっ!」


「しまっ!」


 綺麗に回転する剣が空を裂き、ヤマトの足へ飛来する。

 避けるのは困難。

 ヤマトはここまでかと内心で諦めかけるが――


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