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仲間

 見下すような冷たい眼差しで声をかけてきたのは、相変わらずヒラヒラのドレスで着飾ったスノウだった。

 彼女はクエストへ行くとき以外、いつも高級感溢れるドレスを着ており、その種類も毎回変わっているので、アクセサリーに次いでかなりの金をつぎ込んでいるのが分かる。

 

「こ、こんにちは、スノウ」


「げ!?」


 ハンナがあからさまに顔を歪ませるが、スノウはそれを気にせずヤマトへ挑発的な視線を向けた。

 

「あなたがこういう店にいるのは珍しいですわね。あまりにも場違いですわ。もしかして、彼女たちへのプレゼントかしら?」


「ま、まぁそんなところだよ」


「せいぜい今のうちに楽しんでおくことですわね。化けの皮が剥がれて、また追いだされる前に」


「そ、そうするよ」


「……言わせておけばぁ」 


 ハンナが額に青筋を浮かべて拳を握るが、シルフィは彼女の拳に手を置いて首を横へ振る。

 そしてヤマトの手を引いてスノウから目をそらさせた。


「ヤマトさん、これ可愛いですよ」


「え? あ、あぁ、そうだね。シルフィに似合いそうだ」


「う、嬉しいです……」


 置いてけぼりになったスノウとハンナは無言でにらみ合い、「「ふんっ」」と鼻を鳴らすと綺麗に並ぶアクセサリーへ向き合った。


 それからしばらく、ヤマトは二人の美少女と楽しみながら、スノウは黙々と値段とにらめっこしながらアクセサリーを見て回る。

 しかし高級品に目のないスノウですら(とりこ)にするとは、さすがはウルティマ商会。

 国内で爆発的な人気を得ただけのことはある。

 アークやシーアの笑顔が頭に浮かび、ヤマトは少し誇らしかった。


「――うん、これにしよう」


「わわっ、可愛いねぇ。ヤマトくん、センスあるぅ」


「素敵な髪飾り……」


 ヤマトはハンナとシルフィに一番似合うと思った髪飾りを選んだ。

 ラミィに渡す分もじっくり考えながら選ぶと、それをカウンターへ持っていく。

 すると、店員の中年男性がヤマトを見て丁寧に頭を下げた。


「ヤマト・スプライド様でございますね?」


「え? は、はい。そうですけど」


「実は、ヤマト様は当商会の元オーナーだからと、特別価格で販売するようにおおせつかっております」


「だ、誰から?」


「アーク会長からの指示だと、先日シーアお嬢様からうけたまわりました」


 ヤマトは目を見開く。

 先日、少しの間シーアがこの町へ来ていたが、そのとき伝えられたのだろうか。

 その話を後ろで聞いていたシルフィとハンナも目を丸くしている。


「ヤマトさん、あなたはいったい……」


「――お待ちになってくださいまし!」


 しかしそこで口を挟んできたのはスノウだった。


「彼だけ特別価格だなんて、不平等じゃありませんの!?」


「とは言われましても、当商会の上層部の決定ですので……それに、ヤマト様だけというよりは、そのお知り合いの方も同様の扱いとさせて頂きますが」


「それでしたら、私だって彼と同じパーティーでしたもの。私の買う商品も特別価格にしてくださいな」


「んなっ!?」


 それを聞いたハンナが絶句する。

 シルフィも信じられないというように目を丸くして固まっていた。

 ヤマトととしては、スノウのわがままには慣れっこなので、特に驚きはしないが店員も困ったように眉尻を下げている。


「は、はぁ……ヤマト様がよろしいのであれば」


「お願いしますわ、ヤマトさん!」


 スノウはいつもの勝気な笑みを向けてくる。

 理不尽に追いだしておいて、今さら親しげに頼ってくるのはあまり感心しないが、ヤマトは苦笑しながらも頷いた。


「う~ん……仕方ないなぁ――」


「――ふざけないでください!」


「「え?」」


 突然の怒りの声にヤマトとスノウが声を合わせる。

 その声を発していたのはシルフィだったのだ。

 両手をギュッと握りしめて褐色の肌を紅潮させ、泣きそうな顔でスノウをまっすぐに見つめている。


「な、なんですの?」


「いつも、あれだけヤマトさんのことを見下して、酷いことだってたくさん言っておいて、今さらその優しさにつけ入ろうとするなんて……恥ずかしくないんですか?」


「そうよ! 恥を知るべきよ!」


 声を震わせながら言うシルフィに、ハンナも声を上げる。


「な、なんなんですの……急に割り込んできて。あなたたちには関係のないことでしょう」


「大ありですよ! ヤマトさんはもうあなたたちの仲間じゃない! 私たちの仲間なんですから!」


「ええ、たとえヤマトくんが許しても、これ以上の好き勝手は私たちが許さないわ!」


 逆鱗(げきりん)に触れた二人の迫力に、スノウは唇を震わせ後ずさる。

 しばらく口をパクパクさせていたがなにも言葉にできず、やがてスノウは顔を真っ赤にして店を出て行った。


「ふぅ……」


「……店員さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」


 ハンナは疲れたというようにため息を吐き、シルフィは店員へ頭を下げる。

 唖然としていたヤマトも、我に返り頭を下げる。

 この店の大事な客を追いだしてしまったのだから。


「……頭を上げられてください」


 しかし店員は、優しい笑みを浮かべて首を横へ振った。


「こちらこそ、素晴らしい絆を見せて頂きました。ヤマト様は、素敵なお仲間をお持ちなんですね」


「は、はい!」


 ヤマトはハンナとシルフィへ一度目を向けると、弾けるような笑みを浮かべて頷くのだった。


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