マヤの不安(ソウルヒート視点)
ヤマトを追い出したソウルヒートは、その日の夜、新たなメンバーを迎え入れた。
町で一番大きな料亭の中央で、豪勢な料理の並ぶテーブルを前に、戸惑いの表情を浮かべているマヤだ。
最強のパーティと名高いソウルヒートの人気は凄まじく、今も周囲の客たちが羨望の眼差しを向けている。
イケメン剣士のライダがファンサービスとばかりに、女の子たちへ微笑むと、黄色い声援が上がった。
ソウルヒートは、鬼人族で大剣使いのリーダー『マキシリオン』、俊敏に動きアイテム運用とアタッカーを両立する色男『ライダ』、貴族令嬢でありながらハンターをしている弓使いのスノウ、と噂通りの強者ぞろいで、マヤは期待に胸を膨らませていたのだが――
「いやぁ、さすがはスノウだ。こんな美人な知り合いがいるなんて」
ライダが前髪をかき上げ、白い歯を見せて微笑む。
彼は少し長めの黒髪に、爽やかな容姿で女性からの人気が高いイケメンだが、マヤは彼のナルシスト感が好きになれなかった。
先ほども、艶のあるマヤの長い黒髪に触れてこようとして、ゾッとしたぐらいだ。
「……有名なソウルヒートのメンバーになれて光栄だわ」
マヤは鼻筋の通った美しい顔を引きつらせ、淡々とした声で告げる。
それを緊張していると勘違いしたのか、マキシリオンが握った拳をマヤの胸の前へ突き出した。
「まぁ気楽に行こうや」
「は、はぁ……」
マヤが両手でおわんの形を作ると、マキシリオンの手が開かれジャラジャラと少なくない額の通貨が渡された。
「え?」
「あんたがいりゃ、俺らはもっと強くなれる」
目を丸くするマヤに、マキシリオンはニヤリと片頬をつり上げる。
この席も彼女を歓迎するためにわざわざ予約したというし、ずらりと並んだ高級料理を見る限り、かなり羽振りがいいようだ。
マヤは不安を隠すことなく、いぶかしげに眉を寄せる。
以前いたハンターパーティも、それなりの実績はあったが資金面では苦労し、派手な出費は抑えていたのだ。
「おい、マヤにあれを渡せ」
「かしこまりましたわ」
マキシリオンにうながされ、スノウは一枚の紙をマヤへ渡した。
「これは……」
「ソウルヒートの総資金ですわ」
「これからマヤには、クエストでの後方支援に加えて、資金管理もやってもらう」
「こ、こんな大金の管理、私がしても大丈夫なの?」
感情の起伏が少なかったマヤが、驚きを隠せず声をうわずらせる。
それもそのはずだ。
そこに記載されていた帳簿には、約2000万ウォルという、そこらの平凡なハンターでは何十年かかっても貯められない金額が書かれていたのだから。
固まるマヤに、ライダはキザったらしく微笑みかける。
「構わないさ。なんたって、あの無能なヤマトが管理していたぐらいなんだから。僕はむしろ、マヤちゃんじゃないと嫌だよ」
ちゃん付けにイラッときたマヤだったが、ホッと胸をなでおろした。
これだけの余剰資金があるのなら、手付け金やこの料理代など大したことはない。
それに、ハンターは強い装備や使用するアイテムが強さを大きく左右する。
つまり、それらを買うための資金力がハンターの強さのすべてだ。
先ほどから感じていた不安は杞憂だったと、マヤは頬を緩めた。
「まったく、これだけ貯まってるだなんて思わなかったな。さてはヤマトの野郎、黙って勝手に使い込んでたんじゃねぇだろうなぁ」
「そうでしょうね。追放して正解でしたわ」
「ああ、これでソウルヒートの未来は安泰だ!」
しかし、資金管理のすべてをヤマトに任せていた彼らは知るよしもなかった。
金庫番の預金口座に預けていたその資金の多くが、彼らの稼いだ金ではなかったことを――
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