修羅場
「ヤマト様ぁ~」
シーアが猫なで声を上げてヤマトの腕に抱きついてくる。
彼女が楽しそうにしているものだから、ヤマトも強引には引き剥がせない。
いつの間にか、ピー助もヤマトの肩をつたってシーアの肩へ移動していた。
「シ、シーアさん? 近くない?」
「ごめんなさい。長いことヤマト様に会えなかったので、寂しくて……」
シーアは伏し目がちにそんなことを言ってくるものだから、ヤマトは内心パニックに陥っていた。
通行人たちも思わず二度見してしまうような可憐な令嬢に密着されて、心臓がドキドキしすぎて爆発しそうだ。
「で、でも、お店での用事は良かったの?」
「はい、また後で寄ります。せっかくヤマト様と会えたんですから、それよりも優先することなんてありません」
シーアが弾けるような笑顔で見上げてきて、ヤマトは慌てて目をそらした。
恥ずかしくて目を合わせることができない。
そうしてしばらく歩いていると、
「にゃ、にゃー!?」
「うん?」
「猫?」
突然、謎の悲鳴が上がり立ち止まると、目の前で驚愕の表情を浮かべてこちらを指さしていたのはハンナだった。
横には目を丸くしたラミィとシルフィもいて、三人は慌てて駆け寄って来る。
「ヤ、ヤマト、これはどういうこと?」
「そ、そうだよ! 私たちがクエストに行ってる間、なにしてたわけ!?」
「ヤ、ヤマトさぁん……」
弾劾するように険しい表情で詰め寄るラミィとハンナ。
対してシルフィは、弓を胸の前で握り、悲しそうに涙を浮かべていた。
「ち、違うんだ! 彼女とは偶然そこで会って……」
「ほんとにぃ? ていうか、この綺麗な人は誰!? ヤマトくんのなんなの?」
「この人は、シーアさんと言って――」
「――ヤマト様の婚約者です♪」
「いっ!?」
――ピキッ!
なにか空間に亀裂が入ったかのような、不可解な音が聞こえた、気がした……
「ちょ、ちょっとシーアさん、ここで冗談はやめてよ!」
「あら、ごめんなさい。うっかり口がすべってしまいました」
シーアは反省した様子もなく、ふふふっと手を口元へ当てて上品に微笑む。
シルフィは「ちーん」と聞こえてきそうなほどの脱力具合で放心し、ハンナもガタガタと歯を震わせていた。
楽しそうに肩を震わせているのは、ラミィだけだ。
ヤマトは不穏な空気に冷汗をダラダラとかく。
さっきまでシーアの肩にいたピー助は、なにかを察知したのか既にいない。
「ヤマト様っ、ヤマト様ぁ、こちらの方々は?」
「あっ、紹介するよ。ハンターパーティ、トリニティスイーツのメンバーなんだ。彼女はリーダーのラミィ、こっちがハンナ、後ろにいるのがシルフィだよ」
「そうでしたか。みなさま、いつもヤマト様がお世話になっております」
シーアはそう言ってスカートのすそをつまんで優雅におじぎする。
まるで『私のヤマト様』とでも言いたげなオーラに、ハンナは「うっ」とのけ反った。
ハンナは今にも泣きそうなシルフィと手を握り合うと、「うぅぅぅ」となにやらヤマトへ目で訴えてきた。
しかしヤマトにはどうすることもできず、苦笑するだけだ。
「ハンターの方々ということは、お仕事ですのね?」
「そ、そうなんだよ。僕はこのパーティの資金管理をしているんだ」
「そうだったんですか。良い人たちと巡り合えたようで安心しました」
シーアはそう言って慈愛の満ちた微笑を浮かべる。
もしかしたら彼女は、ヤマトがソウルヒートを追いだされたと聞いてから、ずっと心配していてくれたのかもしれない。
「さてと、ヤマト様とは十分お話できましたし、お仕事の邪魔をしてもいけませんので、私はここで……」
シーアはそう言うと、頬をポッと染め、ヤマトの頬へチュッと軽くキスしてきた。
「っ!?」
「「んなっ!?」」
「それではヤマト様、ハンターのみなさま、ご機嫌よう」
シーアは優雅な足取りで去って行く。
ヤマトはその背中を、とろけるような夢心地で見送るのだった。
その背後で、女子たちが目を光らせているとも知らずに……
「さて、じっくり話を聞かせてもらうとするか」
「ぐぬぬぬ~」
「ぐすん……ヤマトさん、私だってあなたのこと……」
その後、三人に宿へ連れ込まれ、誤解が解けるまで何時間も尋問を受けるヤマトだった。
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