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シルフィの怒り

 ヤマトたち四人は、それぞれ鉱物資源の詰まった袋を持って、喧騒でにぎわう大通りの市場へと移動した。

 ヤマトはすぐに素材屋の店を見つけると扉を開ける。

 ソウルヒートのメンバーだったときに常連だった店だ。


「こんにちは、ガーフさん」


「おぅ、ヤマトじゃねぇか。久しぶりに見たな」


「はい。最近、色々ありましたから……」


 ヤマトが困ったような笑みを浮かべながら言うと、ガーフは髭をなでながらそのいかつい顔に薄ら笑いを浮かべた。

 いつもの嫌な感じだ。


「知ってるぜぇ。お前さん、ソウルヒートを追いだされたんだってな」


「え? ま、まぁそうですけど」


「いつかはそうなるだろうと思ってたぜ。パーティーのメンバーが戦ってるときに、買い出しをしてるようなひ弱な男じゃなぁ。あっ、勘違いするなよ? 俺のお得意先はヤマト、お前じゃなくてソウルヒートなんだからな」


「は、はぁ、そうですか……」


「そうだとも。いくらお前さんが金に困ってても、値切り交渉には一切応じないからそのつもりでな。とはいえ客は客だ。ほら、さっさとなにが欲しいか言いな」


「いえ、今日来たのは購入目的ではないんです」


 ヤマトはなんとも思っていないというように、淡々と言いながら、小袋をカウンターの上に置く。

 ガーフが眉をしかめながらその中身を確認すると、目を見開いた。

 

「なに!? エーテル鉱石にダークマター、ミスリス銀鉱石まであるじゃねぇか!? 今は手に入りづらいってのに、よくこんなに集めたもんだ」


「いいえ、それだけじゃありませんよ。三人とも……あれ? どうしたの?」


 ヤマトが後ろを振り向くと、トリニティスイーツの三人は不機嫌そうに眉をつり上げ、ガーフをにらみつけていた。

 その迫力にヤマトは息をのむ。

 すると、ハンナがガーフを指さし言った。


「なにこの失礼なおじさん」


「ちょっとハンナ、どうしたのさ? この人は店長のガーフさんだよ。ほら、集めた素材を売ろうよ」


「ヤマトくん、こんな人に売るのやめて、他のとこへ行こ?」


「同感だな」


 穏やかでないハンナの提案に頷くラミィ。

 彼女もまた険しい表情だった。

 さすがのガーフも、額に青筋を立て低い声で言う。


「お嬢ちゃんたち、ずいぶんな言い草じゃねぇか」


「ちょ、ちょっと二人とも待ってよ! 鉱物資源なんてどこで売っても同じだよ!?」


 ヤマトが焦って言うと、ガーフが目を丸くした。


「……は? ちょっと待てヤマト! まさかあの嬢ちゃんたちが持ってる袋に入ってるのは……」


「はい、すべて価格が高騰してる鉱物資源ですよ。ずっと使わずにためておいたんです」


「そうかそうか。よし、いい値段で買い取ってやろうじゃねぇか」


 先ほどまで怒りを滲ませていたガーフだったが、急に上機嫌になる。

 しかし、ハンナはぷぃっとそっぽを向いた。


「やだ」


「は?」


「あなたに売るぐらいなら、遠出してでも別のところで売る」


「ちょ、ちょっと待てよ! せっかく持ってきたってのに、それはねぇだろ?」


 ガーフは少し焦りを見せていた。

 無理やり笑みを浮かべ、ハンナの機嫌を損ねないようにしているのが露骨に分かる。

 彼はヤマトに目配せし、「お前もなんとか言ってやれ」と訴えてくるが――


「――謝ってください」


 強い口調でそう告げたのは、シルフィだった。

 彼女にしては珍しく感情的になっており、怒りの表情を見るのはヤマトも初めてだ。

 しかしガーフは笑みを消し、いらだたしげに声を震わせる。


「なんだと?」


「ヤマトさんに謝ってください。それでないと交渉はできません」


「シルフィ……」


 ヤマトもなにも言えず、女ハンターたちににらまれたガーフは次第に顔をひきつらせ、ついに折れた。


「……す、すまなかった」


「い、いえ、僕は別に……」


「いや、俺が間違ってた。今までお前さんのことを無能だと思っていたが、そうじゃなかったみたいだ」


「え?」


「これだけの素材をためてたってのは偶然じゃないじゃずだ。今回の資源高騰を予測してのことだろ? それならお前さんは、とんでもない先見の明を持っていたってことさ。これからもうちで取引をしてくれ」


 ガーフに頭を下げられ、ヤマトは嫌な気がしなかった。

 認められたことが嬉しかったのだ。

 三人へ目を向けると、彼女たちもニッコリと笑みを浮かべている。


「……もちろんですよ。これからもよろしくお願いします」


 顔を上げたガーフは、心の底からホッとしたように頬を緩ませるのだった。


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