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魔王の行進!  作者: くるぶしソックス
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二度目の対話

その日ハイエルフとドアライド達の集落は鎮まりかえっていた。今日はあの恐ろしき悪魔達の住む城にへと自分たちの族長であるシルフが出向かなければならない。ハイエルフ族の族長であるシルフは美しく、知的でいざ戦いとなれば勇敢に弓を引く。そんな彼女の毅然たる態度には皆が憧れに近い信頼を持っていた。しかし今の彼女にはその影も形もない。真白の肌に美しい金髪を靡かせ人々から"森の妖精"とも言われるその美しさは形を潜め、かといって勇敢に弓を引く"森の狩人"と言われる猛々しさ見られる訳でも無かった。真白の肌は青白くなってしまい、皆を率いていたその背中は幼子のように小さく見える。

だが、そんな彼女を情けないと思う者は誰一人として居ない。

"魔王"とも言えるあの恐ろしき異形を見て、あのオーラを感じた後では無理もないと皆が思っていた。

あの場で気絶した者達は、城に向かうシルフが無事には戻って来られないだろうと考えていた。それは気絶したせいで対話がしたいという要の言葉を聞いていなかったこともあるが、悪魔という狡猾で残忍な存在が"何もしない"ことがある訳は無いという理由も大きかった。

その考えは気絶した者達、つまり集落の大半の考えだった。しかしながら意識を保った数人、シルフを筆頭に部族の中では強者と呼ばれる者達の考えは少し違っていた。恐らく危害を加えられることは無いと考えいる。シルフ達に危害を加えるつもりがあったのなら、あのオーク達のように自分達はもう生きてはいないだろうし、あの悪魔の王は確かに恐ろしかったがその声には優しさが篭っていた気がする。もちろん聡明なシルフもそうだろうとは考えている、しかしそれでも恐怖を拭うことは出来なかった。


「村のみんなのことは何とか守らないと。」


集落のほぼ中心に位置する周りよりも少しばかり大きな家の一室で彼女はぽつりと呟いた。


そんなエルフ達の切迫した状況を知らない男は、悠長に朝食を食べている所だった。しもべの小悪魔達が運んでくる料理に舌鼓を打ち、家族とも言える側近達と和やかな朝を迎えたこの男こそエルフ達の悩みの種である悪魔"安門 要"である。以前の世界では仕事も忙しく、家族も居なかったためもっぱら一人でコンビニか外食することが多かった要だが、

この世界に来てからは家族のようなもの達ができ、皆で食事を取れる喜びを感じていた。初めこそ「主人と共に食事を取るなど恐れ多い」という理由でベルゼブブやアスモデウスが反対していたが、

「家族みたいなものなんだから」

という要の言葉には逆えず、今では共にテーブルを囲んでいる。


「そういえば、エルフ達が来るのは今日の正午だったか?」


要の質問に答えるのはやはりベルゼブブだ。


「はい。そうでございます。族長のシルフという者が来るそうなので、私の眷属に迎えにいかせる予定です。」


「そうか。ならアスモデウスも付いていってくれるか?同性がいた方が安心できるだろうし。」


アスモデウスが上品な仕草とは裏腹に頬袋が出来るほど詰め込んだものを飲み込み返事をする。


「お、お任せ下さい!その役目果たしてみせます!」


「うん。よろしく頼むよ。一度行った場所だから"空間転移"で向かう方が楽だとは思うが念のため眷属と向かってくれ。」


「畏まりました!」


要がいう"空間転移"とは要を含む六人の悪魔達が使用できるスキルで、移動時間0という優れものである。ただし、一度訪れた事のある場所にしか転移はできず、自身以外の生命体は共に移動する事はできない。それでも十分に強力なスキルなのだが。しかし要に限定されることだが、自らの眷属達のみ共に移動することが可能である。

先日エルフ達の集落から要が二人を抱えて城に戻ったのがこのスキルなのだ。


「さて、エルフを迎える場所の話なんだが一人では玉座の間は味気ないし、いつものリビングでいいかな?」


「要様!リビングは私たちの憩いの場です!エルフを入れることは反対です!」


口元にケチャップを付けた活発なマモンがそう言うと


「あるじさま、私もいや。」

リヴィアも続いてそう言った。

正面に座るマモンの口元を拭いてあげながら要が返事をする。


「二人がそう言うならリビングはやめておこうか。それじゃあ一階にある広めの部屋を応接間ってことにしてそこに呼ぼうか。」

(子供達からしたらあの部屋はパーソナルスペースみたいなものなのかな。可愛いなぁ。)

「賛成です!」

「わたしも、賛成。」


「リヴィアはともかくマモンは要様に甘えすぎです!いくら要様がお優しいからと言ってわがままばかり言ってはいけませんよ!」


「うるせーデカ女。要様が良いって言ったんだからいーじゃん。」

不貞腐れたようにマモンがアスモデウスに言い返す。


「マモンには少し躾けが必要みたいですね。」

デカ女という言葉に引っ掛かったのか、完全にお怒りオーラを放つアスモデウスにマモンはニヤッと小馬鹿にした様な笑みを浮かべていた。


(こう見るとマモンが弟でアスモデウスはお姉さんて感じだなぁ。)

などと微笑ましいといった様子で要は二人を眺めていた。


「マモン、カナメ様の前でケンカはだめだ」

「そうですよお二人とも、アスモデウス要様が見ておりますよ?」

そういって止めるのはベルフェゴールとベルゼブブだ。

「喧嘩、だめ。」

ついでにリヴィアも。

(ベルゼブブが頼れる長男でベルフェゴールが支える次男て感じかな。

うんうん本当の兄弟みたいじゃ無いか。そしてリヴィアが末っ子と。)


「か、要様の前でお恥ずかしいところをお見せしました!」

耳まで赤くしたアスモデウスが謝り、

「要様ごめんなさい!」

翼をションボリさせたマモンが続く。


「全然怒ってないよ。二人とも兄弟みたいなものなんだから仲良くね。さて、そろそろエルフを迎える準備をしようか。」


「「はい!」」


食事を終えた要達は早速準備を始めた。

準備といっても部屋は元々あるものを使用するだけなので、主に要の服装を変え、身嗜みを整えるぐらいなのだが。

要は普段から黒のパンツに適当なシャツを選び好んで着ている。

城の大きなクローゼットには多種多様な衣服が用意されていた。それこそ着物からメイド服といった変わり種まで幅広くだ。

どこぞの王様が着る様な服もあり、一度着てみたがお世辞にも似合っているとは思えなかったので余程のことがない限り着る機会は無いだろう。(眷属達には大好評だったのだけれども)

エルフと対面するに当たり、“魔王モード"で会うことは辞めておくことにした。あの姿では落ち着いて話すことは難しそうだし、何より要自身あまりなりたい姿では無かったからだ。

色々服を試してみたが、結局普段と代わり映えしない黒のパンツに白シャツといった組み合わせで決まった。


(話をするだけだし、みっともない格好じゃなければ問題ないよな。)


支度を終えると城一階にある、本日より"応接間"になった部屋に移動することにする。部屋の広さは15畳程あるだろうか、床には落ち着いたブラウン系のカーペットが敷いてあり、部屋の中心部分には大理石のテーブルが置いてある。

そのテーブルを挟み、向かい合う形で光沢のある黒のソファが置いてあった。

白の壁には大きな絵画が飾ってあり、天井には上品なシャンデリアがぶら下がっている。全体的にシンプルだが高級感漂う部屋といった感じだった。


部屋に入ると森に向かったアスモデウスを除く四人がすでに待っていた。

上座のソファに座る要の背後に並ぶ様な形で整列する予定らしい。


要が部屋に入り少し経つとアスモデウスから念話での連絡が届く。

どうやら城の正面に到着したらしい。

応接間まで来る様に伝え、アスモデウスとエルフの到着を待つ。




覚悟を決めたシルフの家のドアを鳴らす者がいた。恐らく、ドライアドのニンフだろうとシルフは思った。お互い集落の種族を纏める立場であり、悩みを共有できる良き友人だった。優しいニンフのことだ自分を心配して訪ねてくれたのだろうと思い、ドアを開けた。そこにはやはりニンフが立っていた。しかし、その横には白の軍服を着た美しい女性が立っていた。

淡い桃色の髪とそこから覗く瞳には怪しい魅力があり、同性のシルフも思わず見惚れてしまうほどだった。

しかし、見惚れていられる時間はほんの一瞬ですぐさまシルフはその場に跪く。

目の前の美女が城の使いだと察したからだ。そしてそれを見て美女が口を開いた。

「私の名はアスモデウス。要様の命により貴方を城へとお連れします。」


「は、はい!お迎えに来ていただきありがとうございます!」


「では、城に向かいますこちらへ」

そう言われ見たことのない蝿の魔物の背中に乗り込み、初めて空を飛んだのが10分程前の話。

シルフは現在アスモデウスと名乗る美女に連れられ美しい城の中を歩いていた。

何度が人間の街に行ったことのあるシルフだがこの城程美しい建物は見たことはなかった。遠目からしか見たことはないが王都の城にも負けないように思える。

これからこの城の主人であるアモン様が待つ部屋に向かうらしい。

緊張と恐怖で口の中の水分はもう残っていない。そんなシルフを気にも留めずアスモデウスは足を止めた。どうやら目的の部屋についたらしい。一つノックをした後


「要様、アスモデウスです。エルフ族のシルフ無事連れてまいりました!」

入れとの声が聞こえ、アスモデウスがまず部屋に入った。気後れしつつシルフも部屋に入った。

そこには高級そうなソファに腰掛ける

人間のように見える男と、それを見守るように背に立つ四人の悪魔達が待っていた。シルフ震えながらは慌てて跪き、

部屋の主人からの言葉を待った。


「そんなことはしなくても大丈夫。

どうか立ってこちらに来て欲しい。何度も言うが危害を加える気は全くない。」


優しげな声でそう言われて、シルフは立ち上がり要の対面のソファの辺りまで近づいた。座って欲しいと勧められたが、

恐れ多いとの断った。しかし、横にいるアスモデウスから

「要様のご好意を無下にする気?」

と言われてしまい観念したようにソファに腰を落ち着けた。


「ようやく落ち着いて話ができる。

まずは、この間突然の訪問で混乱させてしまったことを謝ろう。」


要がそう言うと慌てたようにニンフが答える。


「しゃ、謝罪など勿体ないです!

私たちの方こそオーク達から救ってもらったに関わらずあの様な事になってしまい申し訳ありませんでした!」


「気にしないでくれ。

では、もう一度自己紹介からしようか。

私の名前は安門 要という。この場に居るのは私の家族のようなもの達だ。

君の事はシルフと呼んでも大丈夫かな?」


「はい!シルフで構いません。あのアモン様とお呼びしても宜しいでしょうか?」


「様なんて付けなくてもいいんだけれど、そちらの方が楽なのなら構わないよ。まだ緊張しているみたいだな。

飲み物でも飲んで落ち着いて欲しい。

紅茶とコーヒー、ジュースもあるが何がいいかな?」


「済みません。どれも私では知らないものばかりです、、。」


(エルフ達は森で暮らしているからか、そう言ったものは飲まないのかな?

此方の世界に無い可能性もあるな。)


「そうかでは、ベルゼブブ私にコーヒーと彼女にオレンジジャーを頼む。」


「畏まりました。」

そう言ってベルゼブブは用意していたワゴンから手際良く飲み物をテーブルに置いた。


「これは果実を絞った飲み物なんだ。

オレンジジュースと言ってね。口に合うと良いのだけれど、良かったら飲んでくれ。」


「はい!いただきます。」

シルフは見たこともないオレンジ色の液体に恐る恐るという感じで口をつけ、その後一息に飲み干した。まさにグビグビと。

「と、とても美味しいです!」

目を輝かせシルフはようやく笑顔を見せた。

「気に入って貰えて良かった。

それで話に入ろうと思うんだが、まず私たちは遠い場所から最近この土地に来たばかりかでね、この辺りの事を詳しく教えて貰いたいんだ。もちろん答えられないことはむりにはきかないが。」


「私に答えられることであれば、全てお答えしたいと思います。」


要は様々な事をシルフに聞いた。

どうやらこの辺りの土地は"マゴニア"という大陸の北西に位置する場所にあるらしく、エルフ達が住む巨大な森"ラハムの森"を隔てて魔物や亜人が多く生息しており、人間たちからは魔族領とも言われている場所だそうだ。ラハムの森を越えた所には人間の住む国が三つほど存在しており、キャメロット王国、イリアス共和国、アトランティス帝国という国があるとの事だった。シルフが知っているのはこのマゴニア大陸内の国の事なので、その他の大陸の事は殆ど知らないらしい。

基本的に人間は亜人達にあまり友好的では無く、亜人の中でもエルフなどのように人に近い人間種でも虐げられてことも珍しくないそうだ。それも国によって様々らしいが。

悪魔については自然界には存在せず、

時折人間達が召喚するのを見たことがある程度との事だった。

そして"魔法"についても聞いてみた。悪魔の身体になってから己の中に魔力ともいえるものが巡っていて魔法が使える事は感覚的に要は理解していた。しかし、他の種族や人間が魔法を使えるのか疑問があった。結果、やはり人間も亜人も魔法は使えるようだ。しかし、ある程度の才能と素養が必要らしく"魔法使い"は全体の3割から4割程だという。悪魔や吸血鬼、竜種などの上位の存在や一部の魔物などは本能的に魔法を使える個体がいるらしく要達はそれに該当すると思われた。要が興味を惹かれたのはそこからだった、なんでも

人間の中には"祝福"と呼ばれるスキルのような特殊な能力を持つ者達がいるらしく、それはシルフ曰く基礎的な身体能力で他種族に劣る人間種に神が与えた力だという。


「それで、魔法や祝福とやらを使える人間達と私を含めた六人ではどちらが強いと思う?」


要達が持つ力は規格外のものであり余程の相手ではない限り、命の危険に晒されることは無いと自覚していた。

しかし、比較対象に人間は居なかったため確認の必要がある。


「わ、私もそれ程多くの人間と戦った事はないのですが、アモン様や皆様よりも強い者が存在するとは思えません。」


「なるほど。ありがとう参考にさせて貰うよ。」

(一度出会ってみないことには確実な事は分からないか。)


「そういえば、オークに襲われていたがよくある事なのか?」


「いえ、今までラハムの森は竜種の中でも上位の竜王種の一体に支配されていたので人間もほとんど入ってくることは無く、森の秩序も保たれてましたのであれ程の大群が攻めてきたことはありませんでした。」


「そうだったのか、その竜は死んでしまったのか?」


「いえ、突然森から出て行ってしまわれました。理由分かりませんが、丁度アモン様がこの地に現れた頃かと思います。」


(最近じゃないか!おれ達が来たことと何か関係があるのか?)


「突然住処を出て行ったと、それは不思議だな。ふむ、その竜が出て行った理由は分からないが私達がこの地に現れたことにも何か関係があるかもしれない。

よし、ならエルフ達に危険が迫るようなことがあれば私たちが手を貸そう。話の礼も含めてね。」

「よ、宜しいのでしょうか?

そ、それは支配下に入らせて頂くことも可能でしょうか!?」

シルフは興奮した様子でそう言った。

突然の言葉に要は驚いた。


「支配下に入りたいって、どうゆう意味なんだ?」


「そ、その私たちはハイエルフなので集落には女しかおりません。元々長命種なので数も少なく、今までは竜が統治していたこともあり持ち堪えて居ましたが先日のように他種族の大群が攻めてきた場合に生き残るのは難しいと思われます。な、なのでアモン様の支配下に入り保護して頂きたく思います!

出過ぎた願いと十分承知していますが、

アモン様の手足となり働きますので、何卒!!」



「よ、宜しいのでしょうか?

そ、それは支配下に入らせて頂くことも可能でしょうか!?」

シルフは興奮した様子でそう言った。

突然の言葉に要は驚いた。


「支配下に入りたいって、どうゆう意味なんだ?」

震えるシルフの目には涙が浮かんでいた。


(ハイエルフって女性しかいないの!?

確かにそれじゃ大変だろうなぁ。ドライアドと共生してるのもその辺が事情だろうし。支配下って言われてもピンと来ないけど、メイドとして城で働いて貰うのもアリかも知れない。決して下心ではなく、この広い城をベルゼブブに任せるのも申し訳ないしな!!)


「なるほど、理由は分かった。それはドライアドを含む集落の総意と受け取って良いのか?それとエルフは料理や掃除はできるのかな?」


シルフはポカンとした顔をした。


「は、はい。総意でございます!それと一応一通りの事は出来ると思います。」


「そうかそれは良かった。私としては保護することについて問題は無い。

皆んなどうだ?」


要は眷属の五人を見渡した。

「ベルゼブブ」


「御心のままに。」


「アスモデウス」


「ベルゼブブと同じく要様の指示に従います。」


「ベルフェゴール」


「御身にしたがいます。」


「マモン」


「要様のお好きにして下さい!」


「リヴィア」


「あるじさまに、お任せ。」


五人共文句は無いようだった。

ただ、アスモデウスだけが微妙な顔をしていたが、まぁ問題は無いだろう。


「皆んなの了承も得た、ハイエルフ族並びにドライアド族は本日を持って私の支配下に入ることとなる。その旨集落の皆に伝えて欲しい。」


「あ、ありがとうございます!!」

涙を流しシルフはテーブルに顔をつけるほどに頭を下げた。


「では今日の所はこの辺にしておこう、

後日また詳しい話を此方で決めた後、使いを送ろう。私のしもべを何体か送っておくが構わないかな?」


「は、はい!問題ありません!ありがとうございます!」


「では、アスモデウス帰りも送って差し上げなさい。頼んだよ。」


「畏まりました。」

優雅な一礼をしてからアスモデウスがシルフを連れ、森へと向かった。

シルフは何度も頭を下げてから部屋を出ていった。手土産として渡したオレンジジュースを大事そうに抱えながら。


二人が居なくなると、要はさっそくタバコに火をつけた。実は要も軽く緊張していたのだった。

(いきなり支配下に入らせて欲しいって言われた時は驚いたなぁ。でも人員が確保できたのは嬉しいし、情報も仕入れやすくなったし良しとしよう。)


「要様、一つ宜しいでしょうか?」


「おお、なんだ?ベルゼブブ。」


「支配下に入ったエルフ達ですが、森での立場はあまり強く無いようでした。

要様の支配下に入ったとはいえ、我々は

森に住む種族に力を見せたわけではありません。ですので、竜の支配無き今の森は非常に不安定なのでしょう。エルフ達を襲う種族が出てくると思われます。その度に救いに向かうのは少々手間が掛かります。以上の理由から"ラハムの森"全体を支配下に置いてしまわれてはどうでしょうか?」


ベルゼブブのいう事は尤もだった。

要達を強者と認識しているのは現状エルフ達のみであり、他種族は未だ要達の存在を認識しているかすら怪しいところだ。(実際は森で要が放ったオーラにより認識はされているが)

そう考えるとベルゼブブの言う通り森を支配下に置いた方がエルフ達の安全は確保できるだろう。また、ラハムの森には豊富な資源が眠っていた。今までは竜王の存在があり迂闊に手を出すものは居なかったが、竜王無き今人間や他国の魔物が森に侵入することは容易に想像できる。その余波が要達に届かない理由は無い。元々人と魔物が相容れない世界なのだ、悪魔の要達を発見した人間達が素通りするとは考えにくい。その時の為にも戦力の増加は要も考えているところだった。ベルゼブブの不安定という部分にはこういった意味も含まれているのだろう。


「確かにそうだな。しかし、森全体を養うとかは無理だぞ?」


「そこは問題ありません。幸い巨大な森ですから食糧には困らないでしょうし。今まで通り森で生活してもらい、知能を持つ魔物は従わせましょう。どうしても歯向かうようなら殲滅するなりしてしまえば良いかと。」


(支配下というより制圧に近い感じか。

知能が高くない魔物は別に従わせなくても良いんだし、めぼしい種族を従わせれば何とかやれそうだな)

「確かにそれなら問題ないな。

じゃ、その方向で動き出そうか。念のためエルフ達の集落に悪魔達を派遣して再度、森の調査をしてからにしよう。ベルゼブブナイスな提案だな。」


「有難うございます。私共も要様に頂いた力を試してみたかったので。」


ふふふと笑うベルゼブブはとても良い笑顔を見せた。



その頃集落に無事に戻ったシルフを待っていたのは、種族を挙げた歓迎だった。

ハイエルフもドライアドもシルフを見つけると抱きつき、涙を流した。


「おかえりシルフ!私もう会えないかと思ったよ!」


「何もされなかった!?体調は大丈夫?」


などと口々に安堵と心配の言葉を掛け合った。シルフもほっとしたのかその場にへたり込み、皆と再会できた喜びに涙を流した。


「私は無事よ!アモン様はとてもお優しいかったわ!とても美味しい飲み物もお土産に持たせてくれたの!」


笑顔を見せたシルフに皆が安堵した。


「それでね、皆んな心して聞いて欲しいのだけれど、私たちはこれからアモン様の支配下に入るわ。」


そう聞いた途端、先程までの歓迎ムードが一転お通夜のように暗い空気が漂った。しかし、シルフは話し続ける。


「皆んなよく聞いて、この話は私からお願いしたの。アモン様はあの恐ろしい姿でなく人間の姿で対話してくださったの。とてもお優しく、悪魔とは思えないほどに。そして今日の話のお礼として私たちの集落に危険が迫ったときは助けてくださると仰ってくれたの。

私たちは遅かれ早かれどこかの種族に取り込まれてしまうでしょう。それは野蛮なオークかも知れないし、もしかしたら人間達に捕まるかもしれない。

そうなるくらいなら、あの圧倒的な力とお優しい心を持ったアモン様に従った方が絶対にいいと思ったの!勝手に判断してしまったことは謝るわ。けど、アモン様に従うことは決して間違っていないと思うの!」


集落の者たちは戸惑いを隠せないようだった。だが、ドライアドの長であり、シルフの友人でもあるニンフが話し出した。


「私たちはあの方たちを見た時に絶望したわ。オークを一瞬で殺し尽くしたあの二人も恐ろしかったけど、アモン様は比べるのもバカらしい程に怖かった。

そんな方たちが優しいなんて信じられないけれど、貴方が無事に帰ってきたのは事実だし。私たちに力がないのも事実よ。だから、私は貴方の事を信じるわ。

まだあの方たちを信じることは難しいけど、シルフのことをシルフが決めたことを信じるわ。」


「ありがとう、ニンフ。」


「皆んなはどう?」


「族長二人がそう言うんじゃ私たちは従うだけよ。正直恐ろしいけど貴方達を信じるわ。」

ニンフの問いかけに私もよと続々と声が上がった。


「皆んなありがとう!これから私たちはアモン様に精一杯お仕えします!皆で助け合い頑張りましょう!」


シルフの目には希望の光が灯ったように輝いていた。










































       

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