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魔王の行進!  作者: くるぶしソックス
2/6

魔王と五人の眷属達

目を覚ました彼-安門 要-のみた光景は

慣れ親しんだ自分の部屋では無かった。どこか高級感漂う黒を基調とした壁に、金色の刺繍が入れられていた。

決して下品なものではなく、それどころか上品な仕上がりでまるで1枚の絵画を見ているようだった。そんなものが一面に広がっていたのだから驚くほかはない。部屋の上部にはいくつもの巨大なシャンデリアがあり、眩くも優しい光を灯していた。床には向かいの扉から自身が座る椅子手前の階段の前まで真紅のカーペットが敷かれていた。遠目からでも分かる高級品であり、ジュースなど溢した日には弁償代が幾らになるのか想像もつかない。もっとも彼の安月給で足らないだろうということは分かるのだが。

そんな人生でも入ったことのない様な、文不相応な部屋で目を覚ました彼が一通り驚き終え、ようやく冷静さを取り戻した。

(夢・・か?夢だっとしたらどこからが?間違いなく本を読むまで、質問が終えるまでは現実だったのは間違いない。それにあの光と不快感が夢とはとても思えない。てことは・・)

「本当に来ちゃった?異世界に」

思わず口にでたその言葉は思いの外大きく部屋に響いた。


(待て待て待て、異世界だと決まった訳ではない。ここがどこかは分からないが案外手の込んだドッキリとかかも知れない。だかもし万が一本当に異世界だったなら・・やばいんじゃないか?

せめてあの本があれば何かわかったかも知れないのに)

そう彼が考えたとき突然目の前に本が現れた。

ひっ!?

要は心底驚いた。その本が怖かった。

間違いなく自分の置かれている状況はこの本が原因だと確信していたし、またあの不快感に襲われるかもしれないと思ったからだ。

しかしながら、目の前の本が唯一の手がかりだということも分かっていた。数分考え要は本を恐る恐る手に取りページを開いたー。

なにも起こらなかった。閃光も吸い込まれる不快感もないことに安堵した。


本には要が答えた質問のページは無くなっていた。代わりにこんなことが書かれていた。


[まずは無事に異世界転移おめでとうございます。ここはエーリュシオンと呼ばれている世界です。安門 要さん貴方はこれからこの世界で生きていくことになりました。元の世界には戻ることは出来ませんのでご理解ください。]

(マジで異世界だったらしい、、)

[安門様がいま居るのは城の玉座の間です。城は貴方の物なのでご自由にお使いください。]

(お城つきってこうゆうことか、、)


[転移するにあたり安門様が獲得した能力と使い方を脳に直接送信させて頂きます。素晴らしい余生を送られることを心よりお祈りしております。]


読み終えると本は消えてしまった。

要は軽いショック状態になっており口を半分開けたまま放心していた。

しかし、放心できたのはほんの僅かな時間だった。頭の中で声が響いたからだ。それは無機質な機械的な声であったが、不快ではなくむしろ落ち着くことができた。精神を安定させる効果を持ってるのだろうか、結果として要は落ち着くことができた。


対象安門 要の精神安定を確認。

送信を開始します。


特殊固有スキル[魔帝シリーズ]"サタン"送信開始します。

[悪のカリスマ]完了。

[眷属創生]完了。

[悪魔召喚]完了。

[魔帝の威圧]完了。

[魔の時間]完了。

[代行者]完了。

[魔帝シリーズ]送信完了しました。


次に種族スキル[最上位悪魔種]送信開始します。

[状態異常耐性]、[物理攻撃耐性]、[不老]、[即死無効]、[魔法適正]、[魔の知識]・・・etc

スキルの送信を完了しました。


スキルの送信を終えた要に起きた変化はまずはその外見だろう。深い闇が纏わり付くように要を覆うとそこからは明らかな異形が姿を現した。

鱗が生えたような漆黒の鎧に身を包み、頭部には野生の獣を彷彿とさせる二本のツノが生えていた。顔と一体化した様な仮面からは鋭い牙が生え揃い仮面の下からは真紅の眼が炎を灯したかの如き怪しい光を発している。禍々しくもその威風堂々たる姿は"魔王"という言葉が相応しいものだった。異形となった自身の姿を見てもー正確には全身の確認は出来ていないがー彼は驚きや焦りといったものは感じなかった。初めからそうだったかのように受け入れることが出来ていた。それどころか身体に流れる溢れんばかりのエネルギーに高揚していた。


あまりに突然の出来事だった。

怪しげな本に吸い込まれ、気がつけば見知らぬ部屋、それも荘厳な。スキルなるものを獲得し、悪魔の体を手に入れた。常人ならば慌てふためくだろうこの現状も、今の要にはなんら問題にはならない。

要は悪魔になったのだから。それも悪魔の王である至上の存在に。

高揚も冷めぬまま要はスキルを発動する。

「眷属召喚、我が前に姿を表せ。」


その言葉と共に淡い光を発する五つの魔法陣の様なものが出現した。そして五つそれぞれから現れる者たちを形作るように影のようなものが纏わり付いた。

蠢く影は次第に落ち着きともとれる様相を呈し、まるで影の殻を破るように異形達が現れた。

五つの異形は先程の異常な状況からは考えられるほど静かに、そして美しさを感じるほど見事に、胸に手を当て跪いていた。それは偉大な創造者への畏敬の念の現れであった。

眼前に跪く異形達を目にした要は満足そうに頷き、口を開いた。その声は重々しくそれでいて優しげな声だった。

「はじめまして。というべきかな?

まずは、無事にお前達を生み出せたことに私は深く満足している。私自身が生み出したのだ、名前や能力などはもちろん把握している。しかし、折角だ、一人ずつ自己紹介でもしてもらおうか。まずは、ベルゼブブからにしようか。」


「はっ!」五人の異形が声を揃えて返事をした。そして中央に跪くベルゼブブと呼ばれた異形が口を開いた。その外見は異形というにはあまりに美しい男だった。真白の肌に漆のような黒髪から深い紫を帯びた瞳を覗かせ、魅了するかのような笑みを浮かべている。しかし、執事の様な燕尾服からのぞく蝙蝠のような翼と異常に尖った耳は人間のものでは無かった。


「まずは我らを生み出してくださったことに深い感謝を。そしてご尊顔拝謁することができまして恐悦至極に存じます。

矮小な身ではありますが、我らが王に忠誠を捧げたく存じます。」


「うむ、次にアスモデウス。」

名を呼ばれ顔を上げたのは美しい女だった。透き通るような肌に、愛情を込めたような淡い桃色の瞳。胸元まで伸びる髪は瞳と同じように美しい桃色をしている。白の軍服のようなものに身を包み、腰には刀を携えていた。


「はっ!我が主の剣として盾としてこの身が果てるまでお仕えさせていただきます!」

要は優しげな目を向け、次の異形に視線を移した。

「ベルフェゴール」

そう呼ばれたのは体長は2.5メールほどあるだろうか、灰色の体毛に覆われた上半身は異様に細く、猿のようでもあった。しかし細い腕には見合わない大きな手には鋭く長い爪が伸びていた。

黒の体毛で覆われたヤギのような下半身はアンバランスなほど太く屈強である。

顔の上半分は黒のベルトで巻かれており頭からは大きな二本の捻れたツノが生えている。知性など感じられない風体で、まさに"魔獣"といった感じの悪魔がゆっくりと話した。

「王のために生き、王のために死にたくおもいます・・・。」

辿々しい言葉だったが確かな決意を感じるものだった。


「マモンお前の番だ」

そう言われ、待ちわびたと言わんばかりの笑顔を見せたのは金髪に黄金のような目を持つ男だった。まるで貴族の様な華々しい服で着飾っていたが顔にはまだ幼さが残っている。そして背中からはカラスのような真っ黒の羽が生えていた。

「あるじさま!貴方様の為に力を振るえること嬉しく思います!これから一生懸命頑張ります!」


無邪気な少年の言葉が玉座の間に響いた。

「最後になったがリヴィア。」

そう言われたのは身長1.4メートル程の少女だった。深い海のような碧の瞳と銀色のロングヘアーを持った少女は、水色と白のロリータファッションといわれるような服を着ており、人形の様に可憐であった。

「わたし・・あるじすき、がんばる」

静かな小さな声で言い終えると照れ臭そうに顔を伏せた。


「皆の忠義確かに受け取った。

お前達は私の肉親のような存在だ、私のことは"要"と呼んでくれ。これから長い付き合いになると思うが宜しく頼むぞ。」

「「はっ!要様の仰せのままに!」」

「さて、まずはこの城の周辺を捜索せねばならぬだろう。」

そういうと要は自身のスキルの1つである"悪魔召喚"を使用した。


要のスキル悪魔召喚は24時間をリミットとして最大20体の悪魔を呼び出すことができる。ただし上位悪魔を召喚する場合はその一体のみしか召喚することはできない。これは上位悪魔がかなりの力を所有してることに起因する。

召喚者の要には絶対服従であり、どんな命令でも行う。通常悪魔を召喚する際にはそれに応じた供物を捧げる必要がある。それは金銭だったり、血肉であったりと呼び出す悪魔によって様々であるが要のスキルは供物を一切必要としない。

まさに破格の能力である。

このスキルにより召喚できる悪魔は

上位悪魔/1体

中位悪魔/9体

下位悪魔/15体

である。今回は探索ということで数を重視し、下位悪魔15体と中位悪魔5体を召喚する。

魔法陣からレッサーデーモンと小悪魔(インプ)と呼ばれる悪魔達が頭を現れ、頭を下げた後要の指示通りに動き出す。


「さてそれでは周辺の調査はあやつらに任せるとして、私たちは城の内部を調査した後、親睦を深めるとしようか。ベルゼブブ料理を頼めるか?」


「お任せ下さい。腕によりを掛けてお作りさせて頂きます。」

「うむ。頼んだぞ。さて、この姿では生活するには些か不便かな。」

そう言った要の身体は軽く光を放つと、そこには先ほどまでの威厳を纏った王は居らず、黒目黒髪の29歳が玉座に座っていた。


(うぉぉぉぉーー!!恥ずかしい!!

なんだ今までの偉そうな態度は!!

なに様だよ!!もちろんあれが自分だってことは理解してる。理解しているが!なんていうか、もう一人の自分が暴走してる感覚か?どうにも心地よくてあんな感じになってしまった、、ぁあ、皆んながこっち見てるよ、、大丈夫なの?一匹すごい化物がいるだけど食われない?)

そう、要の先ほどまでの覇王の態度はあの外見の状態で自然に行ってしまったものであり"魔王モード"とでも呼べる状態だったのだ。

(まずい、、皆んながガン見してる、何か話さないと、、でもあんな話し方おれにはできないぞ!?普通に話しても大丈夫か!?いや、無理して変な言葉遣いになったらそれこそ恥ずかしい。ここは覚悟を決めるしか無い!!)

意を決した要はいつもの口調で話しかける。

「皆んなこの姿に驚いたと思うが、こっちの姿のが楽なんだ。あまり威厳は無いと思うんだが、なんていうのか、その、大丈夫か?」

(ぁあ、ダメだ、想像よりも情けなかった、、あまりどころじゃないや、これは呆れられたか、、?)

不安そうに見ると皆キラキラとした表情で要を見ていた。ベルフェゴールだけは表情が分からないのだが、、。

「要様・・・」

(べ、ベルゼブブ!!やっぱりお前は許してくれないか!?)

「我らを気遣いそのようなお優しいお言葉遣いをしてくださり、感無量で御座います!!そのお姿も凛々しく素晴らしいかと!」


「わ、私もそう思います!」


「僕も!」


「あるじさま、かっこいい。」


ベルフェゴールはうんうんと頷いていた。

(み、みんなが優しくて本当に良かった!!ちょっと勘違いしてる感じがしないでもないけど、これでとりあえず不安はないな!)

「ありがとう。お前達も気楽に話しかけてくれていいからな。家族みたいなものなんだから。」

「「ありがとうございます!!」」


この日の親睦会は大きなアクシデントも無く無事成功に終わった。


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