表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼 -逸話集-  作者: 江戸まさひろ
────の章
8/13

-鬼-

(え……?)


 老婆の話に太浪は衝撃を受けた。

 鬼が人間の生活の中に潜り込む──つまりそれは、身近な人間の中に、正体が鬼である者がいるかもしれないということだ。

 そしてそんな人物がもしも本当に存在するのだとしたら、彼にはたった一人だけ心当たりがある。


 それは数十年前、実際に鬼に遭遇したことがあるという目の前の──。

 そんな恐るべき推測に(おのの)く太浪の前で、老婆の話は更に続く。


「……鬼は若い人間の娘を捕まえ、そいつを食った。

 その際に記憶と姿を奪い、自分が鬼であることも忘れ、その娘として人間達の中にまんまと紛れ込んだのさぁ。

 それから数十年の時間が流れ、人間の生活に飽きてきたワシ(・・)は自分が何者なのかを思い出した……!」


「ひ……っ!」


 太浪はよろけながら後退る。

 明らかに老婆の気配が変わったからだ。

 それは最早、老婆では──いや、人の物では無かった。


 事実、年老いて弱々しかった老婆の顔は、まさに鬼気迫る物へと豹変していた。

 微かな蝋燭の光を照り返す双眸は、獲物を狙う野獣の如き凶暴な情念が込められているようで、それ自体がギラギラと輝いているようにも見えた。

 それが脅える太浪の姿を()め上げる。


「……だが、ここを立ち去る前に、ワシの話を信じず、散々疎んじてきたこの家の連中を食い殺していこうと思ってなぁ……。

 太浪や……最後の一人となったお前の帰りを、ここで心待ちにしておったよぉ……!」


(こ、ここで……!?)


 老婆の──いや鬼の、恐るべき告白の中に、太浪は聞き捨てならない言葉を聞いた。

 鬼は太浪の帰りをこの家で待っていたという。

 ならば彼が遭遇した、あの霧の中の存在は一体──。


 だが太浪は、その事実を鬼に問い質すことができなかった。

 目の前にいる存在に対する恐怖で、些細な疑問は瞬時に消え去ってしまったのだ。

 無理もない。

 今、太浪と相対する老婆の姿は、大きく膨らみつつあったのだから。


 かつては見下ろすほど小さかったその姿は、いつの間にか見上げるほど大きくなっている。

 着込んでいた衣服は破れ散り、その下からは年老いた女性の物ではなく、屈強な男性の裸体が現れた。

 ただし、肌には赤味がかかり、所々に針金のように太い体毛が確認できた。

 そして大きく裂けたような口には巨大な犬歯が生え、額にも一対の大きな角が──。


 それはまさに、昔話の中で何度も聞いた、あの鬼の姿であった。

明日の更新は用事があるのでお休みします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ