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鬼 -逸話集-  作者: 江戸まさひろ
────の章
1/13

-昔語り-

このエピソードは毎日投稿して、10話ほどで完結する予定です。

ちなみに章タイトルは、この時点ではネタバレになるので、最終話で明らかにします。

 あれはまだ、穢戸(えど)の幕府が健在だった頃──禿川(とくがわ)の世が終わるなんて想像もできなかった時代……。

 その頃のオラは、まだ怖い物知らずの若い娘っこだったなぁ。

 

 そんなオラはある日、隣村へ行っておったんじゃ。

 もう何十年も昔の話だから、何の用事だったのかは忘れてしまったが、たまたま帰りが遅くなってしまってなぁ。


 その所為でもう暗くなってしまった山道を通って、家路を急いでおった……。

 今にして思えば、隣村に泊まって朝を待てばよかったんじゃろうが、さっきも言った通り、オラは怖い物知らずじゃったし、この辺は熊や山賊が出るという話もあんまり聞かんかったしのう……。

 

 なによりも何度も通った道じゃ。

 夜道でも迷わぬ自信はあった。

 実際、何度も夜に通ったこともあったし、迷うはずはないと高を(くく)っておったんじゃ。

 

 じゃが、その晩に限って濃い霧が出てしまい、前も後ろも見えなくなってしまった。

 それはもう、伸ばした手の指先が見えぬほどで、オラは一歩も進めなくなってしまったんじゃ。

 

 ほとほと困った。

 さすがにオラも野宿は嫌じゃったし……。

 いや、あの濃い霧では、寝床を探すこともできん。

 ほんに、ほとほと困っておった。

 

 オラが立ち尽くしたまま半時が過ぎた頃じゃったか、気が付くとオラ以外の息の音が聞こえた。

 それは尋常な人の息ではなく、荒々しく獣のようなものじゃった。

 いや、息だけではなく、酷く獣臭いのも伝わってくる。

 それが熊か、猪かは霧の所為で全く分からなかったが、オラのすぐ側に何かがいることだけは間違いなかった。


 これには絶望するしかなかっなぁ……。

 ただの娘には、人を襲う気になった獣から逃れる力は無い。

 相手が気まぐれで見逃してくれるのを、期待するしかなかった。

 

 ところがじゃ、相手はオラを襲う訳でも、見逃す訳でもなく、ずーっと側におった。

 ずーっと、ずーっと、もうどのくらい時間が経ったのかも分からん。

 じゃが、死が目前に迫っていたオラには、10年も年を取った気分じゃったよ。

 

 しかし、それは永遠には続かなかった。

 何故かって? 霧が晴れてきたからさぁ。


 そこでオラはようやく気付いたんじゃ。

 薄くなった霧の向こうに──オラの真っ正面のすぐ手が届く場所に、何か巨大な物が(うずくま)っていることに。

 

 オラにはそれが壁に見えた。

 いや、すぐにそれが、あの息と獣臭さの出所だとに気が付いた。

 あやつがオラに、息を吹きかけてきたのでな。

 

 まるでオラを値踏みするかのように覗き込んで来たのは、大きな生き物じゃった。

 しかし熊でも猪でもない。

 それどころか、あんな大きな生き物の話なんて聞いたことが無い。


 しかも、あやつは人のような姿をしておった。

 ただし、耳まで裂けた口には牙が並び、おでこからは角が生えている。

 

 それはまさに……まさに昔話に出てくる、鬼の姿そのものじゃった……。

方言っぽい物もありますが、特に地域は限定していないので、あくまで老人言葉の一環ということでお願いします。

というか、作品の自由度を上げる為に、日本とよく似た歴史をたどったパラレルワールドという設定を採用しています。冒頭の「穢戸の幕府」とかいうのはそういう事です。これは別のエピソードでも共通した物となる予定です。

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