世界最強と捨て子2
赤子を目の前に結界を叩き割った僕と、その隣で腐 卵臭の霧に今にも吹き飛ばされそうな薄さで漂う幽霊。
「神は僕を見放した…」
『あれお前、なんか宗教にハマってったっけ?』
「たった今はじめて信仰した」
『いやそれは見放すだろ』
運命の神様はどうやら僕に辛辣らしい。
赤子は見た感じ普通。むしろとてもご機嫌だ。
周囲の生体反応は無い。そもそも無いのが当然だ。とりあえず、結界を叩き割ったおかげで火の王がこちらに向かってきているので、ちょっと準備をしておこう。
火山の表面に赤子を放り出すしておくのはよろしくない。ので、状態を確認してから軽い治癒魔法&赤子と自分の周辺に守護魔法で小さく結界を張った。守護魔法の効果で赤子浮いてる、かわよ。
「微力ながらも魔物の気配をまとう赤子……すごーく嫌な予感がするんだけど、見た感じ父さんはこういう類いのもの見たことある?似たような感じでも良いからさ」
『あると言えばあるけどね。ただ少々信じがたいよこれは』
幽霊はそう言って、霧のせいで細切れになってチカチカと光る、ご自慢の金の刺繍が散りばめられた高そうなローブを揺らして、さぞ愉快そうに言い放った。
『似てるやつで一番近いのはたぶん魔王だねぇ』
「予想通りすぎて泣く」
この世界では、魔力の使い方として人間に一番化けられる能力が高いものが偉い、というのが魔物の常識となっている。
僕は魔王に会ったことはないけど、容姿はかなり人間に近いらしい。最高位だしね。
さながら人間って感じらしく、顔は怖いしすぐに周りに流されるが、根は良いやつなんだと。終末の過ぎた今では、たしか各地を巡って、終末に自分が破壊してきた所を修復しに行っているとつい最近聞いたはずなんだが…。
『でも、あの魔王がこんなとこにガキ捨ててくとは思えないんだけどな~。まーた周りに流されてやらかしたかあいつ。お前も可哀想だな、よりにもよって俺らに一番最初に見つかるとか』
魔王と面識のある幽霊。もとい父さんはそう言って赤子の近くを漂った。
見た目は死んだ時のまま、30代くらい。
代々受け継がれていたというプラチナブロンドの髪に白銀の瞳。キラキラと光る金色の刺繍があしらわれた紫のローブは国の中でも最高峰の魔法使いであったことを表す。
父さんは終末よりも前に起きた戦争で、魔法使いとして派遣されて死んだ。まだ僕は小学生くらいだったから、マジかうちの家どうすんだという絶望で顔面蒼白になっていたんだけど、すぐに『ただいまー』と言って平然と帰ってきた。霊体となって。
そこから話も早く、唖然としているうちに勝手に後継者として家業(魔法職)を継がされ、次の戦争に備えるための訓練が始まり、数年後には同伴され終末を向かえる世界に繰り出し、今に至るというわけ。
何を言ってるかわからないと思うが僕も未だによくわかってない。
詳しいことは何も教えてくれない。けれども目の前にいるぼやけた霊体のそれが父さんだということはわかる。
ちょっとお茶らけた性格で、時には厳しかったり優しかったり。うちには母さんはいなかったけど、そんな寂しさなど感じさせないほど、父さんは家族思いで優秀な魔法使いだった。
色々と謎の多い人で、無駄に交友関係が広かったり、いろんな方面から慕われてたり。今の魔王とも、というよりはその先代の魔王との方が仲は良かったとか。
死後も謎の多い父さんは、何故か今は僕らの守護霊として収まっている。
「一緒にトイレ行こーのノリで赤子捨てるはヤバすぎだと思うんだけど??」
『ま、そういうやつだからねぇ』
その言葉を最後に、すぐそばで唐突に沸いた蒸気で父さんの姿は掻き消えた。まあでも、たぶんそこにいるんだろうなって感じはするから別にいい。
「とりあえず火の王に会ってから蒼ちゃんに相談だな…」
2020.5.4