世界最強と捨て子1
エブリスタ投稿小説[零帝様は、親バカです!]のリメイク版です。
死の火山と呼ばれる灼熱の火山。
とある世界でそう呼ばれ恐れられた火山に、青髪の若い魔法使いが一人、歩いていた。
_ _ _ _ _
? side
歩くたびに足の裏からじんわりと熱が伝わる。地面はひび割れ、腐卵臭が吹き出し、草木一本生えてはいない。傾斜はおおよそ60度くらいだろうか。かなり際どい傾斜のわりに、足元は歪な火山岩で埋められていて、立っているのもやっとだ。
正直、ここはあんまり来たくない。あっついから。超汗かくから。
でも、ここに来れるのは僕しかいない。そして彼に会えるのも、たぶん僕くらいしかいない。
この火山の火口付近には、火を司るドラゴンの王が生息している。
彼は未だ付けられてはいない自分の名を僕に付けてほしいと願ったけど、僕は彼を友人として、尊敬する先生として、名付け親になることはできなかった。
それでも、巷で『あの山のドラゴンが~』と一括りにされるのを大層嫌う彼に、僕は親しみを込めて“火の王”と呼ぶことにした。
そして彼と、ある約束を結んだ。
ここは異世界。魔法が使えて、ドラゴンがいたり魔王がいたりして、勇者は何故かいないけど、別段平和で、特に大きな争い事も問題も起きない、愛すべきファンタジーな世界。
でも昔は違った。
国同士の領土を巡る戦争・紛争の絶えない日々。国では魔力の暴走による事件が多発していて、魔法を使えるものは皆危険視されていたし、ドラゴンはきまぐれに街一つ破壊しようと突然住処から降りてきたり。魔王は中二病に罹って世界征服を企んでいたし、そのせいで勇者召喚も検討されてたんだけど。
でもすべて、解決した。無事解決!とまでは言えなかったから少々のわだかまりを残して。世界の暗黒時代は終わりを告げたのだ。
後にその終結に大々的に関与していた魔法使い『零帝』の名が国王陛下より世界中に知れ渡り、今では『零帝』を題材とした本や絵本が発売されたとかなんとか。
おおっと、脱線した脱線した。
話を戻して…彼、火の王と、その終末に結んだある約束。それが、僕が今火山にいる理由。
『一年に一回は必ず顔を出すこと』
……よくわかんないけど、寂しがり屋なんだよドラゴンって。
ちなみにどうしてチマチマ歩いて登山しているのかというと、ドラゴンのいる山では魔法は基本的に使えない。ドラゴン特有の守護結界なるものが山全体に張られているために魔力の干渉が出来なくなっているそうな。
まぁ、一度割ってみたんだけどね、めんどくさくて。
そしたらドラゴンに怒鳴られ嘆かれ泣きつかれてさらに面倒なことになったので、もう二度としないって決めたんだけど…………
「……」
「ふにゃあ、ふぎゃあ、ふあう」
「…やっぱ結界破った方がいいかな」
『え、動揺しすぎじゃない?大丈夫?』
「全然大丈夫じゃないし助けて」
生物が理論的にも生息できないと言われている、この山。そこで突如、麻布に包まれた上機嫌な赤子に出会った僕はどうすればいいんだろうか………?
お願いだから、教えて神様…。
そう思って僕は結界を叩き割った。
初投稿(2020.5.4 13時頃)