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爛漫に降れ秋の雨  作者: ニワトリ
9/10

予感

 夏休みが過ぎ、秋になった。お互いの居住が離れているので夏休み中に毎日会うことはなかったが、頻繁に連絡は取っており、白亜の最寄駅で二度ほど会った。その時に親の実家に帰ることや家族旅行することを話して、お土産を交換する約束をした。

 あの本屋にも行ったが、幸い倉敷には会っていない。私にとって倉敷はもはや一回あったきりの男で、その後自分たちの会話にも登場しないから『実在するのかわからない人間』程度に思えるようになっていた。

 ただし決して忘れたのではない。そのため、私が白亜を最愛と思うように、白亜も私を同じように思ってくれているはずだという、少女漫画じみた無意識な自惚れはしないようになった。思い返すと、入学当初の私はまさしく盲目的に白亜に惚れ込んでおり、多少客観視できる今となっては若気の至りと言ってしまいたい。そういう意味では倉敷は私に冷静さを取り戻してくれた。


 しかし自惚れは制しても、やはり私たちは共通の趣味を持つ友人で、共感も多く、私にとって白亜は最愛であることは変わりない。白亜は外見も仕草も笑い方も誰より可愛らしい。こう考えると、もしかしたら私の冷静さは、ただそうあろうとしているだけで、本質的な部分は変わっていないかもしれない。


 つまり、私は自分が傷つかないように警戒してはいるけど、未だにこの少女に焦がれ続けている、ということだ。


 学校で白亜からもらったお土産は、その土地名産の味がするお菓子とストラップだった。長方形のプレートに桜が彫られていて、ワンポイントに小さなピンク色の石がはめ込まれている。お揃いで買ってくれたという白亜に私は嬉しくなって、すぐに携帯端末のケースに取り付けた。私もお揃いで持ち運べるものを買おうとして思いとどめたので、尚のこと嬉しかった。

 私は瓶詰めの金平糖をあげた。瓶の形が特徴的で一目惚れしてしまったので、自分用と白亜にと買ったものだ。白亜は嬉しそうに眺めて「可愛い」と喜んでくれた。


 おそらく私たちは、人目には何も変わっていない。そんな日々を過ごしていた。

 そんな中で、一つ違和感があった。白亜がずっと同じ本を読んでいる。しかも全然ページが進んでいない。

 毎度お互い読んでいる本を教えあったりはしていないけれど、私たちは空いている時間に本を開く。それはもう癖みたいなものだ。私はつい人が読んでいる本のページを見て、今読み始めたばかりなんだなとか、本の厚さが変わってるから別の本を読んでいるんだなとか、そういうのを無意識に観察してしまう。今白亜が開いている本は先週からずっと同じで、読まれている分量も大して進んでない。


「白亜、今何読んでるの?」


 登校してホームルームが始まる前の教室で声をかけると、白亜はいつもの調子で答えてくれた。あんまり読み進めてないのは、表現が難しかったりするのかと加えて尋ねると、白亜は自分が今開いている本を見下ろして、「よく見てるのね」と感心したように笑ってから本を閉じた。


「ちょっと……」


 何かあるらしいが、白亜は言い淀んだ。少し考えて、放課後に話すとだけ言ってくれた。

 白亜にだって悩み事くらいある。そう思いながら、私はそのことを放課後になるまでずっと頭に引っ掛けていた。

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