1ー6 予兆
コドが十二氏になったのが帝暦55年にあたります。
遂にコーシが登場です。イメチェンした彼をどう思いますか?
帝暦57年 大英帝国
四大国の一つ。最も大きな軍事力をもち、好戦的な国民が多く、国に戦争を起こさせようと画策する集団が捕らえられることも多々ある、軍事国家大英帝国が今大きく動き出そうとしている。
部屋中が真っ白であり、重鎮たちが座るテーブルと椅子だけが真っ黒に染め上げられていて、各人の前には青いバラが一本ずつ咲いている。初めて見た人のほとんどは圧倒されるかもしくは気味悪く思うようなそんな部屋の中央に座るのはこの国の王、コーシ·ドート·レクトル。若冠15歳で王となりそれまでの戦争中心主義から貿易を活発にし武力に頼ることのない国造りを見事成功させ、それからの四年間大きな反乱もなく治世を行っているいわば賢王である。
そんな彼が即位したとき一度も見せていなかった完全武装で軍事国家と呼ばれる国の王に相応しい覇気を全身に纏い静かに目を瞑っている。その王の様子に気圧され普段議論の中心となる文官達もまた、前王の時代数々の戦で勝利を導いた軍部総帥マーシャル·ルーザーでさえも口をつぐんでいる。
「余は誠に退屈である。」
静かに穏やかな声が中央の席から場に響く。まるでオルゴールのような安心するトーンであるのに不思議と聞く人の背筋をのばす。
「貿易で利を得、その額を軍部に回しこつこつとこの四年間戦力を蓄えてきた。」
誰もが静かに頷く。
「そろそろ貿易にも飽きてきたところだ。国民の鬱憤もさぞたまっていることだろう。」
かつて戦争ばかりしていた帝国の国民は平和とも言えるこの世の中に刺激を感じられず、「戦争起きればいいのに」とか「どっか攻めてきてくれないかな」とか、他国民が聞いたら正気を疑うようなことをふつうに街中で話している。今戦争を行うと言えば皆喜んで参加するであろう。文官達も戦争で出る損失よりも得られる利益を頭で計算し出している。その様子に王は目を見開き周囲を見回して言った。
「余はこれより開戦を宣言する。最初の標的はロベリスタ王国だ。みな急ぎ準備せよ。」
「「「「「御意!」」」」」
室内全員が席から立ち上がり敬礼をして直ぐ様準備を始めた。
「陛下。必ずや勝利をもたらしますぞ。」
「楽しみにしている。」
ルーザーは王の返答に再度敬礼し部屋をかけ出ていった。
全員が戦争の準備のために部屋を出ていき王が一人だけ残された。その横に突如影が差したと思うと黒髪黒目のまさに絵の中から現実に迷い混んでしまったような美少女が現れた。
「陛下。よろしかったのですか?」
「コーシと呼べと言っているだろう。口調も固いぞ。」
美少女の鈴のような美しい声に王はさっきの迫力が嘘のような穏やかな顔で答えた。
「皆の前でボロを出さぬように必死なのです。コーシだって王の口調になっていますよ。」
「職業病だな。もう直らないかもしれない。」
「王を職業の括りにいれるとは相変わらず適当ですね。」
人のことを言いながら自分の口調がおかしいことを指摘され王と美少女は笑いあった。
この国で唯一といっていいであろう、王が心を許し素で話せる相手、王妃イヤリングス·レクトル·ブラッディ。幼い頃からの知り合いで言わば幼馴染みだ。白髪であるコーシと並ぶとその黒い輝きはさらにまし同性であっても見とれてしまう程だ。コーシにも同じことが言え、均整のとれた顔つきに程よく筋肉のついた体とその輝く白髪は理想の男性像だと多くの女性にラブコールを受けている。そんなまるで陽と陰のような二人は幼いながらも王と王妃となってからもずっと支え合いやってきた。その繋がりをきることは何人にもできぬであろう。
「これから止まることのできない戦いが始まる。俺たちが生きるか死ぬかの。それに、そろそろ揃いそうだからな。顔ぐらいみておきたいものだ。」
「久々に輝いているコーシが見られそうで楽しみですね。」
うっとりとした声でイヤリングスは応じる。その後二人は久しぶりに夜が更けるまで話し込んだ。
ハワイ王国城内では慌ただしく人が行き来していた。ことの発端は帝国が動き出した3ヶ月ほど前、ハワイ帝国に届けられた一通の手紙だ。差出人は不明である。
その手紙には
[大英帝国に不審な動きあり。戦争の準備を行っている可能性大。警戒されよ。]
と記されており、相手国は書いておらず、また真偽の確認もとれていなかった。ただ、海軍司令官のマーリン、秘密工作暗躍部隊(通称 暗秘)の隊長ラズカル並びに副隊長コド、そして王子カズサールが念のため準備をした方がいいと主張したため、大急ぎで戦争のために物資をあつめ、武器を製造したり、部隊を編成しなおしたりと動いているのだ。ただ、国民に不安を与えないために、また情報が漏れていることに気づかせないために一切情報を開示せず、密かに行われている。もちろん、城勤めの人達は何となく気づいているが暗黙の了解で口外はしていない。
今日も部隊の集団訓練を行い、陣形の組み替えや、緊急時の対応などを確認し、指揮官達は自分の隊の状態などを事細かにまとめより良い状態にするため日夜奔走していた。暗秘の副隊長であるコドも例外ではなく自分の小隊の確認している真っ只中だった。昼休みになり、コドのところにカーブがやって来た。いつものようにお弁当を持ってきてくれたのだ。それを有り難く頂きながらカーブと話していると、急に近づき耳元でささやいてきた。
「訓練の後、陽射しの森にきてくれないかな。確認しなければならないことができたの。」
コドは何か普通ではない雰囲気に緩めていた顔を引き締め静かに頷いた。
コドは訓練を終え約束通りカーブと陽射しの森を歩いていた。目的地を聞いたがカーブは着いてきて、としか答えなかったので黙ってついていく。しばらく歩き、コドが霧に巻き込まれた地点につくとカーブは振り向き難しそうな顔をした。
「うーん…やっぱり私が住んでいたところに誰かいるみたいだ。昨日の夜寝ようとした時、万が一の時のために霧の部屋に仕掛けておいた警報装置がなって、私の頭に響いたの。今確認しても誰かの気配を感じる、それも二つの気配ね。放っておいてもいいけど、自分が住んでたところに勝手にはいられるのは嫌だし、それにどうやって結界を破ったのかも気になるから調査しようと思うんだけど一緒に来てくれる?」
「もちろん!僕にとっても思いでの場所だから。勝手に入った奴にはお仕置きだ!」
不安そうに聞くカーブにニコッと笑みを浮かべながらコドは力強く答えた。その答えに安心したカーブは蛇の姿になり、口から毒がついた舌を空中で動かした。直後二人の体は霧に包まれ懐かしのいわばに誘われた。
霧の間と呼ぶことにしたかつてのカーブの住みかがある空間に入ったとたん、なにかがもうスピードで飛んできた。避けようとするも突然であったこともあり、相手の方が早くコドは吹き飛ばされ岩に衝突した。カーブは後ろに退避しコドの無事を確認するとぶつかってきた生き物を睨み付けた。
「さつまいもの香りがしたから入ってみたはいいけど出れなくなってしまったなぁ。あいつはなんかのトラップにかかっちゃったしぃ」
「?その声は…それにさつまいも?」
ゆったりとした眠気を誘う声とともに現れたの赤い豚だった。体長は一メートル半ぐらいであり、全身真っ赤。目は藍色でキリッとしていて、眠たそうな声と真逆のイメージを持たせる。
「ここに住んでた人っぽい臭いを感じたから来てみたら間違えてぶっとばしちゃったなぁ、あははぁ、ぷぅ~うぅ」
「やっぱりお前かよ…」
屁をこきながら笑う豚にカーブはすっかり警戒を解き豚に近づいた。
「おーい。いきてるか~?んっ?お前の臭い、なんか懐かしいな。確か……ぼげぇぇぇぶりっぷっぷっぷぅぅ~」
「久しぶりですね。赤豚」
何か言おうとした豚を殴り飛ばしスッキリした様子のカーブは親しげに話しかけた。当の殴られた豚はその呼び名にビクッとして油がきれかけたブリキのようにギリギリっと首を回して相手の顔をみるや否や巨大な屁をかました。
「どうしたんですか。遂に言葉を失いましたか?屁で会話をしようとするとは下賎ですね。」
「いやっその。お久しぶりです。姉貴。」
怯えながらカーブを姉貴と呼ぶ豚にようやく岩から抜け出したコドは何事かと駆け寄ろうとするが、カーブの発する怒気が凄まじく近寄れない。
「取り敢えずおはなししましょうか。久しぶりですしね。ゆっくりとじっくりとおなしししましょうね。」
「はいぃ…」
いい笑顔で恫喝する蛇の姿のカーブの尻尾に巻き付けられ引きずられるように家につれてかれる豚をみながら、あれ?僕忘れられてる?といまさらながら気づいたコドはトボトボとその後をおった。
カーブに追い付くとまたコドを驚かせる事態が起こる。
「なぜ?いるの?」
「いや~まさかこんなところで会うとはね。あはは」
なんとまあ木の蔓のトラップにかかり亀甲縛りをされた王子様がぶら下がってたのだ。コドはなにがなんだか分からず思考を放棄し、ただ冷たい目を兄としたう王子に向けている。
「そうですか。あなただったんですね。まぁ、納得ですが。」
カーブは何故か納得したようにカズサールをみてトラップを解除しカズサールの襟首を噛み部屋のなかに運んだ。
「あれがうちの国の王子で僕の兄貴なんだ。あははぁ。世界って広いなぁ。」
達観したような諦めたような表情で一人残されたコドは赤豚の語尾が伝染したような独り言をいって、カーブの後を追ったのだった。
1-5で出てきた十二氏をレーギスと呼ぶことにしました。次出てきたときルビもふりますが、報告させていただきます。