1ー5 紫の十二氏
もうコドが主人公になったのかもしれません。一応少年期はカズサールが主人公の予定だったんですがね…。
コドが行方不明になった事件からちょうど一ヶ月がたとうとしている。コドは単身で陽射しの森のなかを歩いていた。この一ヶ月間コドは自分の力と向き合おうと毎日森に入ってクリーチャ相手に戦闘していた。また、カズサールの紹介で短剣を使う国の情報部隊の隊長であるラズカル·ニュー·ハールルの弟子となり、部隊の活動が終わり次第剣術を習っている。その際一切毒の力を使わず、剣の腕をあげることを目標にする鍛練を行っている。師であるラズカルは国内一、二を争うと言われる暗器使いであり、情報操作や収集のための暗殺術は圧巻である。毒を使うコドにとって暗器は相性が良くカズサールに相談したところ紹介してもらえたという次第だ。
今日から一週間は任務のためラズカルの稽古はないため、この機会に十二使の誘いについて話を一区切りつけようとカーブとあった場所に向かっているわけだ。この一ヶ月でもともと運動神経はよかったコドはメキメキと上達し、この森のクリーチャを一対一なら毒を使わず難なく相手できるようになっている。今も牛型のクリーチャ「モートス」の突進を半身で交わしすれ違い様に喉に短剣を突き刺し一撃で仕留めた。仕留めきれた事を確認しようとすると、不意に体が霧に包まれているのとに気づいた。前は未知との遭遇でパニックになりかけたが、いまはその発生源をしっており、なんとなく温かささえ感じられた。何度か瞬きをしている間に景色が一変し、コドは岩場と霧に囲まれた場所にいた。
「久しぶりね。コド。元気そうで何よりだ。」
岩場の間から優雅に歩いてきた美女は普段の無感情な声に暖色を加えながらコドに微笑みを向けた。
「カーブ様、その節はお世話になりました。お陰様で問題なく過ごしています。」
コドもまた、感謝と親しみを込めて笑顔を向ける。
「取り敢えず立ち話もなんですから、私の部屋に行きましょう。」
コドはカーブの後ろを無言でついていく。前来たとき焦りや不安で良く見れなかったので、周りを見渡しながら歩いていると、あっという間にカーブの家につく。カーブの家は木と一体化していて、木の幹のなかに部屋がある。その内の一つに入ると既に準備してあったのか、湯気が出ているお茶が2つおいてあった。
「そろそろ来ると思っていたのだが、まさか今日だとはな。さっきお茶を入れる練習をしていたのだよ。」
お茶を不思議そうに見るコドに、少し恥ずかしそうにしている。
久しぶりの再開で話すこともありお茶をのみながら楽しく話していると、カーブが途端に切り出してきた。
「それで、コドはどうしたいのだ?」
何をとは言わなくても自分はそれを伝えるために来たのだ。
「…僕は使命などと言われても良くわかりません。それがいいことなのか悪いことなのか。それにカーブ様の主になるということは…これからさらに「毒」と密接に関わっていくこととなるでしょう。」
緊張のためか視線は下を向いておりカーブの反応は見えていない。それでも、頭を整理しながら正確に思いを伝えようと言葉を続ける。
「僕にとっての「毒」は呪いでしかない。それを使い続けより極めようとするならば知らずに毒を撒き散らし沢山の物を壊してしまうかもしれない。」
毒は少量であっても有害なのだ。人体には勿論、環境にも悪影響を及ぼす。それだけでも呪いといっていいのに、コドにはそこに両親を殺したものという付加がつく。どう割りきろうとも決してその思いは消えないだろう。苦しそうに話すコドにカーブは改めてその刻まれた傷の大きさを認識する。
「君の思いを悪用し、自分の主にしようとしたこと、本当に申し訳なく思う。」
コドがさらに言葉を続けるのを遮るようにカーブは言った。その行動に驚き顔を見上げたコドにカーブは頭を下げた。
「あの勧誘のことは忘れてくれ。ただ、十二使のことは口外されては不味い。信用していないわけではないのだが、相手の心を読むような力を持つものもいる。勝手であるのだが、私達十二使の記憶を消させて貰うことになるのだが…」
「少し待ってください!僕の話を聞いてください!」
さらに申し訳なさそうにするカーブを見て慌てる。
「確かにカーブ様は僕を利用しようとしたかもしれない。」
カーブは罪悪感にどうしたらいいだろうと考えながらコドの次の言葉を待った。その様子に話を聞いてくれることを確認できたコドは
「しかし、カーブ様は僕の傷を献身的に一週間も治療してくれました。それは体だけでなく心もだったのです。」
カーブは驚きで目を見開く。一所懸命に治療したが、まかさ心をと言われるとは思っていなかった。コドを毒で再び傷つけたカーブは自分でやってしまったことを自分で治しただけのつもりだったからだ。ただ、カーブはさらに驚く。
「あなたが僕に治療している間一時的ですが主従のような関係になっていたのでしょう。あなたが森に現れて無事を伝えたとカズサール兄さんがいってました。それは僕が無意識ではありますが、そうなってもいいと思ったのかもしれません。それに、カーブ様もここを出られたことに疑問を持っておらずただ僕の無事を伝えたいと思い兄さんに会いに行ったのだと思います。」
その言葉に外に出られたことを思いだし、はっとした表情となる。主がいないのに外に出たことは嘘つきだったと責められてもなんの文句も言えない状況だったのに関わらず、カーブを認めていたと言われたのだ。嬉しいのかなんなのか、温かいものが人間の姿をしていても冷たい蛇のからだに広がっていく。
「もし、両親の仇にあったら僕は間違いなく復讐を決行するでしょう。でも自分で探しだそうとはしません。それは何か悲しい生き方だと思ったから。兄さんやカーブ様に頂いたものを無下にするような生き方だと思うから。あの一週間とその後の一ヶ月は僕にとって最も有意義だったと胸を張って言えます。」
コドは沸き上がる感情のままに笑顔を見せた。
「カーブ様がよろしければあなたと友達になりたいのです。私を救ってくださったあなたに。」
後ろめたい気持ちなどないと思ってた。それでもコドの晴れ晴れとした表情を見ると浄化される気分になっていく。そして、彼の器の大きさに使命に囚われ、今まで何人もここにつれこみ勧誘を行ってきたことが報われたような気がした。油断すればすぐさま泣いてしまうだろう。なんとか耐えて
「こちらこそお願いします。」
それは蛇の姿で言ったものだが、人間体の時の彼女の美しい顔が崩れた顔も重なった。すこしポワーとカーブを見つめていると、その視線に耐えられなくなったカーブは取り繕って言った。
「私達は友達ですから秘密を共有してても問題ないよね。」
語尾を和らげ親しげに話しかけるカーブのすこしいたずらな笑顔と言外に記憶を消さなくていいといわれたコドは嬉しそうに頷いた。
「友達だから、カーブの使命もお手伝いしますよ。」
さりげない呼び捨てとなんと主になってもいいという言葉に最早頭がパンクしそうなカーブはなにか言おうとするがうーとうなってしまう。
「形式上は主になるのかもしれないけど、友達として、ね。」
「いえいえ主様。畏れ多いです。」
全部思ってることを言えたと満足そうなコドの様子に心からの言葉だと感じ取れたカーブは童心に返ったようにコドをからかう。そんなカーブの様子にコドは可笑しそうに笑いカーブもそれにつられ笑う。すっかり冷めたお茶をまた暖めるような空気が部屋を満たしていた。
そしてこの日、現界で十番目の十二氏ー十二使の主ーが生まれた。
その夜、コドは王城で改めてカーブをカズサールに紹介した。十二使のことはカズサールとは言えど話せないので一緒に過ごせるようになったと説明し二人?一人と一匹は一部屋を借り一緒に過ごすことになった。カーブは王城では常に人間の姿で過ごしさわぎにならないようにした。また、コドの訓練に毒の勉強が足されるようになったのはいうまでもない。それにより、コドの戦闘能力はどんどん上昇しついには二年後、平民でかつ14歳でありながら情報部隊改め秘密工作暗躍部隊の副隊長に任命された。
誤字脱字、不適切な表現等ありました、ご指摘よろしくお願いします。