1ー10 王子潜入作戦
お久しぶりです。遅くなってしまいすいません。今回はカズサールの旅の話です。やっと、コドから離れられました。短めですが、楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「俺って王子だけどこんな適当でいいのかな?」
ふと思い至ったのか何気なく呟く。
「今更だなぁ。誰も気にしてないし逆に落ち着いてた方が不審がられるんじゃないかぁ?というか、往来で王子っていうのは無警戒じゃないかぁ?」
相棒の豚さんはいつも通りのんびりしている。勿論口にはさつまいもを咥えている。
赤の一人と一匹は今ロベリスタ王国内の街中を歩いている。ロベリスタ王国は島国であるハワイ王国と一番近い場所に位置しており、国同士の仲も良い。何度も小さい頃王子として来たことがあるのだが、今回は調査のために来ているので、カズサールは一般人として違和感がない黒が基調の上下を来ていて、ピッグは全身を普通の豚と遜色ないように薄汚れたピンクに色付けしているのだ。
ワンペアが今調査しているのは帝国が最初に仕掛ける国がどこかということだ。というより、ロベリスタ王国だという予想はあるのだが、その確認のためだ。というのも、大陸の四か国の中で軍事に優れている帝国であるが、食料生産はロベリスタ王国に依存している。理由は簡単で帝国の地表が火山灰で覆われていて農業に向いていないからだ。対するロベリスタ王国は四季がはっきりと感じられる温暖な気候と自然溢れる土地によって、農業が盛んに行われている。また、流通されるには不格好だが、栄養的にはなんの問題もないような所謂欠陥品と言われるようなものも、家畜の餌とすることでうまく使っており、肉や卵の生産も盛んだ。そんな農業大国であるロベリスタは帝国にとって喉から手が出る程魅力的な土地であるのは明らかであり、多少の無茶もするであろう。
そこで、ワンペアはピッグの調査によってもたらされた、帝国の人間が裏で集まっていると思われる場所に向かっているのだ。これは一つの組織と考えられており、帝国が戦争に勝利しやすいように色々な裏工作をしていると言われている。ロベリスタは人の出入りをほとんど規制していないためどんな人でも入国できることから他国の諜報機関も多数存在している。大きな問題にならなければ多少の殺傷事も黙認している。そんなこともあり、この組織が存在していること自体は大して問題無いのだが、5年以上も同じ場所に拠点を置きながら何をしているのかまるで把握できていないのだ。そこに今回の戦争の情報がもたらされ、何らかの関連があると踏んだ次第だ。
「しかし、帝国ってそんなに強いの?俺が小さい頃、先代の時はいざこざばかりしてたみたいだけど、大して被害なかったんだろう?」
「そう言うが、実際帝国は先代の間に領土を3割増やしている。いざこざと言うが小さな戦争のようなものだぁ。それに勝っているってことは伊達に軍事最強の国でないってことさ。うちだは島国だから攻められるにも最後だろうがなぁ。」
「そうかもしれないけど…。こんなに警戒する必要あるか?」
「今回の王は今まで一度も軍事行動を起こしてないんだぁ。まだ確定ではないが、それが動き出すとなると警戒しない方がおかしいであろう?」
「そうかもね。若いのに良く考えてるよ。俺も王子だしちゃんと考えないとね…」
まだ見ぬ帝国の若い王にわずかな敬意を持つと共に改めて気を張り直した時、不意に周囲の空気が変わった。今まで少ないながらも人がいたのだが、いつの間にか誰もいなくなっていて、空気も冷たく感じる。しかし、組織の本部と言うのだからそのような場所にあってもおかしくないと思い直したカズサールは違和感を感じつつも前に進んだ。
暫くなんとなくこっちかな?と勘で歩いていると、さして大きくもないが存在感を感じさせる石造りの建物があった。その建物がある場所の周囲には豊かだった自然も身を潜め、周囲は水溜まりに覆われていて、建物への一本道がある。
警戒を強めながらも、潜入しようとちょうど日が更けてきたのでわざと水溜まりを通って敷地内に入った。
その建物は窓が一ヶ所にしかなく、そこからしか様子をうかがうことができないので、仕方なく身を伏せながら窓を除いた。そこには14~16才だと思われる女と、同い年ぐらいの男が椅子に座って話していた。何を話しているのかと更に耳を近づけた。が、聞けた音は、ドスッという鈍い音と自分が地面に這いつくばった音だった。
「無警戒が過ぎますよ。王子様。」
一緒に窓を除いていたカズサールがいきなり横で倒れたので驚いて後ろを見れば、先ほど窓から見た男が陰湿な笑みを浮かべて立っていた。
「そこの豚も話分かるんだろ?」
男はただの豚にしか見えないピッグに目線を移す。
「…」
ピッグは自分が普通の豚でないことがばれていることに焦りながらも動揺を見せないように、また言い逃れできるようただの豚の不利をするため。無言でカズサールに目線を移した。だが、取り繕うのも次の言葉でできなくなった。
「本当に俺と同じ十二氏なのかい?カズサール王子、そして、赤豚?相変わらずどんくさいな。情報の精査をしたのかい?それに、お前の鼻はなんのためについてるんだ?」
その言葉に振り向けば、そこにいたのは50年前にあったきり、一度も姿を見せなかった白い猿、神の十二使『サル』だった。
「サル、まだなの?俺もう帰りたいんだけど」
「コーシ?一応同胞なのよ?。まあ、私も同意だけどね。」
久しぶりの思わぬ再開に言葉が出ずにいると、鈴のような声と静かながらにも相手に聞かせるような声が聞こえた。
「あなたたちは……」
ピッグはさらに混乱した。なにせ、そこにいたのは帝国の王と王妃だったからだ。驚くなといわれる方が無理だろう。何せ帝国の調査に来たつもりが、その頭とあってしまったのだから。
「まぁ、気になることもあるだろうが、ゆっくり中で話そう。そこの赤いのも連れてこいよ。」
サルがそういうと、王と王妃も家に戻っていく。暫く呆然としていたピッグはその姿を眺めていたが、プウッという自分の屁に我に帰った。
「まんまと誘われたかぁ。あの人達から逃げ出せる訳ないし、大人しく従うかぁ。すまんなぁ。俺がしっかりしてればなぁ…」
地に伏しているカズサールを見ながらため息と屁をこぼし、これからの展開は想像を絶するものだろうと頭を抱えるピックだった。