1ー9 ご褒美
「さて、見事試練を乗り越えたコドにはスペシャルなご褒美があります。」
試練を終え、城に戻って自室で休んでいたコドにカーブは言った。その言葉にワクワクしだす様子のコドに思わずカーブは微笑みをうかべた。
「汝、カーブの名において祝福する。」
カーブが少し厳かにそういうと、コドの目の前に人に蛇が巻き付くような模様が写し出された。その様子を不思議に思っていると、カーブが口を開いた。
「これは紋章。所持者の力を引き出したり、新たな力を与えるもの。今回のコドみたいに与えられた試練をクリアしたり、生活の中である条件を満たしたり、はたまた生まれたときに与えられたりするものだ。ただ、先天的なものなど無視していいほどなく条件や試練も厳しいため普通に生活していれば知ることはないだろう。そして、私の試練をクリアしたコドには、この《ユニークシンボル·レギウスポイズン》が与えられたのだ。」
ユニークシンボルとは現界で一人しか所持することが出来ないもので、同じ紋章を持つものはいないら。また、普通の紋章に比べて効果は数倍以上である。更に十二氏しか得ることのできない《レギウスポイズン》はその中でも更に希少で、効果が高い。紋章には物質性がなく手に取ることはできないが、使いたいときに唱えるべき言葉を言えばその効果を引き出せる。
「《レギウスポイズン》の力は所持者に巳の十二使の力を与え、私を武器にしたり、私の力を体に纏わせたりすることができるのだ。勿論無尽蔵に使えるわけではなく使っている間は体力を消耗していく。使い処の見極めは必要だね。」
カーブの話を聞いたコドは百聞は一見にしかずと早速使ってみた。
「我に巳毒を操ることを許し給え。シンボル·レギウスポイズン」
言うが直後、カーブが紫色の光になりコドの体を包んでいく。その眩しさに思わず目を閉じたコドは、体に力が流れ込んでくるのを感じた。もし、赤ちゃんが親の腹の中にいるとき感覚があるのなら感じているであろう温かさと安心感を感じ、なぜか涙が流れそうになるコドだが、光が止みおそるおそる目を開けた直後鏡をみたコドは固まる。
「カッコいい……」
それが自分だと分かっていても思わず呟いてしまった。身体中が綺麗な紫の鎧に包まれ、手先にはいつも使う爪よりも数段鋭く毒性が強そうな爪が。八重歯が鋭くつきだし、黒目が怪しげな紫色に光る。後ろを向けばカーブが持っているような尻尾がついており、髪の毛も紫色に染まっていた。思わず見とれていると、頭の中に聞きなれた声が響いた。
『どうです?素敵だと思いませんか?』
「うん、今なら何にでも勝てる気がするよ。」
好戦的でないコドでさえも思わずそう呟いてしまうほど力が漲っていた。その場でジャンプしようとすると、途端に体が重くなり体を包む紫が霧散していった。
「今はお疲れでしょうから、そういう確認は明日にしましょう。今日はゆっくり休んでくれ。」
いきなりオモチャをとられたような気分になったコドは少し拗ねて見せるも、カーブの言うことは最もであり、タイミングよく眠気が襲ってきたコドはそのまま倒れこむようにベットで寝た。
「全く。ここでジャンプなどすれば床が抜け天井を突き抜けるでしょうに。まぁ、それほど気に入ってくれたということでしょうか。」
短絡的な行動にすこし呆れるが、年相応の好奇心を久々に見せたコドに、カーブは微笑み眠るコドの頭を撫でた。
「それにしてもよく頑張りました。あなたにとっては簡単に力を得たように思うのでしょうが、私と会ってから前向きにやって来た成果です。少しずつ力になれてあなたがやりたいことをなせるように共に頑張りましょう。」
そういいつつ、まるで出会った頃の看病していた頃を思い出したカーブはもう子供ではないのですかね、とすこし寂しく思いつつ自分の使命とこどの将来に想いを馳せるのだった。
明くる日、紋章を使おうと陽射しの森に向かった。城の訓練場で使うと何が起こるか分からない上、十二氏であることは極力伏せるためやって来た次第だ。
早速兎型のクリーチャを見つけた。
「我に巳毒を操ることを許し給え。シンボル·レギウスポイズン」
コドが唱えるや否や一緒についてきてたカーブが光になり、コドの鎧となる。
「やっぱりすごい力を感じるよ。いくよ、ウサギさん。」
兎型のクリーチャ、「ラビッツ」に飛びかかろうと足に力を込めた直後、コドはすごい勢いで飛び出しラビッツを吹き飛ばし森の木々にいくらかぶつかりやっと止まった。
「あちゃー。力加減間違ったかも…」
『少し落ち着いて。身体の能力が約3倍以上になっています。特に速さは5倍弱になっているのよ。試したいのはわかるけど少しずつやってかないといくら森のなかとはいえ、無関係な人を殺してしまうよ。』
木を何本もなぎ倒したコドはカーブの言葉にやっと落ち着きを取り戻し、また、ぶつかって轢き殺されたようになっているラビッツの死体をみてもう調子に乗らないようにしようと固く決意したのだった。
それから加減しつつ確認したところカーブの言う通り身体能力は数倍以上になっており、毒を使ってみたところたった一滴でラビッツが死んでしまったときは、へっ?と間抜けな顔を晒したほどだ。また、感覚器官も強化され、熱を探知しクリーチャの位置や周りの大雑把な地形なども把握できるようになった。
そして、いくつか技を編み出した。
まず、最初に『毒刈』である。読んで時のごとく毒の爪で相手を引き裂くものである。
次に『毒尾』。これもそのままで毒を纏わせた尻尾を叩きつけるものである。単純だが尻尾を降ったときの風圧だけで木を倒せるような威力であるのにそこに毒が加われば凶悪なことこの上ない。
そして、『毒霧』。カーブが口から出していたものを手からも出せるようになったのだ。勿論毒はコドオリジナルである。
他にもあるのだが、凶悪すぎて使いどころが見当たらないため、普段使いとしてはこの三つで十分であろう。最も普段は紋章の力を使うことはないのだが、なれると言う意味で人目がつかないところではしばらく《レギウスポイズン》を使って訓練する予定だ。
そんなこんなで紋章の力を確認した一人と一匹は城に戻り、帝国との戦争に備えるのであった。
本日二本目です。すこし短いですが、ご了承ください。
さて、遂にこの話のキーの一つである紋章が出てきました。ここから更に物語が進んでいくわけですが、それにともない視点が何度も変わっていくと思います。読みやすいように工夫するつもりですので、何かありましたらご指摘いただければ嬉しいです。