1ー8 十二使の試練
翌日、コドはまた陽射しの森を歩いていた。なんでもカーブが大切なことだというのだ。それに何故か完全装備をしている。この森の中にはそれほど警戒するクリーチャはいないはずなのに…。カズ兄達が旅に出たのとなにか関係があるのかなと考えながらカーブについて行くと、またお馴染みの霧の間に繋がる場所についた。そのまま霧の間に入りカーブの家がある木の前についた。
「さて、コドよ。あなたは随分と強くなった。カズが旅に出て国としての戦力は落ちてしまっている。これを機に新しいことに挑戦する気はないかね?」
「カーブ?」
人型から蛇の姿になった彼女はいつもと違う少し仰々しい雰囲気でいるのに対し違和感を感じざるを得ない。キョトンとするコドをみて肩透かしをくらったのか、カーブはゴホンと咳払いをした。
「要は今からコドに試練を課す!拒否権はない!」
「いきなり!ていうか、さっきのフリの後半嘘じゃないか!!」
突然の試練宣言と無意味のようにしか感じない前フリに、コドはキレッキレに突っ込んだ。その反応に気をよくしたカーブはコドの襟首を噛んで持ち上げる。
「さて、では今から始めるぞ。一人で挑戦してもらうからな。無事帰ってこれることを祈っている。」
「えっ、ちょっまっっっ~」
直後、コドはカーブの家だった木の根っこに吸い込まれていった。
「僕はカーブの主なんだよな、本当に主なのか?騙されてるのかな、、」
目を覚ますとバスケットコート一面ほどの広さの空間が広がっていた。相変わらず周りは霧に囲まれている。自分が本当に十二氏であるのか自問自答していると、コドがいる位置と反対側の地面が突如陥没した。代わりに出てきた者をみてコドはすぐ短剣を構え、試練だと言われたことを思い出す。
「おいおい、本当に生きて帰れるか怪しいよ。」
地面のあった場所は毒々しい液体で満たされ、その中から一体のワニが出てきた。全長五メートル以上体は違和感たっぷりのピンク色口から除く歯は紫色で一本一本が杭のような太さと剣のような鋭さを持っている。ワニを観察していると、いつの間にかコドがいる場所も毒液で満たされていた。毒自体は既に耐性を持っているものだったので問題ないが膝下まである水はコドの動きを制限するのに十分だ。戦闘環境の悪さに思わず舌打ちをしていると、目の前に文字が現れた。
《毒の試練·レーギス》
「なんじゃこりゃ!?」
突如現れた文字に驚き思わず目の前に手を伸ばすが触れない?ここに来てから仰天しまくりだな、そもそもこれはなんのための試練なんだろうな。と、半ば現実逃避ともいえる思考に陥っている。
しかし、現実は逃がしてくれない。ワニが毒のしぶきをあげながら突っ込んできたからだ。
「やっぱり毒なんか嫌いだ!」
コドは腰の短剣をワニの目をめがけて投了した。ワニはそれを前足で水面を叩いて作った壁で受け止める。全力で投げたものを片手間で止められ少し動揺するが、そこは腐ってもシャドウズの副隊長。既に目の前まで迫るワニの突進に対し左腰に指してあった長剣で受け止める。その巨体がもたらす質量と走ってきたスピードの乗った重い一撃に対することなく、逆にその力を利用して後方に飛ぶ。
「いや、流石にとんでもない力だ。」
余裕そうに見えるが、たった一撃を貰っただけだが剣が半ばから折れてしまっている。また持っていた腕も折れた剣先が飛んできてかすり傷をつけている。
「厄介だね、パワーファイターでタフとか一番相性悪いんだけど…地獄だよ。」
キャラが少し崩壊してることを否めないコドだが悪態をつけつつも止めどなく体を当てようと襲いかかるワニの突進を左右前後だけでなくジャンプも利用して三次元的に動くことでかわしている。二年間といわたら短いと言われそうだが、密度はその2倍3倍では利かないような訓練積んできたコドはスタミナには自信がありこのまま交わし続けワニがへばるのを待っている。
「まあ、そんなにはうまくいかないよね。」
そんな考えをよんだのか、今度は走りながらもなおかつ口を開けて謎原理によって生えている歯を飛ばしてきたのだ。それも飛ばした歯のあった場所には直ぐ様新品がはえる始末。コドは最小限の動きで体に当たりそうな物だけを右腰の短剣でいなす。真っ正面からではなく飛んできた歯に横から刃を当て起動をずらすように。その捌き方は素人でも見れば洗練されたとわかる綺麗な型だった。その様子に焦れたのかワニは自分の尻尾を噛みまるで駒のようになってグルグルとまわってコドに突っ込んできた。
「僕もやられっぱなしではいられないからね。それに、足元の毒水にもいやけがさしてきたしこちからからも仕掛けさせてもらいます。」
腕をまくり両腕を毒水に突っ込む。
『紫渦』
コドが唱えると、足元の毒水が巻き上がりワニの回転と逆向きに回る竜巻が生まれた。紫の竜巻はワニとぶつかりワニの勢いを弱めながらその硬い鱗を削いでいく。竜巻に巻き込まれたワニは逃げることもできずたまらず呻く。
その隙に周りの毒を体に取り込み自分が作った毒と混ぜ合わせ、それを両手に凝縮させ鋭い爪を生み出す。今やほぼ止まっているワニを渦のなかに捉え、この中に走り込む。
『刺十突』
ワニは渦に削られた鱗を完全に砕かれ10ヶ所を内部深くまで抉られた。大量に出血するワニはなんとか抜け出そうと一度深く水のなかに潜り渦を脱出する。そのまま水中からコドに襲いかかろうと大口をあけ襲いかかる。が、
「もう遅いですよ。」
言うが早いか今にもコドを食べようとしていたワニは水中で止まり、2、3回唸ると白目を剥いて浮上する。
「僕のオリジナルポイズン、「孤毒」の効きは上々ですね。一撃だとは思いませんでしたが、倒せたのでいいでしょう。」
コドの毒は今まで自分が受けた毒や体内の物質を合成して作られたものであり、いかに毒耐性が高くても防ぎにくいものである。ましてや、ワニは一撃といえど10ヶ所から人に使えば百人は死ぬであろう量を注ぎ込まれている。その威力はいかに大きいことか。逆に言えばそれほどを盛られても渦を脱することのできたワニをほめてもいいくらいだ。
なにはともあれ、無事倒したコドはワニの死体が消えた直後、体を光に包まれカーブのもとに転送された。
「あれ、マジかよ?!」
思わず口調が変わってしまったカーブはその映像に驚愕していた。試験を行ったカーブはそのワニの耐毒性を知っており、コドが負けるとは思っていなくても一時間はかかると思っていた。だが、実際は20分で終わってしまい、コドの力を見誤っていたと実感した。実際体術を習っていなくてもコドの毒を使えば、カーブと出会ったときのコドでも十分ワニを倒す力は持っていたのだ。
「私は心配性なのかもしれないね。」
カーブはそんな自分に苦笑いを浮かべ直後、光に包まれ帰ってきたコドに笑いかけた。
「お疲れ様!よくやったねコド!」
カーブの言葉に
「僕の毒は特別製なので」
コドが少し嬉しそうに笑うと、過去をなんとか乗り越え悲しみを抱えながらも力と向き合うコドを逞しく思い、コドの頭を撫でたのであった。