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少年と心〜盗賊から足を洗って旅に出ます〜  作者: 明日
1章 旅への決意
8/8

救出

 目を貫くような閃光に、僕は思わず目を覆った。

 光度は次第に増していき、全ての感覚が失われるほどになっている。

 

 目が点滅し、頭痛もしてくる。

 周りを見わたす余裕は無かったものの、光が満ちている事は分かった。


 まさか、転移に失敗したのか?

 空間創造が出来る時点で、あの少女が相当な使い手である事は間違いない。

 しかし、転移は物質を別空間に移動させる最高難易度の魔法だ。

 成功する保証はどこにも無い。

 焦りと痛みで額から汗が吹き出てくる。

 不安に押し潰されそうになるのをぐっと堪え、我慢し続けた。  

 

 頭痛が酷くなり、耳鳴りが始まった時にようやく光が弱まってきた。

 本当は僅かだったのだろうけど、僕にとっては永遠にも感じられた時間だった。

 後少しでもあの状態が続いていたら、僕は冷静さを保てなかっただろう。

 

 光が収まり、顔を覆わなくても大丈夫なほどとなる。

 頭痛はすぐには収まらないだろうけど、じきに治るはず。

 視界が開けて、自然の優しい色が見えた。 

 ふぅ。何とか助かりそうだ。

 右手で頭を押さえつつ、開けた場所へと進む。


 数歩歩くと、少しずつ水の感覚が戻ってきた。

 どうやら元の世界に帰れるらしい。

 ほっと一息つきたい所だったが、それを許さない状況が再び飛び込んで来た。

 

 息が出来なくなったのだ。

 まあ、それは当然の事だ。

 水中で息をするのは不可能なのだから。

 あるいは魔法が使えたら話は違ったかのも知れないが、アガサに出来る訳もなく。

 その結果、アガサは帰って来た瞬間にパニックに陥った。


 「ばぼぶ!へふ!《やばい!しぬ!》」


 息継ぎしないと本当に死ぬ!

 水面へと急上昇を試みるが、服が重くて少しずつしか上がれない。

 寒さと焦りで僕の顔は真っ青になっていた。

 手をバタバタと下に振り、水を吸い込んで足枷となった靴に負けないように脚を動かす。

 ゆっくりと、しかし確実に水面が迫っている。

 あと少し、あとちよっとで新鮮な空気が吸える。


 僕は思いっきり顔を上に突き出した。

 セーフ、死ぬかと思った。

 コツン。

 あれ?

 もう一回。

 コツ。

   

 吸えない。

 正確に言えば、氷で閉じられて出られなくなっている。

 なんでだ?

 少女の話を聞く限りでは、こっちの世界での時間経過は精々1分程なはず。

 その僅かな時間で氷が張り直されたとでも言うのか。


 小さい僕を助けに来たのに、その前に僕が死んでしまう。

 やっぱり、助けようだなんて分不相応な事はするべきじゃ無かったのか。

 

 意識が朦朧としてきた。

 ああ、糞。

 殴られて気絶するのとは別種の苦しさ。

 力が入らない。

 このまま死ぬのか…?

 

 【リペル・ウォーター】


 無力感に打ちひしがれていた僕にそんな声がした。

 すると、息苦しさが消え水中感が取り除かれる。

 息が吸える喜びを噛み締め、荒い呼吸を繰り返す。

 何だよ。助けてくれるならもっと早くても良いじゃないか。

 素直でないと感じても、ついつい嫌味な考え方をしてしまう。

 盗賊業でお礼なんて言わないからかな。


 『いやーごめんごめん!』

 『思ってたよりも自分を転移するのが難しくてね!』 


 そんな事は気にも留めない様子で少女はそう言った。

 耳元から声がしたので左右を見るが、やはりいない。

 顔が見えないのは少し残念だけど、幸いでもある。

 明るい口調の裏で、僕を蔑んだりしていても気付かなくて済むから。

 

 『とりあえず、小さなアガサを助けなくちゃ』

 『多分ここら辺にいるよ』


 口数少なく、最低限の言葉。

 それだけ差し迫っているのだろう。

 だけど、まだ一つ問題が残っている。


 「急ぐのは分かるけど、ちょっと待って」

 「とりあえず、僕の体が透けるのを何とかしてくれない?」


 『あ、そうだね』

 『アガサが触れないと助けらんないもんね』


 気がはやるのをぐっと堪えて少女にそう伝える。

 ずっとそうだったが、僕は人に触れようとする度にすり抜けていた。

 気にして来なかったが、今回はこれが死活問題だ。

 

 少女もそれを知っていたらしく、納得した声だった。

 ブツブツと魔法を高速で唱える。

 詠唱が止まると、僕の腕が仄白く発光した。


 『よし、これで大丈夫』

 『腕を実体化さたよ』


 そう言った瞬間に、少女の声が遠のくのを感じた。

 探しに行ったのか。

 僕も意識を切り替えて、辺りをくまなく探し始めた。

 

 魔法が掛かってからは、水中でも陸と同じ感覚で動けるようになった。

 撥水効果があるのか進行方向の水が勝手に避けてくれる。

 地に足ついた――実際は川底だが――僕は全力で探し続けた。

 

 しかし、捜索は難航した。

 この川は予想以上に急流で、遠くまで流されてもおかしくない。

 その上、川底の砂が舞い上がって視界を狭める。

 氷で反射された太陽光は底まで届かない。

 時間だけが過ぎていった。


 見つかる気配すらないせいか、頭も上手く回ってくれない。

 心臓は飛び出そうなほど鳴っていて、足も小刻みに震えている。

 さっきまで自分の命なんてどうでもいいと思っていたのに、いざ死にそうだと分かると、どうしようもなく怖い。

 人間の性だろう。

 少なくとも今の僕は、死ぬなんて真っ平御免(ごめん)だ。


 息が切れても走って、足をもつれさせながら探し回る。

 【ブースト】も出し惜しみせずに使う。

 これで今日はもう魔法が使えないが、出し惜しみしてる場合じゃない。

 【ブースト】の基本効果は3分間の身体能力向上だが、僕の力だと1分しか続かない。

 それまでに見つからなければ救出は絶望的だろう。


 狂った様に走っていると、不意に足への衝撃を感じた。

 後先考えず、パニックになって走っていたので手を着く暇もなく転んでしまった。

 顎が地面の尖った岩にぶつかり、血が吹き出る。


 「痛ってぇ……」


 苛立ちを言葉に乗せ、僕の転んだ原因を睨んだ。

 ライアンに簡単に騙された過去への恨み、闇雲に走っているばかりの今への憎しみが交互に脳裏を通過する。

 蹴りの一発でも入れでも入れてやろうと、早足で近づいた。

 

 そこには倒れた子供の姿があった。

 力無く横たわっているが、浮かばないのは着ている服のせいか。

 酷い悪夢の中にいる様な形相で、両手は喉を抑えている。

 必死にもがいたのか、靴は片方だけで、シャツは片袖が破けているのが見える。

 彼を隠そうとするかの如く、全身には薄っすらと砂が被さっていた。

 それは、僕の探し求めていた過去の自分だった。


 小さな僕を視界に捉えた瞬間、僕は全速力で駆け寄った。

 苛立ちは一瞬で霧散し、代わりに言いようのない興奮が脳を支配した。

 急いで体に腕を回し、肩を支える形で持ち上げる。

 状態を見るに、今すぐ助け出しても間に合うかどうかすら分からない。

 でも、早く助けた方が良い事には変わりないはずだ。


 踏ん張りをつけ、川底を強く蹴り上げる。

 魔法の効果が切れていない今なら、2人分の体重にも負けない馬力が出せるはずだ。

 強化した体に物を言わせ、確実に水面へと浮上していく。

 

 不思議と僕は冷静だった。

 興奮で動悸は止まらないけど、全体を俯瞰(ふかん)して見れている。

 次々に状況が変化する非日常に、頭が追いつかなくなっただけだとも言える。

 どうであれ、今このタイミングで落ち着けたのは最良に違いない。

 不安定な精神で動いたら、またパニックになるだけだろう。


 眼前に氷面が迫ってきた。

 一見薄氷に見えるがものの、短時間で水を固める外気からして見た目より厚いのは確定と見て良いはず。

 ここは一番安全な方法で行こう。


 力のイメージを腕に集中させる。

 全身に行き渡っていた魔力を一点に収束する意識を強く持つ。

 これは僕が唯一、盗賊業で身に着けた技だ。

 盗賊団のリーダー、クロムの能力から発想を得た。

 あんな奴の力を真似るのは嫌だったけど、生きる為の手段は選べない。

 

 これが成功すると分散されていた力がまとまり、【ブースト】の効果を強化して使える。

 その代わり、強化した身体部位以外は強化が解除される。


 腕に熱が流れるのを感じ、周りに紅のオーラが出た。

 どうやら上手くいったようだ。

 よし、ここまで来たら後は簡単だ。

 

 腕を引き、下から上に振り上げる。

 バキキッッ!

 予想通り、氷は厚かったが強化した【ブースト】で何とか壊す事が出来た。


 割った氷の端に手をかけ、腕づくで上がる。

 小さい僕も一緒に引き上げる。

 今と変わらず痩せ型なお陰で、余り苦労せずに引っ張れた。

 よし、後は少女の魔法で回復して貰えば完璧――


 「あれぇ?なんで帰って来ちゃったの?」


 気持ち悪い、粘ついた声。

 盗賊団で聞いたものと良く似た、厭らしい口調。

 ライアンはそう言って、ゆらりと肩を揺らした。

 

 



 

 

 


 

    

 

 

  


 


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