ことのはじまり 2
「最強の精霊?おれが?星1なのに?」
そう、おれは星1。
この世界がおれの想像通りなら、スマホゲームのように、星は最大で6から8ほどまである。
星1は基本的に素材として強い精霊のエサにされるか、即売却される。それは身をもって実証済みだ。
そして、星1はどんなに育てても星8には敵わないはず。ステータスの上限に激しく差あるからだ。
仮にステータスが同じだとしても、星が多い精霊ほど強力なスキルを持っているだろう。
「はい、星1なのに、です♡」
天使の微笑みかよ。
どこまで本気かはわからないが、冗談を言ってるわけではなさそうだ。
「ちょっと外に出ませんか?
シュウも丸2日も寝ていたことだし、外を見たいでしょう?」
「そんなに寝てたのか。
そうだな、外の空気でも吸いながら話を聞かせてくれ」
この手の世界は大体想像はつく。
西洋風の街並み、広がる露店街、そこかしこにいる冒険者。
入りは最悪だったけど、誰もが憧れる世界にいると思うとワクワクしてきた。
「じゃあ行きましょうか」
ルーシャが部屋の扉を開けると、目の前は廊下ではなく、直接外に繋がっていた。
魔導師ともなれば、これくらいは普通のことらしい。
しかし、それ自体にも驚いたが、思っていたものと大分違った外の景色にも驚いた。
「……戦争でもあったのか?」
確かに西洋風で、露店街もあったんだろう。冒険者もいる。
しかし、その全てが、破壊されている。
建物はほとんどが半壊。露店で売っていたであろう食べ物が踏み砕かれて地面に散らばっている。
鎧を着て倒れているのは、おそらく冒険者なんだろう。
「たぶん、ギルドの抗争に巻き込まれたんだと思います」
ルーシャは無表情だが、その声には力がこもっている気がした。
「5年に一度、全世界各国から選抜されたギルドが『天魔』になるために戦う、『魔天大祭』が行われます。
大祭に出場するために、一般市民を巻き込んで争うギルドもいます。
あの町は、その犠牲になったんでしょう」
ギルド戦。つまり、チーム同士の殺し合いか。
「てんま、ってのはなんだ?優勝者のことか?」
「『天魔』は、最強の称号と、最高権力の座。この世界の中枢といってもいいものです。
あらゆる権利があって、あらゆる命令を下せる。
唯一抗えないことは、大会の優勝者と戦うことだけです。」
「…その魔天大祭の優勝者が天魔になるのか?」
「いえ、優勝者は、天魔に挑む権利が与えられます。
いまの天魔を倒した者が、次の天魔になります」
「それってつまり…強ければ…天魔を倒せたら、この世界の王様になれるってことか?」
「その通りです」
その返事を聞いた瞬間、難しい数学の問題の解き方がわかったときように、頭の中がすっきりとした。
同時に、今すぐにでも走り出したいぐらい、身体全体が興奮した。
空っぽだったおれに詰め込まれた、この理不尽でムカつく運命と世界への復讐の道は、子供でもわかるぐらい単純だった。
おれが、天魔を倒せれば。天魔になれれば。
そして、言ってやればいいんだ。
ざまぁみろ、と。