ことのはじまり 1
たぶんおれは、牢屋から出られるとわかった瞬間に気が抜けて、倒れてしまったんだろう。
そしてたぶん、おれを買うといった娘が快方してくれたんだろう。
そう、目が覚めたら、鼻がくっつくほど目の前にいて、おれが入っている布団で寝ているこの娘が。
(………え。え?夢?金髪美女が一緒の布団でくっついて寝てる)
手を動かした瞬間、非常に重要なことに気がついた。
(あれ、あったかくて柔らかい)
即、ズバッと布団をめくると、『ほぼ』予想通り。
全裸ではないが、下着姿。半裸の娘が寝ている。
(うおぉ……っておれもパンツ一丁!?
まてまて、記憶がないぞ。こんなシチュエーションてもう結論ひとつしかなくない??)
状況が掴めないまま固まってしまっているが、そこは健全な男子。視線はしっかり娘の全身を、記憶に焼き付けるように凝視してしまっている。
牢屋では暗くてあまり見えなかったが、この娘、かなりの美女だ。
顔立ちはもちろん、肘まである金髪は綺麗なエンジェルリングがでている。
そして、また非常に重要な一点。
胸が、大変に、ある。
控えめに言ってFはあるだろう。(当社比)
「ん……あ、シュウ。目が覚めたんですね」
まだ眠そうに小さく欠伸をしながら、至って普通に彼女が起きた。
「あ、ああ。えーと、どうしておれたちは下着姿で一つの布団で寝てるんだ?」
「…え?それは、直接触れたほうが魔力供給の効率がいいからですけど…?」
なんでそんな当たり前のことを聞くのか?とばかりに、不思議そうに返事をされて逆に困惑する。
そんなのエロゲーみたいなこと、おれの知ってる常識辞書にはないです。スマホゲーにもないです。
つまり、この世界の常識は、控えめにいって最高なのかもしれない。
「そ、そう、なのか。とりあえず、目のやりどころに困るから、服を着てくれ」
「え?ああ、ごめんなさい、下着は簡素なもののほうが動きやすいから…見苦しかったですね」
確かに彼女の下着は、上はサラシ、下はごくシンプルなものだ。
「いや違う、そうじゃない。むしろ『良い』んだ。いや、もうなんでもいい。とにかく服を着よう。
えーと、おれの服は…」
彼女の姿以外が目に入っていなかったが、部屋を見回すとベッドの横の棚に男物の服が畳んで置いてあった。
「これ、着ていいか?」
「ええ、あなた用に用意したものですから。どうぞ」
そういいながら、彼女は何の恥ずかしげもなく目の前で着替えている。
これじゃ恥ずかしがっているおれがバカみたいだ。
「改めて、自己紹介しますね」
お互い着替えて、やっと落ち着いた場となった。
おれはお茶を啜って、脳裏に焼きついた彼女の半裸姿を一旦忘れようと努力しながら、話を聞きていた。
「わたしの名前はルーシャといいます。気軽にルーと呼んでくださいね。
職能は魔導師。まだまだ未熟な修行の身です。
そして、あなたを買った、あなたの使い主です。
よろしくお願いしますね、シュウ」
「ああ、よろしく。
ルーは命の恩人だからな、がんばるよ。
つっても、おれは頭も良くないし運動も得意じゃないから、何の役に立てるかわからんけど…」
「はい、知ってます。
シュウは特技なし、スキルなし、ステータスも低い。星1の最弱クラスの精霊ですからね」
やさしい微笑みのまま、グサグサと刺さるようなことを淡々と言うなこいつ……
悪気がない感じといい、下着姿を見られても動じないことといい、ただの天然なのか?
「まぁ、その通りだよ。おれは空っぽな男だからな。
そこまでわかってて、何でおれを買ったんだ?」
「空っぽだから、ですよ。
シュウ、あなたには、この世界で最強の精霊になってもらいます」