空の袋は満たされた
「はぁ…この先、どうしようかな…」
誰もいない山頂で、寝転んで星空を眺めながら呟いてみた。
現在26歳、フリーター。
特技なし。趣味はスマホゲーム。
やりたいことも、就きたい職業も特にない。
つまらない空っぽな人間。それがおれの自己評価だ。
この先、数十年は生きていかなきゃいけないと思うと不安が募る毎日。
とりあえず家に篭っても仕方ないと、所謂自分探しの旅をしていた。
「…今日はこのまま野宿でもしてみるか」
いつものように、何も考えず、勢いとその場のノリで今日を過ごす。
目を瞑ってしばらくすると、微かに聞こえていた木々の音も気にならなくなって、無の空間に溶け込んだような感覚になった。
光も、音も、自然の匂いも、風の涼しさも感じない。自分の意識だけが、ふよふわと漂っているような。
「ん?なんだ?誰かが呼んでる?」
声が聞こえるわけじゃないが、何かに誘われている気がする。
意識をそっちに向けると、瞬間、激しい輝きに包み込まれた。
目を閉じているのに、視界は真っ白だ。
「はぁ〜〜…星1かよ。苦労して魔虹石貯めたのになぁ」
眩しさが落ち着きついてくると、今度ははっきりと男の声が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、眼前の景色は山頂ではなく、薄暗い室内。それも、アニメやゲームで見たことのあるような、神殿?のような場所だった。
目の前には、二人の男が立ってこっちを見下している。
「残念でしたな。こればかりは運ですからな。では、この者は売却でよろしいですかな?」
二人の男のうち、ローブを羽織った老人が言った。
「ああ、そうしてくれ。じゃあ、また来るよ」
もう一人、西洋風の鎧を着た男が言いながら、部屋を出て行った。
星がどうとかいっていたのはこいつだろう。
「…なにここ。おれ、野宿してたはずなんだけど……」
わけのわからない展開に呆けていると、老人が近づいてきて、おれに向けて手をかざした。
次の瞬間、体が光の帯に拘束された。
「いてッ!なんだこれ!?なんなんだ一体?」
「お前はこの世界に召喚された精霊だ。突然喚ばれて混乱してるだろうが、あとで説明してやる。ついてこい」
老人はそういうと、返事を待たずに踵を返した。
「精霊?わけわからん…」
「最近、魔物の活動が活発にでな。戦力増強のために他の世界から生物を召喚しているわけだ。」
おれを牢屋に放り込んでから、老人は説明を始めた。
「召喚された者のことを、我々は『精霊』と呼んでいる。
どこの世界の、どんな精霊が召喚されるかは誰にもわからんのだ。
そしてには星というランクがあってな。強力な力を持つほど星が多い。
お前さんは星1。つまり雑魚だ。戦力にならん精霊は、ここで買い手を待ってもらう」
「…買い手がいない場合は?」
「精霊は死ぬと魔気として消えていく。そういうことだ」
なるほど…
ここはまるで、おれの唯一の趣味のスマホゲームの世界みたいなものなんだ。
突然召喚され、弱ければ売られる。ゲームでは売られるとアイテムや金に変換されるが、現実ではそのほとんどがこんな檻の中で消えていくのを待ってるわけか。
「希望を持たせるつもりはないからはっきり言うが、星1の精霊を買う者はほとんどいない」
「まぁ、そうだろうな。わかるよ」
「ほう、随分物分かりがいいんだな。お前のような人間タイプのやつは大抵その理不尽さを叫んで、泣き崩れ、絶望するもんだが」
「……」
「変わった奴だな。悪いが、これは誰にもどうしやうもない運命というやつだからな。こっちも、悪気も悪意もない。
お前を欲しがる者が現れるのを祈っていてくれ」
おれへの最後の言葉なんだろう。老人はフードを深くかぶり直して、その場を去った。
運命、か。
なんの脈絡もなく異世界に召喚されて、最低ランクに格付けされ、果ては死ぬまで牢屋に入れられることなった。
絶望は、してなかった。でも、希望を抱いてもいなかった。
ただ 静かに 心の奥底で
この世界と、この運命への復讐を誓った。