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1-2 side:ターヘラフ・アルハザード

 うだるような暑さである。冬は大雪が降るほど寒いのに(それでも昔に比べてずいぶんと温かくなったが)夏の暑さは日本中どこでも同じらしい。

 日本は寒暖差が激しすぎる、とその褐色の少女は愚痴をこぼした。

 全体的に、変わった格好をした少女であった。白いパーカーのようなものを、この胸糞悪くなるような暑さの中羽織っている。

 その下には無地のワンピース。薄手なのか、着けているかわいらしい下着が透けて見えるような見えないような、かなり奇抜……というより男性諸君の目に悪い恰好であった。

 肩まで伸びた黒髪がねっとりとした海風に揺れる。


「……ここが、能力者特区」


 大通りは若者たちでにぎわっていた。八月も立秋を過ぎたころ、そろそろ夏休み全盛の時期である。

 時折ゲーセンから漏れる電子音に顔をしかめながら、少女は大通りを歩く。指定された集合場所は、ゲートからそう遠くない駅前広場だった。

 約束の時間までもう時間がないが、別に急ぐこともないだろう、と少女はルーズに考えて、寄り道を決行することにした。


「これから仕事場になる街だし、リサーチは大事だよねってことで。言い訳かんせー」


 大通りに並ぶ店を一軒一軒冷やかして、彼女は特区の散歩を楽しんだ。

 入店するたびに両手に提げるビニール袋の数が増えていくのは、彼女の悪い癖だ。ほんの一瞬、環境に悪いかな、という考えがよぎるが、彼女にとっては楽しければそれでいいのであった。。

 そんなこんなで約束の時間からは十分ほど遅れ、待ちくたびれた様子の神経質そうな男が、貧乏ゆすりをしながら立っていた。


「ごっめーん。待ったぁ?」

「謝罪する気が微塵も感じられないのだが。上司に向かってその態度はいかがなものか」


 男は痩身とは似つかない野太い声で、少女に対して怒りを露わにする。一方の少女のほうは気にしていない様子で、口笛を吹いた。


「ひゅー、こっわーい。女の子にそんなこと言ってると嫌われちゃうぞ、なんちて」


 迷惑そうに男は手を振る。あきれてものも言えない、と言ったところか。


「で、仕事って言って呼び出したわけだけど。どうするの? わたし何にも聞かされてないよ」

「あぁ……ターヘレフ。メールを見てないのか? 返信がないと思ったらホントに見てなかったのかよ……!」


 あきれるを通り越して悲しくなってきた男は、ターヘレフと呼んだ少女に向き直った。目頭を熱くしながら。


「いいか、お前の仕事は『護衛』だ。一人の男を護衛してもらう。無期限……厳密には解決手段が見つかるまで、だな。報酬の話だが……」

「え、まってまって、え!?」

「何を驚く必要がある?」


 さっきまで軽い調子でへらりと笑っていたターヘレフの顔が、絶望一色で染まる。


「お、おやすみは……?」

「ないな」

「自由時間は……?」

「ないな」

「ブラック企業だ、今から労基に訴えてくる」

「労基には俺たちの会社の名前はないぞ」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、と腹の底からゾンビみたいな声を出すターヘラフ。

 それを見て、男は頑張れ、と一声かけてその場を去ろうとする。どちらかというと関わり合いになりたくなかったのであった。

 しかし、彼女はそれを許さない。がっしりと男の足にしがみつき、目をギラギラさせながら言った。


「報酬は!!!」

「前金五千万、月々二百万ずつだ」

「よし、受けよう」


 彼女もまた、現代社会にひしめくお金でうごくちゃんの一人なのであった。めでたしめでたし。

 男と別れたあと、ターヘラフは重大なことに気づいた。気づいてしまったのである。

 基本アホの子みたいな印象を同僚、上司、部下それぞれから持たれているが、なんだかんだ飛び級で某世界最高学府をすでに卒業した身である。とにかく頭がいいのだ。学歴社会的な意味で。

 そんなだから気づいてしまった。


「護衛対象、聞いてなくない?」


 自分のアホさ加減に。

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