それはここにて始まり終わり
初めに言っておく、これは、勇者が魔王を倒すお話。すなわちハッピーエンドだ。
だって、そうでないわけがないだろう?
「スライム族、族長、伊村!!」
「御身の前に!」
薄暗い部屋の中で、怒号とも似つかぬ声が響き、それに別の声が応えた。
「一角獣族、族長、角田!!」
「御身の前に!」
その部屋には7体の何かがいた。
「巨人族、族長、金剛!!」
「御身の前に!」
そのうちの6体は跪き、残る1体がそれらの前に立ち、一体いったいに声をかけていた。
「魔人族、族長、真方!!」
「御身の前に!」
名を呼ばれた者達は自らの名が呼ばれると顔を上げ、天よ割けよとばかりに返事をしていた。
「海人族、族長、唸祓!」
「御身の前に!」
そして、その返事は何か大きな覚悟を感じさせるものだった。
「鬼人族、族長、坂守!」
「御身の前に!」
そうして、全員の名を呼び終え、一拍おいて立っている男が言う。
「今、勇者が我らを根絶やしにしようとしている!貴様らに逃げるという選択肢はないか!?」
「ありえません!」
「たとえ何があろうと、我らは魔王様と共に戦います!」
伊村が返事をし、金剛が続けた。
「ならば今!立ち上がれ!立ち向かえ!!我はこれ以上皆を失いたくない!なれば、『生きて帰れ』!!これは命令だ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
そう言うと6体は駆けて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者のパーティは魔王城を目の当たりにしていた。
パーティは勇者、武闘家、魔法使い、僧侶。
勇者は大剣と盾を持ち、武闘家は指ぬきグローブにハチマキ、魔法使いはマントに杖、僧侶は錫杖を装備していた。
その中で、勇者が雄叫びをあげる。
「みんな行くぞ!これが最後の決戦だ!!」
「戦いの中に答えはある!!」
「ここで、魔王の時代を断ち切るの!」
「多くの民が泣いています。彼らのためなら、喜んでこの身を捧げましょう。」
その声に武闘家、魔法使い、僧侶の順番に応える。
「俺たちがお前らをここで止める!!」
「我らが種族に安寧を!!」
「故郷の皆の安寧のためなら…この命、くれてやろう!!」
3人組で魔物が現れた。進むスピードはバラバラで、一気に全滅しないようにとの工夫が見て取れた。
が、
「兜割り!!」「昇〇拳!!」「ファイヤーボール!!」
「ガッ…!!」「グァバ!?」「グァム!?」
勇者パーティにとっては戦闘ですらない。ならば殲滅か?いや、それも違う。彼らにとっては、そう
ただの作業だった
「それがどうした!!」
「アイツらの決意を踏みにじりやがって!!」
「勇者!!お前らはここで倒す!!」
それがどうした、俺たちは止まらんぞとばかりにまた別の3人組が現れた。
だが、
「目障りだ!飛剣 天衝刃!!」
「「「!?」」」
その3人組も声をあげる暇もなく胴体と足を生き別れにされた。
「ここまでは想定内だ!!皆の者!かかれ!!」
そこに立っていたのは真方。そう、先程魔王の御前にいた彼であった。彼の前には無数の魔物達。
先程までの3人組は斥候で、勇者の位置の把握と接近までの時間稼ぎ、そして可能であれば魔力を使わせろ、と命じていたのだ。
よく見てみると金剛と呼ばれていた巨人族の族長もいる。ここで決めるつもりなのだろう。
「『想定内』、か。ククク」
「何がおかしい?」
笑いをこらえるような素振りをした勇者に真方が尋ねた。
勇者は応える。とびっきりの悪意をもって。
「奇遇だなぁ、俺達もだ。コフィー!」
「了解!【インフィニティ・インフェルノ】!!」
魔法使いが自身の使える中で最上位の全体魔法を使った。
地面に亀裂がはしり光が漏れ出す。
「なっ…!?これは…っ!!」
しかしその言葉は亀裂を壊し出てきた炎の爆発によってかき消される。
森が焼け、地面がめくり上がり、砂埃が舞い上がり
世界から音が消えた。
しばらく経ち砂埃が収まると、そこには何事もなかったかのように勇者パーティが佇んでいた。
「さすがコフィー、いい腕してるな。」
「応、俺も真似したいところだ。」
勇者と武闘家がそう囃す。先程までの戦闘も、もはや作業だというように。
「はぁ…男ってほんとバカ。単純って言うかさ…」
「コフィーさん、治癒はご入用ですか?」
「あー、大丈夫だよ!ありがと、リン。」
「ふふ、いつでも、ご入用の時は言ってくださいね?」
魔法使いはどうやら男嫌いらしい。勇者、武闘家と僧侶に向ける態度が全く違った。
「さぁ、最終決戦だ。気を引きしていこう。」
「応!!」「うん!」「はいっ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
舞台は魔王城に戻る。
その中で魔王は雄叫びを上げていた。
「…どうしてこうなったのだ!我は皆とこの隠れ里でひっそりと暮らしていただけなのに、どうしてこうなったのだ!!」
すると、どこからともなく細身の剣士が現れ言った。
「勇者、奴のせいでしょう。」
「克昭…」
「『どうしてこうなった』?そもそも人間が!我らの生活範囲にずけずけと侵入し、国を造り、壁を作り、軍を構え、ひっそりと暮らしていた我らの安寧を奪った!我らは奴らが恐ろしく、奴らを襲うことはおろか、国の内部に入ることすらなかったではないですか!」
克昭は激昂する。それは腹の底を震わせるような雄叫びだった。
そして、克昭は続ける。
「我らの安寧を犯し、根絶やしにしようとしているのは奴らだ!なれば我らが!勇者らを滅ぼすしか…」
「そういうことを言っているのではない!」
魔王が克昭の声を遮って言った。
「我は…我はこれ以上皆を失いとうない!!たとえ、たとえここを捨てて逃げてでも、皆を失いとうなかったのだ!」
「しかし…しかしそれでは!」
「魔王様!」
克昭が何かを言いかけたが、それは唐突に場に現れた伊村に遮られる。
「どうした伊村ァ!?」
「スライム族、戦力の70%以上が壊滅致しました…!」
「何!?」
魔王は驚愕した。
さらに伊村が続ける。
「3人で1体となる『塔の一族』や、8人で王を創り出す禁忌の秘術も使用したのですが…すみません…」
「鋼の一族…そうだ、防御と逃げ足が特徴の鋼の一族はどうした!?」
「それは…
『経験値が多いぜ!ヒャッハアアアアアアア!!』
『おい!ズリぃぞ俺にもよこせ!!』
『やめてください!やめてくださぁい!!』
『はぁ…男ってほんとバカ。あたしにも残しといてね~』
というように優先的に滅されてしまいました…!」
その報告を聞き、魔王は決断を、魔王軍の誰もが考えてすらいなかった、だが魔王は初めから決めていた決断をくだす。
「もう良い。伊村!残った者達を連れて逃げよ!!」
「で、ですが…!」
予想外の命令に戸惑う伊村。だが魔王は反論をさせずに言う。
「良いのだ。我はこれ以上お主らを失いとうない。これ以上はもう無理だ、早く逃げよ!!」
「…はっ!御心のままに!!」
魔王は決断し、伊村がそれに応えた。
心なしか井村は鼻声になっていたが。
「魔王様!!左翼、中央艦隊、損害60%以上です!」
そう言いながら報告をしたのは鬼人族が族長、坂守だった。
「なっ…!坂守、何があった!?」
「奴ら、全体殲滅魔法を使ってきました!」
「何!?御伽草子ではなかったのか!?」
「この坂守、しかと見ました。巨大な炎が唐突に現れ皆を蹂躙するのを…!金剛殿も…それで…」
どこか痛みを堪えるように言う坂守。
それに応えたのは克昭だった。
「ならば!ならば右翼と合流し撤退せよ!!」
「克昭殿…右翼は…真方殿率いる右翼は、壊滅致しました…!!もう、撤退などできませぬ。」
「ならば私が、私自らが出る!!」
魔王も坂守もどちらも驚いた様子であった。
無理もない、魔王の直属の部下が動くというのだ。それも軍の撤退のための、いわば鉄砲玉の役割のために、だ。
「か、克昭…」
「魔王様、此度の蛮行どうして許せましょうか?鋼の一族は私欲のために殺され、右翼、中央、左翼は戯れに蹂躙されました。此度の蛮行どうして許せましょうか!!それは私の、鬼人族としての矜持が許しませぬ!!必ずや、必ずや勇者に一泡吹かせてやりましょうぞ!!」
克昭は吼える。高く、尊く。
己が矜恃を保たんがために、一足先に逝ってしまった己が仲間を想うが故に。
「克昭殿…」
「克昭、二言はないのか?」
「あるはずがございませぬ!我らが仲間を殺されて、どうしてのうのうとしていられましょう!?」
故に克昭は決意する。ここで奴らの蛮行を、侵略を、略奪し、搾取せんとする勇者を止める、と。
そして、魔王は心中を吐露する。部下の、否、一人の友を前に言う。
「そうか…克昭、お前は我の良き友であった。我はお主だけは失いとうない。」
「ですが…っ!!」
「しかし!!お前には二言がないのであろう?全く、我の周りには頑固者ばかりだ。…克昭!!」
「はっ!」
「必ずや生きて帰るのだ!坂守、克昭に任せて皆を撤退させるのだ。良いな!?」
「「…はっ!!」」
そうして2人は戦場へ向かった。
残されたのは魔王ただ1人。
そして魔王は独白する。
「克昭…我はお前を失いとうない。必ずや、必ずや生きて帰れよ克昭ぃ!!我はまたお前と酒盛りを、杯を交わしたいぞ…」
「魔王様ぁ!!」
魔王が言い終わるが早いか伊村が再び入ってきた。
「どうした伊村!?」
「全スライム族の撤退、完了致しました。…しかし、克昭殿が…克昭殿が封印されてしまいました!!」
報告に魔王は凍りつく。無理もない、まだ克昭が出てから数分と経っていないのだ。
「何!?それは…それはあまりにも…!!」
「奴ら、女神族とも結託していたらしく、それで手に入れたもので克昭殿を…!!」
「もう良い!!」
ここに来て初めて魔王が激昂する。
部下を、友を、民を想い誰も傷つかないようにと願い
この場の誰よりも命を尊んでいた魔王が、猛る。
「魔王…様…?」
「もう良い、我が出る!民も領地も、友までもを蹂躙されたのだ!これが黙っていられるか!?全軍に通達する!全員撤退だ!!我が勇者に天誅を下す!!」
「魔王様…それではっ!」
「我の命令が聞けぬのか!?全軍撤退だ!異論は認めんぞ!!」
「魔王様…どうか、どうかご無事で…!!」
そして場面は移りゆき、勇者一行が魔王の眼前に来ていた。
魔王は無表情で佇み、いかにも無防備であった。
「ついに見つけたぞ、魔王!!」
「無辜の民をさんざん傷つけて…今日この場でお前を倒す!!」
そのセリフを受け、魔王の顔が憤怒に彩られる。
「無辜の民をさんざん傷つけて?それはこちらのセリフだ。それはこちらのセリフだ!!」
魔王は吼える。天よ割けよとばかりに、喉よ焼けろとばかりに。
「そもそも我らの生活区域に侵入してきたのは貴様らではないか!!我らは決して貴様らの国には入らなかったではないか!!どころか『気持ち悪い』だとか『ケダモノ』だとか、我らを迫害したのは貴様らであろう!?だのに、だと言うにそのうえ貴様らは我らを根絶やしにしようとするか!?ならばもう良い、我がここで貴様らを―」
「うおりゃあぁああああああ!!」
魔王が、斬られた。
突然の出来事に魔王は膝をつく。
「グッ…!我の話も聞かずに不意打ちか!」
「黙れ!!魔王の話になど耳を傾けてたまるものか!!」
勇者パーティ達も「その通りだ」「当たり前だ」「悪の権化であるお前が何を言っている!!」などと言っている。
「卑怯なり卑劣なり愚劣なり劣悪なりぃぃぃぃぃいいいいい!!」
魔王は絶叫する。しかし
「うるさい!!お前の敵は全世界だ!!不意打ち闇討ちくらいでがたがた言うな!!」
そう言った勇者に肩から袈裟斬りにされ、床に血を撒き散らし、骨を晒しながら、魔王は動かなくなった。
「よし!みんな、ようやく魔王を倒したぞ!!今夜は焼き肉だ!!」
「うおっしゃあ!肉だ!!そうと決まれば早く帰るぞ!!」
「全く…これだから脳筋は…支払いは勇者が持ってよね〜」
「ついに…終わったのですね。長きに渡る戦いが…!」
倒した瞬間、勇者一行の様子は激変し、ダッシュで帰っていった。
その直後、魔王に駆け寄る影が2つ。
「「魔王様!!」」
伊村と坂守だった。
その声を聞いて、魔王がピクリと反応する。
「…伊村と坂守か…よくぞ、よくぞ無事で…」
「魔王様、勇者は!?」
「帰った。今日は焼き肉らしい。」
その言葉を聞き、伊村の血相が変わる。
「そんなっ…坂守殿!今すぐ部隊を編成し、報復の準備を…」
「ならぬ!!」
「お言葉ですがっ…!」
「ならぬと言っておろう!!我らは何かを間違えた。探すこともなくな。我らは正しさを履き違えた。誰かが責任を負わねばならぬのだ!!」
トップが責任を負うのは、社会の理であろう?と、魔王は言う。
「ですが魔王様!それでは我らの存在の意味が!!」
「我は!!」
食い下がる坂守に、魔王は一括を入れて言う。
「我はお主ら全員に生きていて欲しいのだ!だから、今すぐに逃げ延びよ!!」
その言葉を聞き、自らはもう長くは持たないとこの御方は悟っている、と伊村と坂守は悟り、涙を零して言った。
「随分と、強欲なんですね…?」
「当たり前だ。魔王、だぞ?」
次の世代を、お前に託すぞ、伊村。
その言葉を最後に魔王は息絶える。
伊村は立ち上がる。震える手を握りしめ、歯を食いしばり、目をギラつかせて宣誓する。
「俺は…いや、我は!!貴様を絶対に許さんぞ、勇者ァ!!」
暗闇の中に克昭が一人いた。
「私は虐げられたから、己が存在の意義を、己が矜恃を保たんがために戦った!その事が間違いであったなど、誰にも言わせはせん!!」
そう言うと克昭はどこかへと消えていった。
また、暗闇に勇者が現れる。
「俺は王に頼まれて人々を襲う邪悪な魔物共を撃退した!王が嘘をつくわけが無い!そのことが間違いだったなど、誰にも言わせない!!」
そう言うとやはり勇者も闇へと消えていった。
最後に出てきたのは、魔王。
「我らが視点から見れば我らが一分のすきもなく正しいのは当たり前だ。我は正しさを履き違えていた。なら!ならば正しさとはなんぞ?我は答えを見つけえなかった。全魔王軍に告ぐ!正しさとは何かを考えよ!!我はその役目を、貴様らに託すぞ!!」
正しさとはなんなのか、我らには分からない。
どちらにつくかで良い・悪いなど容易にひっくり返る。
ならば
正しさとは何なりや?
言ってしまいましょう、これ、ポシャりました。
ついカッとなって投稿したのですが、割と人気が出ててびっくりしています。
文化祭の劇?まぁ、ご想像にお任せします。
セリフすべてに(棒)がつくと言えばわかりやすいでしょうか?
実はポシャったのがもうひとつあるのですが、出すかどうか迷っています。