僕と君とポプラ並木と。
はじめて書いた短編です。おかしな表現などあるかもしれませんが楽しんで頂けたら幸いです。
あれはきっと秋だったと思う。
瞼に残る記憶の景色は今も色褪せていない。
黄色い葉を纏うポプラ並木。
その散歩道を君とーーーー。
「またそんなものを見ているの?」
聞き慣れた声は僕の視線を"そんなもの"から"君"へ奪われた。
"そんなもの"とは僕の唯一の特技であるギターのスコアブックである。さっき買ってきた。
しかし、その特技を"そんなもの"と言われたのだ。当然、反論しないわけがない。が。これはいつものことなので出来る限り、この憎しみの総てを込めて慇懃に対応してやった。
するとどうだろう?これが面白いんだ。君は「え?何、めっちゃ他人行儀じゃん…。」そう、この反応だ。これを待っていた。この女は気にしいなのか友達がこういう言動をすると怒らせちゃったのかな?と敏感すぎるほどに感じ取る性格なのだ。発見者僕。せっかくのお宝である、しばらく続けてみることにしよう。
5分くらい経っただろうか。会話も弾まなくなったので今の話は全部うそ。とフレンドリーないつもの感じに直した。
「あれ?怒るの終わった?」
怒るの終わった?そんな日本語は初めて聞いたが…まあいい。長い長い休講の時間もそろそろ終わる。席に座るよう君を促した。
とまあ。ここまでが普段の僕と君の交流である。
周りからは付き合ってるんじゃないの、とよく誤解されるが恋をするにはとても身近で女の子というよりも男友達のようで…。
「ねぇ!」物凄い勢いで君がやってきた。だがあまり嬉しくない。君のねぇ!は何か企んでいるときに必ずと言っていいほど聴取される。発見者僕。これはあまり面白くないお宝なのでサルベージには失敗した。
「ドライブ連れてって!ここ!」
…ちょっと待て。今耳を疑ったぞ。連れてってと言ったのか、つまり運転は僕ということなのか?
「うん、そだよ、だって私免許ないもん」
でた、これである。向こう見ずで無鉄砲で無謀なプランニングの達人、いや鬼。全力でノーサンキューです。
いいじゃないと欲しいものをねだる子供のように駄々をこねる君…ああここからが長いのだ。君にもっと手練手管な魅力があれば僕もイチコロだったのだが…ふと君が指差した目的地に目をやると
"秋のおすすめ!ポプラ並木!"と書かれた文字。君にしてはセンスがいいじゃないかと口からこぼれてしまった。
「だってそういうの好きじゃん。外の樹とかよく見てるし…」
なるほど今回は自分だけでなく僕のことも考えてくれたのか。ちょうど見に行きたかったというのも嘘ではないのでしぶしぶ受け入れることにした。
約束の日、親の車を借りて待ち合わせの場所へ向かった。するとそこに立っていたのは"女の子"だった。秋っぽい大人っぽい色合いの服を着て、しかもミニスカートである…ミニスカートである!!信じられない!年がら年中パンツスタイルの君が…と車の窓越しに一通り感嘆した後に君を助手席に乗せた。
化粧のせいか普段よりも可愛く見える。別に普段が可愛くないというわけではないのだが、それに少しいい匂いがする。相応しい表現かどうかわからないがいわゆるギャップ萌えというやつなのか?萌えているのか?
しかし君がここまで仕上げてきたのだ。さぞかし時間もかかったろう。ここは労いの一つや二つを込めて褒めるべきなのだろうが言葉が出てこない。似合ってるよとか、可愛いよ、とか言うべきなのはわかってる。だが言葉が喉を通らない。しかもこんな時に限って君は無口だ。サイドシートに座ってから暫く無口だ。ああもう、もどかしい状況にイラっときたが僕も男だ。言ってやろう。
…綺麗だね。そう呟くように搾り出すように捻り出すように言葉を投げた。
「え!?あっうん、そだね!景色!紅葉が凄いね!」と君は久しぶりに口を開いた。が。
おいおいおいおい!違うだろ…じれったい気持ちを押し込めながらカーステレオに手を伸ばした。
あれから何分、いや何時間経ったろう。オーディオも何周かしている。目的地が遠いのはわかっていたが、まさかここまで二人きりの時間が狭くて苦しい時間になるとは思わなかった。なにか話を振ろうとして左を向くと、優しい寝息をたてた柔らかな寝顔があった。そっとオーディオの音量を下げた。
ついに目的地に到着するところまで来たので、君を起こそうとしたのだが…もう少しだけこの寝顔を、この表情を見ておきたかった。目の前のポプラ並木よりも。
やっぱりだ、君を見てると心が揺れる。いつぶりの感情だろう。名付けようもないこの感情。このままそっと…もう昨日までの二人には戻れないね。
君を起こし夕暮れ時の散歩道を肩を並べて歩いた。やはり見頃の時期なのだろう。観光客がとても多く感じられる。自然と君との距離も近くなった。肩が触れ合うほどに。
散歩道も終わりに差し掛かる頃、不意に君が車に戻ったら話したいことがある。とつられて僕も話があると言った。
そして、エンジンの音がない車中で僕たちは友達をやめた。
僕と君とポプラ並木と。この秋の思い出は二人の一生の思い出になるだろう。
だから今年も訪れた。この散歩道に。君と。